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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第559回:時計を読めない、正しい英語が書けない世代

更新日2018/04/26




信じられないことに直面してしまいました。
日本語の授業で日付、時間を学んでいる時、テキストに幾つかの時計の絵があるのを見て、「今、何時ですか?」という問いに学生さんに答えて貰うという、至って簡単な繰り返しをしましたが、その時、もう相当日本語を話せる学生さんでも、「今、何時何分です」と即座に言えないのです。

黒板に時計の絵を描き、同時にデジタル式に数字で“2:45”と書くと、皆“2時45分”と言えるのです。数字を消して時計の絵だけにすると、もうダメなのです。そんなバカなことがあるものかと…何度も試した結果、彼らは腕時計を持ったことがなく、家でもデジタル式の数字が表示してある時計しか知らないことに気が付きました。

時間はスマホに数字で表示されているし、今時、針がチクタク動く腕時計なんぞ持つ理由がないのでしょう。それにしても、普通の時計を英語ですら読むことができなくなるものでしょうか。これでは、スイスの高級時計メーカー、ロレックス、オメガ、それにセイコー、シチズンなどお先真っ暗です。

私が勤めている大学で、ジャーナリズム専攻の学生が週刊で新聞を発行しています。カラー写真をふんだんに使った贅沢な紙面つくりで、8~10ページの市販の新聞と同じ大きさのものです。他に文学部の文芸部が発行している『SONDER~The literary review』という豪華な雑誌もあります。まるでホテルのロビーに置いてあるような上質の厚い紙を使い、写真やグラフィックをたくさん入れ、一体、こんな雑誌を発行するのにどれだけお金がかかるのか、余計な心配をしたくなるような製本なのです。これは年2回刊行されています。

もう一つ、年4回発行の季刊雑誌『HORIZON』というのがあり、これまた学生さんたちの創作意欲をゴッタマゼにして作り上げたような豪華版で、芸術科の学生の油絵、イラスト、写真と詩、散文、レポート、創作で構成され、数えてみたら十余人のライター、12人の写真家、フォトエッセイスト、それに絵画、イラストのデザイナーが12人、編集長以下6人の編集人が絡んで作り上げた大判で華やかなカラーグラビア雑誌です。

学生さんたちがこのように自分たちで新聞や雑誌などを発行するのは、それ自体素晴らしいことです。ですが…と言わなければならないのが辛いところで、そこに書かれている英語が間違いないだらけなのです。

ドイツ語の先生(ドイツ人です)が、学生さんが英語で編集した出版物があまりに間違いだらけなのに呆れ果て、どれくらい間違いがあるかを示すためピンク色のサインペンでその箇所をマークしたものを英文科の先生たちに回したことがあります。紙面はピンク印だらけで、私も胸が悪くなるほどでした。まず、冠詞が抜けているか、使い方が間違っているのは当たり前のことで、関係代名詞はもう使わず、というより使えなくなっており、時々気取って使っている文章はほとんど間違っているのです。所有格のアポストロフィーエス(‘s)も抜け落ちています。それ以前に、一つのセンテンスが文章として成り立っていない文が多すぎるのです。

大勢いる英文科の先生たち、アメリカ人、イギリス人のネイティブスピーカーが100%占めているのに、学生たちの酷い英語を無視し、イチイチ、ドイツ人の先生に指摘されるというのは大問題です。どこかが狂っているのです。英文科の先生たちの多くは“創作ライティング”が専門で、年に1、2冊、詩集とかエッセイを出版し、自作朗読などを学内外で行っていますが、生徒に正しい英語を教えることには、情熱を全く持っていないようなのです。

授業の中で、日本の文化の一面を紹介するため、日本には街角、駅近くに本屋さんがあり、店の前面には週刊誌、月刊誌が置いてあり、入ってすぐのところはマンガが占め、さらに奥まったところに、文学賞などを取った本、ベストセラー、小説や古典は片隅に追い込まれていると話したところ、紙に印刷された本など読まない、読んだことがないので、関係ない…という学生さんが圧倒的多数というより、ほぼ全員だったのに呆れ果てたことがあります。おまけに、本なんか読まない! という学生さん同士でハイタッチまでしたのでした。

本を読まず、スマホで省略された短いメールのやり取りだけしているのでしょう。それでは、正しい英語なんか書けるようになるわけがありません。

最近、ジョンホプキンス大学の調査レポートで、“G”の小文字の“g”を読めない、書けない学生が38人中36人もいたというショッキングな報告を読みました。“G”の小文字には“g”と“g”があり、“g”はオープンテール、“g”はループテールなどと呼ばれ、新聞の『ニューヨーク・タイムス』では“g”を使っています。まだ大半の出版物、本も“g”を使っているのですが、何せ学生さん、本も新聞も読まないうえ、手でモノを書く習慣をなくしていますから、“g”の存在を忘れてしまうのでしょうね。

スマホ時代になり、英語はどんどん変わり、冠詞、関係代名詞抜きの短い文章だけになるかもしれません。今の学生さん、過去形と過去完了形の区別はかなり前から区別できなくなっています。そうなると、日本の受験生は大いに助かるのではないかしら。もっとも、受験生のために英語があるわけではないのですが…。

正しい英語を書ける人は、外国人だけになってしまう日が間近に迫っているのかもしれません。

-…つづく

 

 

第560回:日本の英語教育に必要なこと

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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