のらり 大好評連載中   
 

■明日の大人たちのためのお話

更新日2020/09/10

 

 

チョウチョのフワリ


チョウチョのフワリは、チョウチョになったばかりの白いモンシロチョウです。フワリはなんにちかまえにチョウチョになりました。チョウチョになるまえはサナギでした。サナギになるまえはアオムシで、そのまえは小さな卵でした。けれど、フワリがおぼえているのは、アオムシになったときからです。

フワリのお父さんとお母さんは、フワリがアオムシになるまえに死んでしまいました。ですからフワリはお父さんとお母さんのことを知りません。フワリはひとりぼっちでそだったのです。

フワリはアオムシのときには、卵から外に出たときにそこにあったキャベツを食べておおきくなりました。卵からでたときに、すぐにひとりでごはんがたべられるように、おかあさんがキャベツのうえに卵をうんでくれたのです。そのことをフワリは知りませんでした。でも卵から出てきたときに、すぐにじぶんの足の下にある青い葉っぱがごはんだということがわかりました。キャベツの葉のにおいが、とてもとてもおいしそうだったからです。

食べてみると、キャベツはほんとうにおいしかったので、フワリはむちゅうでキャベツを食べました。もぐもぐもぐもぐ、どんどんどんどん食べました。まいにちそうしてキャベツをどんどん食べていると、からだがどんどん大きくなりました。それでもっとキャベツを食べると、もっと大きくなりました。フワリはなんだかうれしくなってますますキャベツを食べました。そうしてフワリはますます大きくなりました。

ところがある日、フワリがいつものようにキャベツを食べようとすると、なぜかお腹がいっぱいで、体もパンパンで、もうこれいじょうは食べられないよう、と体のなかから声がしました。するとなんだかねむくてねむくて、もう目をあけていられなくなりました。

そうしてフワリはぐっすりねむってしまいました。フワリの体がサナギになりはじめたのでした。アオムシのフワリの体のひょうめんが、だんだんかわいてかたくなり、カサカサしたカラのようになりました。じつはそのとき、カラのなかでは、ふしぎなことがおきていました。

カラのなかでアオムシのフワリの体に、大へんしんがおきていたのです。カラのなかで少しずつ、フワリの体はアオムシからチョウチョの体に、大へんしんしていきました。そのあいだフワリはねむりながら、ずっとふしぎな夢を見ていました。夢のなかでフワリは、美しいチョウチョのすがたで、赤や黄色や白い花のまわりを、ふわりふわりと飛びまわっていました。

そして、あなたはすぐにこういう美しいチョウチョになるのよ。だからこの形をしっかりおぼえておくのよ、という声がきこえました。お母さんの声だ、と夢のなかでフワリは思いました。声はとおいところから聞こえてきたようにも、とっても近くから聞こえてきたようにも思えました。夢のなかで聞こえてきたその声は、近くなったり遠くなったりしながら、だんだん消えていきました。

声がしなくなって、あたりがシーンとなったとき、フワリはたいようの光がじぶんのからだを温めてくれているのを感じて目がさめました。フワリは、なんだかカラの外に出てみたくなりました。

そこでフワリが体にエイ! と力をいれると、カラがすこしわれたのがわかりました。もっと力をいれるとカラがもっとわれて、体のどこかに暖かな、たいようの光があたったのを感じました。

フワリはうれしくなってどんどん力をいれました。そしてカラのそとに出ようと思ってがんばりました。そうしてしばらくいっしょうけんめい体を動かしていると、とつぜんふっと体がかるくなりました。カラの外にでたのです。

けれどフワリの体は、なんだかとてもしわくちゃで、はんぶんサナギの形のままでした。フワリはなんだか悲しくなりました。せっかく外に出たのに、体がしわくちゃだったからです。

そのときフワリは夢のなかの声を思いだしました。そして夢のなかで見たチョウチョの形を思いだしました。あんなふうになるんだ、わたしはあんなチョウチョになるんだ。そう思ったフワリは、またぜんしんに力をいれて、いっしょうけんめい体をのばしました。するとちじこまっていた羽が、すこしずつ形をあらわしてきました。もう少し、もう少し。そうしてフワリがいっしょうけんめい力をいれると、羽はどんどん広がっていきました。そしてフワリの目に、夢で見たチョウチョの姿がうつりました。フワリはチョウチョになったのです。

きれいに開いた四まいの羽が太陽の光をうけて、フワリの羽が白く白くかがやきました。それはじぶんでも、うっとりするくらいきれいでした。うれしくなったフワリは、羽をすこし動かしてみました。

すると羽に風があたりました。もう少し羽を動かすと、もっと風を感じました。もしかしたらこの風は、わたしの羽がおこした風?


