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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第306回:ゲイの権利と同性との結婚

更新日2013/04/11



私は仕事を家に持って帰るのが嫌いなので、たとえ大学に遅くまで残らなくてはならなくても、できるだけ採点や講義の準備、事務仕事をそこで終るように心がけています。山の家は聖域とはまでは言いませんが、家で学校の仕事などやりたくありません。
 
その結果、他の先生が皆帰った後まで、大学に居残ることになります。そうすると、掃除の叔父さんが突然ドアを開けて、「アッ、まだいたんですか、失礼しました」と言うのにたびたび出くわします。この叔父さんですが、中年の中肉中背の人で、手や姿勢、歩き方、顔つきなど男性なので、私は男だとばかり思っていたところ、先生たちのパーティーで、この掃除の叔父さん?は男か、いや私は女だとばかり思っていた! と話題になり(教授連のパーティーでもこんなことが大きな話題になるのです)、意見は真二つに分かれてしまいました。

真実は常に探求しなければなりませんから、そういったことに詳しく、確かな情報網を持っているらしい学部の秘書さんに、掃除の叔父さん?のことを尋ねたところ、さすがです。秘書さんの回答は、何年も前に彼がここで働き始めた時は男として採用しましたが、その後、ボーイフレンドができて、2、3年前、大そうなお金を払って性転換手術し、女になった……という誰をも納得させる具体的な回答を得たのです。

大学は他の職場に比べ、変人奇人が多いのかもしれません。ゲイの先生、カップルはかなりの数に及び、職業上の差別や、採用の時に同性愛だからといって不利になったり、採用後、仕事や、給料で差がつくことはありません。学期初めや学期末のパーティーでも、夫婦揃って参加するのと同じように、私のパートナーですと、同性の人を皆に紹介していますし、それを誰も奇妙なこととは思っていません。

同性のカップルが一緒に暮らすのは、一般的に広く認められていますが、これがイザ、法的な結婚を認めるかどうか…となると、世論は大きく分かれてしまいます。ナニセ、アメリカは宗教臭の強い国ですから、すぐに神様は…とか、聖書には…と言い出す人がたくさんいて、選挙の時には、そんな保守的な人たちの票が欲しい政治家も同性の結婚を認めないと声高に演説したりします。

先週、アメリカ合衆国の最高裁判所の法廷で、ゲイ結婚を法的に認めるかどうかの決裁をする…というので、ゲイ、それに反対する人たちが、大勢ワシントンに詰めかけました。現在、ゲイ同士の同性結婚は法的に認められておらず、例えば片方が亡くなったとき、夫婦間で認められている土地や家などの相続に、たとえ遺書で相続人として指定していたとしても、大量の税金がかかります。誰かアカの他人が相続するのと同じ扱いになります。

また、どちらかが以前、結婚し、子供がいて、離婚し、今度は同性と暮らし始めた時、新しいパートナーがその子を100%自分の子供のように受け入れたとしても、その子に遺産を相続させることができない…とか、法的な問題が続々と出てきます。

ゲイ結婚の反対派は、生物学者まで引っ張り出し、種の存続を(子供を作れない関係)危うくするような人間関係は生物学的モラルに反する(戦争で人を殺すのは生物学的モラルに反しないのでしょうか?)、こんなことを認めれば種、人間は絶滅する、エイズも蔓延する、キリストの教えに反すると、盛大なゲイ結婚反対キャンペーンを張り、ワシントンに集まりました。

両派がワシントンに集まり、盛大なお祭り騒ぎをした割りに、最高裁判所は結論を回避し、逃げてしまいました。

アメリカで最初にゲイの結婚を法廷で争ったのは1970年にミネソタ州の法学の学生ジャック・ベイカーさんが同性との結婚を拒否され、その裁定に対して起こした訴訟です。ジャック・ベイカーさんは裁判で負けましたが、ゲイの権利を法廷に持ち込んだ業績はとても衝撃的でした。その後、1979年に初めての"ゲイの権利"ワシントン行進が行われました。しかし、まだ一般のアメリカ人の共感を得るには程遠く、奇妙な人間集団としか見られていませんでした。

ゲイムーヴメントが盛んになったのは1980年に入ってからです。映画やテレビ、出版物でもマジメな社会問題として取り上げるようになり、90年に入って、トム・ハンクスが主演した映画『フィラデルフィア』で正面からゲイとエイズを取り上げましたし、テレビの人気コメディアンのエレン・デジェネレースが、自分はゲイ、レズビアンだと公に宣言し、番組を降ろされました。その時でも、ゲイの結婚、法的権利を認めるアメリカ人は27%程度しかいませんでした。

2000年に入って、やっと公にゲイの存在が認められるようになり、テレビや映画にもたくさんゲイのカップルが登場するようになり、今では18歳から29歳の若者の間では73%(アメリカ人全体では53%ですが)の人が、ゲイの結婚を法的に認めることを支持するようになりました。

とは言っても、合衆国政府がゲイの結婚を認め、それから、各州が認めるにはこれかも長い年月がかかるでしょうね。私自身、ゲイの問題に関心が薄く、自分の問題として真剣に考えたことがありません。ただ、狂信的にゲイそのものにすら反対する人たちに悪い印象を持ち、あなた方に危害を及ぼすわけじゃないし、ゲイの人たちの自由にさせてあげたら良いんじゃない…程度の認識しかありませんでした。でも、周りにこれだけたくさんのゲイがいて、切実な問題を抱えているのを目の当たりにすると、もっと積極的に彼らを支持しなくては…と思い始めました。

学生さんたちは、ゲイ、レズビアン同盟と名付けた、彼らの権利を守るグループを組織しました。黒人やヒスパニックと呼ばれるラテン系の人たち、ウーマンリブと同じレベルの解放運動を始めたのです。若い人たちは何事においても反応が早く、真剣ですね。彼らの運動が、将来きっと実を結ぶことでしょう。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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~アメリカ中西部今昔物語
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