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■鐘を鳴らそう 鳴らせば鳴る鐘が、まだあるのだから~音羽信の心に触れた歌たち

更新日2025/06/19




【新連載】

鐘を鳴らそう

鳴らせば鳴る鐘が、まだあるのだから


~音羽信の心に触れた歌たち~


音羽 信



第3回:墓碑銘(エピタフ) by ピーター・シンフィールド

アルバム 『キングクリムゾン宮殿』より

壁に記された言葉

むかし預言者が書きつけた言葉。

石を積んだ石の壁の

石と石のつなぎ目から

石と石とが裂け剥がれるようにして

石の壁が壊れ始めている。



処刑台に太陽の光が差して

処刑台がキラリと光る。


悪夢と夢

夢は夢でも違う夢

そんな全く違う夢と夢とに

体を引き裂かれれば

誰れの目にだって涙がにじむ。

誰れの目にだって涙が浮かぶ。

優れた詩人に捧げられる月桂冠を

捧げてくれる人など、どこにもいない。

捧げられる人だって、どこにもいない。

だって今は叫び声が

沈黙の静けさの中に消え入ってしまう

そんな時なのだから。

 

私の墓にはきっと

何が何だかわからない、という言葉が

そんな墓碑銘が記されるだろう。

 

私が石の裂け目から現れた道を

崩れ落ちた石の路を進む時

 

もしも私たちがその路を

前へと進むことができたなら

もしかしたらその先に

くつろぎの時が私たちを

待ってくれているかもしれない。

 

けれど私は明日が怖い。

だってそこにはきっと

泣き叫んでいる私がいるから。

そう私は、明日が怖い。

だってそこにはきっと

泣き叫んでいる私がいるから。

だってそこにはきっと

泣き叫んでいる私がいるから。

 

私たちが辿り着く先には、きっと

鉄で出来た門がある。

その門の鉄の扉と鉄の扉との間に

時の種が撒かれたこともあった。

誰からも賢者として知られる賢者たちが

その種に水をあげたこともあった。

種を育てて大きな木にして

鉄の扉が閉まらないように

そこが私たちの

最後の場所とならないように

誰からも賢者として知られる賢者たちが

撒かれた種に水をあげたこともあった。

 

壁に記された言葉

遠い昔に預言者が書きつけた言葉。

石を積んだ石の壁の

石と石のつなぎ目から

石と石とが裂け剥がれるようにして

石の壁が壊れ始めている。

 

処刑台に太陽の光が差して

処刑台がキラリと光る。

 

悪夢と夢


同じ夢でも違う夢

そんな夢と夢とに

体を引き裂かれれば

誰れの目にだって涙がにじむ。

誰もが涙を浮かべる。

優れた詩人に捧げられる月桂冠を

捧げてくれる人など、どこにもいない。

捧げられる人だって、どこにもいない。

だって今は叫び声が

沈黙の静けさの中に消え入ってしまう

そんな時なのだから。

 

私の墓にはきっと

何が何だかわからない、という言葉が

そんな墓碑銘が記されるだろう。

 

私が石の裂け目を

崩れ落ちた石の道を進む時

もしも私たちがその路を

前へと進むことができたなら

もしかしたらその先に

くつろぎの時が

私たちを待ってくれているかもしれない。

 

けれど私は明日が怖い。

だってそこにはきっと

泣き叫んでいる私がいるから。

そう私は明日が怖い。

だってそこにはきっと

泣き叫んでいる私がいるから。

だってそこにはきっと

泣き叫んでいる私がいるから。

 

人々が泣き叫ぶ声が聞こえる

人々が泣き叫ぶ声が聞こえる

そう私は明日が怖い。

だってそこではきっと

私も泣き叫んでいるから。

そう私は明日が怖い。

 

だってそこではきっと

私も泣き叫んでいるから。


Epitaph - Peter Sinfield
《In The Court Of The Crimson King》

 

まるでこの世の終わりのような、黙示録のようなこの歌もまた、『キングクリムゾン宮殿』のなかの一曲。『21世紀の精神異常者』と同じくピーター・シンフィールドが書いた歌詞。彼はキング・クリムゾンに、楽器のプレーヤーとしてではなく、最初から歌詞を書く詩人として参加していた。キング・クリムゾンにはギターの魔術師ロバート・フィリップをはじめ、どんな楽器でも弾きこなせるイアン・マクドナルド、比類なきヴォーカルとうねるようなベースのグレッグ・レイクなど、一騎当千のミュージシャンたちが結集していた。そしてその中に、ピーター・シンフィールドは詩人としてクレジットに記載されていた。つまり彼は単なる作詞家ではなく、キング・クリムゾンという歴史的なバンドのれっきとした楽器を弾かないメンバーだった。ロックムーヴメントの中で無数のロックバンドが誕生したが、このケースは極めて珍しい。つまり彼はこのバンドに必要不可欠な存在としてメンバーとなり、この歴史的なデビューアルバム全体のヴィジョンを創ったのだ。彼の言葉がなければ『キングクリムゾン宮殿』はなかっただろう。彼はまたグレッグ・レイクが、この後すぐにキース・エマーソンとカール・パーマーと共に結成たスーパーバンド、『ELP』にも詩を提供している。

それにしても、ロックの第一次ムーヴメントが終わりを告げた時期とはいえ、このアルバムが発表された1969年には、ウッドストックがあり、それを契機に、ややアンダーグラウンド的な要素も持っていたロックが、実に多彩な新たなバンドの登場によって巨大な広がりを見せ始めた。この時期に発表されたにしては、前回の『21世紀の精神異常者』と同じく、あまりにも絶望的なデストピア的な歌詞。

ちなみに、このアルバムが発表された前年の1968年には世界で何が起きていたのかといえば、マーティン・ルーサー・キング師とロバート・ケネディが暗殺された。フランスがサハラ砂漠で水爆実験をし、日本では新宿で学生たちが駅を占拠し騒乱罪が適用されて多くの若者たちが逮捕された。翌年の7月にはアポロ11号が月面着陸をしていて、まさに闇と光、悪夢と夢とが混在していた。


ヨーロッパの常識の中では、預言者とは、神の言葉を受け取って人々に伝える役割を持つ人のことで、旧約聖書にしばしば登場するが、民を諭し乱れた世に警告を発したりした預言者たちのほとんどは不遇な目に遭っている。イエスもまた預言者の一人だが、やはり処刑されている。彼らは自らの存在をかけて善悪や人の道を説いた。しかし神が何処かに行ってしまった今、そして月桂冠を授ける人も授かり人もいない今、詩人たちはどんな言葉を誰に何を信じて伝えればいいのだろう。この歌は、まるで今を歌っているようだ。

しかし叫び声さえ沈黙の静けさの中に消え入ってしまうとしたら、叫び声は誰の耳に届くのだろう? 私の叫び声だって同じ。不気味な沈黙の中で、鉄の扉は遠からず閉まってしまうのだろうか? その先はもうないのだろうか?

改めてこの歌を聴くとき、切なさが胸に迫る。

 

 

No.2-02
Peter John Sinfield

 


King Crimson - Epitaph

https://www.youtube.com/watch?v=vXrpFxHfppI


…つづく

 

 

 back第4回:もうすぐ、激しく激しい雨が、降る by ボブ・ディラン 
   アルバム『The Freewheelin' Bob Dylan』より

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

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第1回: レナード・コーエン Anthem(聖歌)より
第2回:21世紀の精神異常者 by ピーター・シンフィールド~アルバム 『キングクリムゾン宮殿』より

 

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