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第475回:流行り歌に寄せて No.270 「許されない愛」~昭和47年(1972年)3月10日リリース

更新日2024/03/14


沢田研二の、ソロ歌手としての2枚目のシングル・レコードである。ファースト・シングルの岩谷時子、宮川泰コンビによる『君をのせて』の甘く美しいバラードとは、まったく趣の異なる曲。Wikipediaでは、ジャンルの項にプログレッシブ・ロックとある。その後のジュリーの音楽を方向づけた曲だという気もする。

この頃の音楽界は、日本のロックを作り上げ、発展させて行こうという意気込みが、かなり強かったのだと思う。その代表的なシンガーとしての役割を、ジュリーに荷わせたかったのではないか。

その強い意気込みは、レコーディングの場所を、ロンドンのオリンピック・スタジオにしたことでも充分に伺える。オリンピック・スタジオといえば、当時、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリン、ジミ・ヘンドリクスなど、ロック界のキングたちが録音を行なっていたスタジオである。

実は、この『許されない愛』は、発売の前の年、昭和46年12月21日にリリースされた、沢田研二の2作目のオリジナル・アルバム『JULIE Ⅱ』からのシングル・カットであって、このアルバムそのものがオリンピック・スタジオで録音された。

このアルバム、全曲が、作詞は山上路夫、編曲は東海林修によるものであり、作曲はジュリーと所縁の深い錚々たるメンバーが担当している。それは曲順に、東海林修、かまやつひろし、クニ河内、井上堯之、大野克夫、加瀬邦彦、筒美京平、すぎやまこういち。そして、演奏は現地の「オリンピック・サウンド・スタジオ・オーケストラ」が全面的に参加しているという。

この文章を書きながらも、「このLP、何とか手に入らないかなあ」と思ってしまうほどのとんでもない1枚なのだ。けれども、今ではYouTubeで、そのすべてを聴くことができる。

それらを聴いていると、この『許されない愛』だけが、殊にロックを意識した曲調になっている。アルバムを制作する時点で、すでにこの曲をシングル・カットすることが決まっていたのではないかという気がするのである。


「許されない愛」  山上路夫:作詞  加瀬邦彦:作曲  東海林修:編曲  沢田研二:歌


忘れられないけど 忘れようあなたを

めぐり逢う時が 二人遅すぎた

愛の炎は消し 暗い絶望だけ

胸に抱きしめて 僕は生きてゆく

だけどもしも ここにあなたが

いたなら駆け寄り すぐに抱くだろう

あなたを連れ去り 逃げて行きたい

 

忘れられないけど 忘れようあなたを

誰も許さない 愛のさだめなら

帰るところのある あなたなら遠くで

僕は幸せを ひとり祈るだけ

だけど命 かけた愛なら

今すぐあなたの もとへ戻って

どこかに奪って 逃げて行きたい

 

山上路夫は、実に多才な作詞家である。いつもは穏やかで、ヒューマニティックな歌詞が多い気がするが、このような、今でいう不倫を扱った詞も披露してくれる。これまでにもいくつか、そして、これからも何度もご紹介する機会があることだろう。

作曲の加瀬邦彦は、慶應義塾大学に在学中に「ザ・トップビーズ」を結成、その後「キャノンボール」「ザ・スパイダース」「寺内タケシとブルージーンズ」とバンド遍歴を重ね、「ザ・ワイルドワンズ」のリーダーとなった。

ザ・ワイルドワンズのメンバー、鳥塚繁樹の詞による『想い出の渚』をはじめ、ザ・ワイルドワンズの作曲を数多く手掛け、また、ザ・タイガースに『シー・シー・シー』(安井かずみ:作詞)を提供している。

沢田研二には、この曲の他にも何曲か提供して、それらはすべて大ヒット曲となり、彼の音楽プロデューサーも務めていた。

編曲の東海林修は、ジャズ・ピアニスト、シンセサイザー奏者としても手腕を発揮しているが、編曲家としての歴史も長い。古くは、中尾ミエの『可愛いベビー』を始め。洋楽カヴァー・ポップス作品を多数編曲している。

ザ・ピーナッツの『ウナ・セラ・ディ東京』。元々は、岩谷時子:作詞、宮川泰:作・編曲の『東京たそがれ』という曲だったが、ヒットの気配がなかったため、東海林修が再編曲をし、曲名も変えてリリースしたところ大ヒットになったという話もある。

ザ・ピーナッツの話しが出たところで、実は、この『許されない愛』は、彼女たちもカヴァーしているのだ。アルバム『ザ・ピーナッツ 昭和歌謡を歌う』の中の収録曲のひとつで、『四つのお願い』『わたしの城下町』『手紙』『終着駅』などとともに、入っている。ジュリーの歌唱とは一味も二味も違った、お洒落なポップスに仕上がっていて、姉妹デュオの魅力を存分に楽しめる。

-…つづく

 

 

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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