■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

金井 和宏
(かない・かずひろ)

1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
Lis. master's voice

 


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第52回:車中の出来事

■更新予定日:隔週木曜日

第53回:テスト・マッチ

更新日2005/06/16


現在、ラグビーのアイルランドのナショナル・チームが来日しており、先日6月12日(日)、大阪の長居陸上競技場で、日本代表と第1回のテスト・マッチ(国と国の代表チーム同士の試合)が行なわれた。先週は、同じフットボールの日本代表でもサッカーの北朝鮮戦の方に日本人の関心の99.9パーセントが集まり、ラグビーの国際試合が行なわれたことさえ知らない人の方が多かったようだ。

一方は、W杯出場のかかった大一番、方やW杯とは無縁の地味な国際試合に過ぎないとしても、この認知度の違いはかなり由々しき問題ではないかと思う。そう言えば、前回のラグビーW杯出場が決まるアジア最終予選の韓国戦も、テレビの地上波では一切放映がなかった。

更に言わせてもらえば(愚痴になるので止めようかとも思うが、勝手に手がキー・ボードを叩いている)前回のラグビーW杯の日本代表戦でさえ、録画放送なのだ。放映したテレビ東京が、実際に試合が行なわれていたリアル・タイムの時間帯に流していたのは、何と「日本の名湯、温泉宿の美人女将シリーズ」だった。

なぜここまでの扱いになるかと言えば、とても残念なことだが、現在の日本代表の力不足と言うことにつきるのだと思う。過去のW杯の戦績は1勝15敗、唯一勝利したジンバブエ(当時のアフリカ代表)戦は既に14年前の第2回大会での試合。しかも、アパルトヘイトを解いて南アフリカが国際舞台に戻ってから、ジンバブエという国はW杯に顔を出していない。

冒頭のアイルランド代表との第1テスト・マッチは12-44で敗れた。今回のアイルランド代表は、British and Irish Lions(以下ライオンズ、イングランド・スコットランド・ウエールズ・アイルランドの連合チーム)が南半球の強豪チームを相手の遠征に出ているため、現在の主力選手抜きのメンバーだ。

現在の主力選手のうち12人がライオンズ遠征に参加したため、かなり戦力が落ちたように見受けられがちだが、さすがに層の厚い伝統国のため、非常に経験の多いベテラン選手と若手選手をうまくブレンドした、よく機能するチームに仕上がっていた。殊に若手選手は「本当の」代表入りするために、主力選手よりもより激しいパフォーマンスを見せることが多い。

スコアの上では12-44、昨年11月の日本代表欧州遠征でのスコットランド戦、8-100、ウエールズ戦、0-98に比較すれば、それなりに試合になったように見えるが、実際は惨憺たる内容のゲームだった。

日本代表はマイボールのラインアウト(ボールがタッチラインから外に出た場合、原則として出さなかった側《ペナルティー・キックでは蹴り出した側》が両チームのフォワード《以下FW》の選手がタッチ・ラインに垂直に1メートルの間隔を開けて対峙している中にボールを投げ入れること。通常は投げる選手と受け取る選手のサイン・プレーで味方がボールを獲得する)はことごとく奪われる。

スクラム(軽い反則プレーがあった時、FWの選手がしっかり身体を密着させてスクラムを組み、双方のスクラムが押し合っている状態の中央に、反則を犯さなかった側がボールを投入すること。これも通常は投入選手とスクラムの中でそのボールを掻く選手のサイン・プレーで味方がボールを獲得する)では、相手のプレッシャーに耐えきれず、無理にスクラムを崩すという反則を繰り返す。

このような攻撃の起点ですでに相手にボールを奪われ続けていたのでは、もともと力の差のあるチームなのだから勝てる見込みはない。日本代表の個々の選手のレベルはかなり高いものがあっても、残念なことにチームとして機能していないため、力が結集されて相乗効果を生むことができないでいる。

これは、戦術、コーチング、練習法などにいろいろな問題があると思えるが、私は第一に「日本代表」のステータスを確保することが大切だと考える。日本代表になることが、どれだけすばらしいかということを代表選手に、そして代表を目指している多くの選手たちにしっかりと認識してもらうことが何より必要なのだ。

今回のアイルランド代表が、ホテルのサービス、食事の内容について執拗なまでに注文を付けてきて、日本での関係者を手こずらせたと聞く。テレビの解説者も話していたが、これも代表選手としてのプライドを植え付けるための、アイルランド・ラグビー・ユニオンの当然の計らいだ。

他の強豪国たちも、代表チームは国で最高の特別なチームであり、そこに選ばれた選手は最高で特別な選手であることを、いろいろな方法で選手たちに認識づける。だから、代表選手に選ばれることは、子孫まで語り継がれる最高の栄誉であり、矜持なのだ。

翻って日本を見たとき、その現状はあまりに寂しい。せっかく代表入りをしても「自分のチームのキャプテンになったので代表は辞退します」という選手も珍しくない。何を置いても代表チームへという意識が薄すぎる。

前出の昨年の欧州遠征を行なった選手を見ても、けっしてベスト・メンバーとは言い難い。どのような国内事情があったとしても、ウエールズ、スコットランドあたりの伝統国とのテストを行なうときに、その時点の最高の選手で臨まないのでは話にならない。あの絶望的なスコアになるのは当然だと思う。

今度の日曜日、私はほぼ1年ぶりに秩父宮ラグビー場に行く。日本代表とアイルランド代表の第2テストを観るために。いろいろな不満、不安材料が山積していようと、代表選手が矜持を持ってもらうためにも、やはり声を嗄らしてジャパンを応援したいと思う。僅か1週間の間に、飛躍的な軌道修正がなされているとは思えないが、前回の試合後の箕内キャプテンの澄んだ瞳に一縷の望みを託す。

同行する人々には悪いが、当日は梅雨の中休み、高温多湿の、立っているだけで汗ばむような晴天であって欲しい。樺太とほぼ同緯度からやってきた戦士たちの強靱な足を、1分でも早く止めてしまいたいから。

 

 

第54回:カッコいい! カッワイイ!