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■明日の大人たちのためのお話

更新日2020/11/19

 

 

ギンヤンマのシュンシュン



シュンシュンは、この夏に池のなかから出て、くうちゅうや、くさばなの上をシュンシュンとびまわることができるようになったギンヤンマです。ギンヤンマはトンボのなかでは大きなトンボです。

トンボは、ギンヤンマもアカトンボもシオカラトンボもイトトンボも、みんな小さいうちは水のなかで、ヤゴという、とてもトンボには見えないすがたでくらします。ヤゴには羽はありませんけれど足はあります。その足で水のなかをうごきまわって、ボウフラやミジンコなどを食べて大きくなります。

池のそこにはどろがありますから、ヤゴはどろとにたような、あまりめだたない色をしています。あまりめだつと魚たちに食べられてしまうからです。さいきん、がいこくからやってきたブラックバスなどの、大きくなるためにたくさん食べる魚がふえてきて、小さな魚やヤゴたちをどんどん食べてしまうので、ギンヤンマはだんだんへってきています。

どうしてがいこくの魚がにほんの池にいるかというと、大きな魚をつってあそびたい人とかが池にはなしたりしたのが、大きくなってふえたりするからです。

それと、きんぎょとかメダカとかねったいぎょをうっているおみせで見て気にいって、がいこくの魚やカメなどをかった人が、しばらくしてあきてしまったり、そだてるのがめんどうになって、それで池にすててしまって、それが大きくなってふえたりすることもあります。

にほんにむかしからいる魚やカメや水のなかのこん虫たちがすむ池や川には、ながいながいじかんをかけて、そのばしょにあったせいたいけいがつくられて、一つのいきものだけがふえすぎたりしないようになっていて、おたがいにほどよいバランスでくらしています。

そこにつよくてどんどん大きくなるがいこくの魚とかがやってくると、その魚がほかのいきものたちをどんどん食べて、その魚だけがどんどんふえてしまい、ヤゴや、にほんにむかしからいたタナゴのような魚などがへってしまいうのです。

池やのはらは、そこに生きているいきものたちにとっては、みんながくらすたいせつなみんなの家のようなばしょです。もともとそこにはすんでいなかったいきものをはなしたりすると、バランスがこわれて、もといたいきものたちがくらせなくなってしまいます。ですから、いきものをかってきたら、ちゃんとじぶんでせわをしましょうね。


ところでヤゴのからだは、ちょっとかたいカラでおおわれています。ですからちいさなヤゴが、ミジンコとかのごはんを食べてからだが大きくなると、すぐにきゅうくつになってしまいます。大きくなったみなさんが、小さいころのふくがきれなくなるのとおなじです。

そうするとヤゴはカラをわって外に出ます。するとすぐに体にぴったりサイズのカラがヤゴの体をおおいます。しばらくすると、またきゅうくつになって、またカラから出て、新しいカラをきます。それをだっぴといいます。ヤゴはそうしてなんどもだっぴをして大きくなります。

もういよいよトンボになる日が近づいてきたなと思ったら、ヤゴは、池にはえていて、水の上にまでのびているような草やほそい木をつたって池のそとに出ます。そうしてさいごのだっぴをします。シュンシュンもそうやって池のそとにでました。


明るいひざしをあびて、シュンシュンはカラからゆっくりせなかをだし、大きな目のあるあたまをだし、足をだして羽をだし、長くてほそいシッポを出し、カラのなかにあった体をみんな外にだして、じっとおひさまの光と吹いてくる風をうけました。さいしょはしわくちゃだった羽が、ゆっくりのびて、だんだんとうめいな羽がそのステキなすがたをあらわしてきました。むねのあたりの緑いろが光をうけてキラキラ光りました。

シュンシュンは大きな目をぐるぐる回してみました。トンボはあたまの右と左に大きな目があって、それをぐるぐる回すことができます。ですからまえもうしろも上も下もみんな見えます。飛んでいるときには、まわりがみんな見えたほうがいいからです。それにトンボはとんでいる小さな虫を食べますから、虫を見つけるには、まわりがみんな見えたほうがつごうがいいからです。

そうしてしばらく羽をのばし、体のあちらこちらを動かしてみて、もうだいじょうぶかなと思ったシュンシュンは、さあ飛ぼう、と思って、おもいきって羽を動かしましてみました。するとフワリと体がくうちゅうにうきました。びっくりして羽をうごかすのやめると、体がスッと池のほうにおちそうになりました。

あわてて羽ばたくとシュンシュンの体がいきおいよく、上に向かってまい上がりました。とべたとべたとうれしさでいっぱいになりながらシュンシュンは、羽をいろんなふうに動かしてみました。しけんひこうです。

するとシュンシュンの体が、ものすごいスピードで前にすすみました。そのきもちのいいこといいこと。よしっ、とシュンシュンは、こんどは右に左にと、ほうこうをかえてみました。するとシュンシュンの体が、スッスッと、すばやく右や左に向きます。上にも下にも、じゆうじざいです。みてみて、ぼくはギンヤンマだ、ギンヤンマのシュンシュンだ。

ステキな色のすらっとした体と、とうめいな羽が風をきってステキです。そうして飛んでいると、ぜんぽうに、地面からつきでたほそながいぼうが見えました。あれはなんだろう、あっというまに近づいたシュンシュンは、その棒をよく見ようと思って、なんとなく羽をそれまでとはちがうふうにうごかしてみました。するとおもしろいことに、シュンシュンの体がくうちゅうに止まって、ういたままになりました。トンボは、くうちゅうで止まることだってできるのです。


みなさんは、にんげんは虫やどうぶつとはちがって、なんでもできると思っているかもしれません。でもそうではありません、にんげんはひこうきをつくって空をとべるようになりましたけれども、でもひこうきは、シュンシュンのように枝の上からいきなりとんだり、急カーブでまがったりできません。くうちゅうで止まっていられるのも、ヘリコプターかドローンくらいですけれども、それでもどちらも、シュンシュンのようにすばやくじゆうじざいに飛ぶことはできません。

そう考えるとすごいですね。にんげんがながいじかんをかけて、みんなで考えてやっとできたこといじょうのことを、トンボは、水のなかからでてきて、ヤゴからトンボになったとたんにできるのです。

それはともかく、そうしてきもちよくとびまわれるようになったシュンシュンは、うれしくてたまりません。きがついたとき、シュンシュンは思わず歌をうたっていました。


 ぼくはシュンシュン、ギンヤンマ

 はやいぞはやいぞギンヤンマ

 いけのうえをひとっとび

 のはらの上もひとっとび

 

 ぼくはシュンシュン、ギンヤンマ

 キラキラ羽をうごかして

 サッと飛ぶのもゆっくりも

 じゆうじざいのギンヤンマ

 お花の上のくうちゅうで

 止まったままでもいられるよ

 

 こうしてとぶのはうれしいな

 こうしてとぶのはたのしいな

 はやいぞはやいぞギンヤンマ

 ぼくはシュンシュン、ギンヤンマ



-…つづく

 

 

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

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