そう思ったフワリがもう少し羽を動かすと、なんだか体が軽くなりました。そしてふわりと体が風に乗ってうかびました。じぶんがおこした風と、吹いてきた風とがいっしょになったのがわかりました。いつのまにかフワリは、ふわりふわりととんでいました。

フワリは、夢のなかで見た美しいチョウチョとおなじように飛んでいたのです。うれしくてうれしくて、フワリは風に乗ってまい上がりました。上を見ると、青い空が広がっていました。下を見ると、花がたくさん咲いていました。

フワリはふわりふわりと花のところにまいおりました。すると花から、とても甘いかおりがしてきました。だれにおしえられたわけでもありませんけれど、フワリはその花のおくに、チョウチョになったじぶんのごはんがあることがわかりました。見るとフワリの口は、クルリとまるまった細い細いくだの形をしていました。アオムシのときには、キャベツを食べなくてはいけなかったので、フワリの口には歯がありました。いまはそれはなくなって、細いくだになっていました。

フワリがまるまったくだをそっとのばしてみると、くだが細いストローのようにまっすぐになりました。そのストローを花のおくにいれると、そこに甘いみつがありました。吸ってみるとフワリの口のなかに、甘い甘いみつがひろがりました。そのおいしいことおいしいこと。口がとろけてしまいそうです。うれしくなったフワリは、その花のみつを吸いおわると、となりの赤い花のところに飛んでいきました。そしてこんどは黄色い花へ。フワリはウキウキしたきもちで花から花へと飛びまわりました。

そうしてうれしいきぶんでなんにちか飛びまわっていたフワリの目にある日、おなじように飛びまわっている白いチョウチョのすがたが見えました。とてもきれいなチョウチョでした。白い羽が、フワリの羽とおなじように、光をうけてかがやいていました。ひとりぼっちじゃなかったんだ、とフワリは思いました。そしてあのチョウチョとお友だちになりたいと思いました。

そんなことを思って、フワリがいちばんきれいだと思った大きな赤い花にとまって、もういっぴきのチョウチョがひらりひらりと飛びまわるのを、うっとりしながら見ていました。あのチョウチョといっしょにこの花のみつをすいたいな、とフワリは思いました。そうだ、あのチョウチョのことをヒラリくんとよぼう。そしたらお友だちになれるようなきがする。

そう思ったフワリは、小さな声で、ヒラリくーんとよんでみました。チョウチョの声はチョウチョにしか聞こえませんから、フワリが小さな声でそういったことにだれもきがつきませんでした。けれど、その声ははヒラリくんには、ちゃんととどきました。ヒラリくんはその声がどこから聞こえてきたんだろうというふうに、ちょっと高くに飛び上がると、こんな歌をうたいはじめました。


どこから聞こえてきたのこの声は
とてもステキなこの声は
かわいい小さな鈴の音のようなこの声は
もういちど聞かせておくれおねがいだから


フワリはその歌をきいてウットリしました。なんてきれいな歌でしょう。そしてドキドキしました。ドキドキしながらフワリは、思わず歌をかえしていました。


きれいなお歌をうたえるヒラリくん
わたしはここよヒラリくん
見えるでしょう赤い大きな花のところ
いっしょにみつを吸いましょう


そうしてフワリは、ここよここよというふうに、羽をやさしく動かしました。するとヒラリくんがこちらに向かって飛んできます。フワリはドキドキしながら羽をもっと大きく動かしました。フワリの羽と、こちらにむかってくるヒラリくんの羽が、キラキラキラキラ、太陽の光をうけて美くしくかがやきました。

ヒラリくんがフワリのところにやってきたとき、二ひきのチョウチョは、おたがいにあいての目を見て、その姿をゆっくりゆっくりおぼえると、それからそっと目を閉じて、花のみつをいっしょに吸いました。夢のなかにいるようでした。フワリとヒラリは、どこからからともなく聞こえてくる歌を、いっしょにウットリ聞きました。

 

二つの歌をあわせましょう
フワリの歌とヒラリの歌を
二つの歌がかさなって
一つの歌になるように


二つの歌がかさなって
ステキな歌が生まれます
二つの歌がかさなって
ステキな歌が生まれます



-…つづく

 

 

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

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