第887回:地球を汚染する“ゾンビ井戸”
抜きん出た女性をシリーズのように書いてきましたが、男女の枠に囚われず、そのようなずば抜けた人物がどんどん現れ、収拾がつかなくなってしまいましたので、今回はガラリと趣を替えて“ゾンビ”のことを書きます。
ゾンビはご存知のように、一度死んだはずの人間が生き返るでもなし、死体のまま、死んだ時の身体のままで、この世を彷徨い歩く肉体、屍体を持つ亡霊のことを指すようです。そんなゾンビがアメリカ全土を徘徊しているのです。
アメリカを旅したことがある人なら、カリフォルニアやテキサス、カンサス、どこの草原にでも、恐竜が大きな頭を上げ下げしているような油田ポンプを目にすることでしょう。それが一つや二つではなく、まるで草原の餌を突っついている始祖鳥の大群のように何十、何百と首を上げ下げしています。ちょっと異様な光景です。それらはすべて原油を組み上げているポンプです。
アメリカは大きな産油国ですが、それ以上に盛大な原油消費国なので、大量の原油を輸入しています。他の国の原油に頼らず、なんとか自分の国内で油を掘ろうと、アメリカ全土のあちこちあらゆるコーナーで原油ポンプが活躍していたのです。
もちろん政府の援助もあり、高い鉄塔を構えた大きな原油井戸のほかに、草原、牧草畠、裏庭にも現在恐竜の首のような小型ポンプがそこここにありました。そのような小規模のポンプで組み上げる井戸は、およそ20年から30年で枯れてしまいます。枯れなくても原油の価格や汲み上げた原油を製油所に運び、ガソリン、ディーゼルにするには採算が取れなくなり、閉鎖してしまいます。
かなり前置きが長くなってしまいましたが、一旦閉めたはずの原油井戸がムクムクと活躍し始めたのです。死んだはずの井戸がとてつもなく危険なガス、原油を地表に送り出し始めたのです。
それを“ゾンビ井戸”と命名したのです。
それは原油の井戸だけでなく、1990年に始まったフラッキングと呼ばれている原油を含んでいる砂、土砂から高い圧力をかけた蒸気を送り、抽出する井戸は最悪で、当初から周囲の環境を地中から破壊するものだと非難されていましたが、なんとしても油の欲しかった政府と、政府とつるんだ大企業がフラッキングを展開しました。
現在、地球を汚す最大の原因と言われている“ゾンビ井戸”はテキサス州で8500箇所、カリフォルニア州で4万箇所あると言われ、全米で350万箇所はあると言われています。
確かにここ掘れワンワンとばかり、アメリカ全土に穴を開け、原油がドンドン出ていた時代、製油会社は大儲けをしたでしょうけど、ちょっと採算が取れなくなると、まるで投げ捨てるように井戸を放棄したのです。
そんな井戸がおとなしくしていれば、問題はなかったのですが、一旦地下に開けた穴(およそ550フィート~1300フィート=165メートル~400メートル)はジワジワと蘇り、ゾンビになって地表に現れ、無責任に掘り起こした人間に復讐をし始めたのです。
“ゾンビ井戸”から発生するガスは、それが海底、水底井戸なら、水中生物のすべてを殺し、陸上なら、木々を枯らし、渡鳥を壊滅状態にし、昆虫はもとより、“ゾンビ井戸”の周囲を全く生物の住めない土地にしてしまったのです。当然、井戸を掘り、原油でたんまり儲けた会社がきちんとフタをすべきなのですが、世の中そうは行かない仕組みになっているようなのです。
結局、地方自治体、市や郡、州政府が…ということは、私たちの税金で最も危険な井戸を塞ぎ始めていますが、とてもとても追いつきません。一基の“ゾンビ井戸”を完全に塞ぐには日本円で約3,000万円相当かかり、現時点で6%程度のゾンビしか殺せていません。
製油会社にもそんな予算はありません。もし合衆国政府が製油会社に対して、すべての“ゾンビ井戸”を適切に処理しろと強制したならば、ガソリンの価格は倍になるだろうと、自然保護団体に脅しをかけています。
政府と製油会社、これでアメリカの原油不足は解決されるともてはやされたフラッキングは、自分の身に目に見える危険がない限り、見て見ぬふりをしてきた私たちの責任なのですが、こんなダーティー・シークレット(汚い秘密)のままにしていたら、地球が汚れきって、人間が住めなくなってしまうのではないか…と思うのです。

原油井戸、この大きな頭を上げ下げして、原油を汲み上げていた
第888回:抜きん出た女性たち その6
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