第260回:流行り歌に寄せて No.70 「再会」~昭和35年(1960年)
何回か前にご紹介した『東京ナイトクラブ』はフランク永井と、同じレコードのもう片面の『グッド・ナイト』は和田弘とマヒナスターズと共演した松尾和子。その後のマヒナとの『誰よりも君を愛す』では、昭和35年、第2回日本レコード大賞を受賞している。
その彼女が、ソロ歌手としてデビューした曲が、今回の『再会』である。妖艶そのもの、大人の女の雰囲気が匂い立つような歌唱だが、まだ25歳になって間もなくだというのだから、戸惑ってしまう。25歳と言えば、先日無事AKB48を卒業した大島優子の年齢である。
再三繰り返すが、今の人に比べて、昔の人は大人になるのが相当早かったのだろう。
「再会」 佐伯孝夫:作詞 吉田正:作曲 松尾和子:歌
1.
逢えなくなって 初めて知った
海より深い恋ごころ
こんなにあなたを 愛してるなんて
あぁあぁ 鴎にも わかりはしない
2.
みんなは悪い ひとだというが
わたしにゃいつも いいひとだった
小っちゃな青空 監獄の壁を
あぁあぁ みつめつつ 泣いてるあなた
3.
仲よく二人 泳いだ海へ
ひとりで今日は 来たわたし
再び逢える日 指折り数える
あぁあぁ 指さきに 夕日が沈む
この曲の詞の内容は、かなり重いものがある。おそらく彼女が好きになったのはヤクザの男性。傷害事件か何かで服役中の彼への思いを歌ったものだろう。
そう考えながら3番の詞を読むと、泳いでいる男の裸の上半身にはきっと彫り物が施され、色気のある水着を着た女との絡みの情景は、恐ろしく官能的である。
私は、彫り物を入れる理由も勇気もまったく持ってはいないが、こういう曲を聴くと、なぜかあの背中一面の色彩感に憧れてしまうところがある。心の深いところに小さく隠れている男の生理的な火種に、一瞬ボッと火が付く感じなのだ。
前回の『潮来笠』などの股旅シリーズ、『東京ナイトクラブ』『再会』などの大人の雰囲気を前面に押し出したもの、かと思えば『寒い朝』『いつでも夢を』と言った爽やかな青春歌謡。佐伯、吉田コンビの作り出す歌の世界は、実に幅が広い。
『再会』から11年の昭和46年、このコンビが再び女盛りの松尾と組み、満願成就、彼の出所の日の朝を歌った曲を世に出した。タイトルは『再会の朝』、いわゆる続編ソングで、続編ソングの宿命の如くほとんど売れなかったようである。私はこの曲のことを今回まで知らなかった。
1.
指折りかぞえ また逢える日を
涙こらえて 待ってた私
ようやく鉄の 扉があいて
出られたあなた いい人あなた
泣いたりしない
2.
乱れた髪を どうやらまとめ
ひとりで私 迎えに来たの
あなたの襟の ちっちゃなチリを
つまんだ指も いつもの指よ
ふるえているの
3.
朝霧晴れて 呼んでる並木
喜ぶように かがやく緑
ゆっくり話し いたわりながら
あなたにすがり 強く生きたい
これからの二人
単純に計算すれば、懲役11年の刑だったことになる。単に傷害罪だけでは刑期が長すぎる。あるいはもっと重大なことをしていたのか。
25歳だった彼女は36歳、それだけひたすら待ち続けて、これから二人の人生をやり直すことになるが、やはり多難な道のりになることは間違いない。
それを覚悟しながら生きることができる、やはり女性は強いのだなあと感じてしまう。男が夢見る「待つ女」を描いた、飽くまでも歌の世界のことなのだが、逆の立場の歌は、決して生まれはしないだろう。
さらにもう少し考えを進めると、映画『幸せの黄色いハンカチ』と同様、待つ女たちにとって再会を果たしたその日こそが、彼女たちの人生の中で最高の日なのかも分からない、そんなふうに思ってしまった。
-…つづく
第261回:流行り歌に寄せて
No.71 「達者でナ」~昭和35年(1960年)
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