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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第560回:日本の英語教育に必要なこと

更新日2018/05/03




私の甥っ子が日本の文科省JET Program (Japan Exchange and Teaching)で3年間山形県で過ごし、帰ってきました。小中学校の英語の授業に、ネイティブスピーカーのアシスタントとして過ごしてきたのです。

この文科省のJETプログラムは、英語教育で英語の読み書きだけでなく、まずコミュニケーションの基本である会話、聞き取りを若いうちに覚えさせ、身に付け、国際人を養うという意図の基に進められたものです。

確かに、会話、発音は若い時に覚えた方がズッと綺麗に、まるでネイティブのように話せるようになるのは事実です。ウチの仙人は、ボキャブラリーも普通のアメリカ人より多く、英語の雑誌、新聞もたくさん読んでいるのに、その発音たるや、未だにRとLも区別せず(できずかな?)、ジャパングリシュの典型なのです。

でも、これは彼が受けた戦後の英語教育のせいとばかりは言えません。彼と同世代の人、同級生にネイティブと間違うほどキレイに発音し、話すことができる人がたくさんいます。要は本人のココロガケの問題なのだと思います。 

私の大学にいる日本人留学生は、両親の仕事の関係で子供の頃から英語圏で生活してきたネイティブスピーカー、アメリカの高校を終えてきた準ネイティブスピーカー、そして日本の大学を卒業もしくは途中で転向してきた学生の3組に大別できます。

幼い時に英語圏で過ごしてきた学生さん、それにアメリカの高校を卒業してきた学生さんは、話し声だけ聞くと、アメリカ人と全く変わりありません。とても流暢で、日本人二世か三世かなとさえ思ってしまうほどです。日本である程度の学歴を積み重ねてきた人たち、いわば大人になってから初めて英語をジカに耳で聞き覚えた人はなかなか、幼少の時から英語で生活してきた人のように発音できません。それは当たり前のことでしょうね。

でも、レポート、小論文などを書かせると、立場が逆転するのです。まるでアメリカ人のように話す日本人のグループは、後続組の英語にとても敵わないのです。アメリカ人の学生より立派な英語を書くし、内容もしっかりしているのです。

話すように書く(言文一致体と、ウチの仙人が横から教えてくれました)のは、確かにあらゆる言語の基本ですが、話すように書くとなると、普段の言語生活がモロに書くことに反映され、言語、知的レベル、お里が知れてしまうのです。どんな言語でも、それを使い表現するということは、モトモトの表現するべきモノ、考えを持っていなくてはなりません。

通訳、翻訳は自国語の言語能力が最も大切で、それに大きく左右されるとよく言われます。いくらアメリカ人、イギリス人のように英語がペラペラでも、日本語自体が貧しいと、通訳、翻訳は著しく低レベルの、限られた翻訳になってしまう道理です。

基本は自国語、日本語でどれだけ豊かな言語生活をしてきたか、言ってみればどれだけ、どのような本を読み、自分なりに自国語(日本語ですが)で書いてきたかだけが鍵になります。

現在、日本で小学校5年生から“外国語活動”なるものが行われています。早く言えば、ゲームや歌の“英語でオアソビ”の時間です。それを2020年からは小学校3、4年生にまで引き下げられ、5、6年生は本格的な英語教科にするというのです。

今の小学生の授業時間にゆとりがあり、文科省にお金があり余っているならそれでもいいでしょう。しかし、日本で普通に生活している人たちには、英語なんて必要ないのではないでしょうか。

ネイティブのように話す能力など、全くの付け足し、表面的なことで、英会話が必要になった時に学べば良いことなのです。自国語、日本語でいかに豊かな言語生活を送るかの方がはるかに大切、と言うより、それだけが肝心要(カンジンカナメ)だと信じています。本人が話すべき内容、話したいことを持たないで、外国語なんかできるわけがありません。

どうにも、年寄り臭く聞こえますが(マ~、ホントに年寄りだからいいか…)、外国語、英語を学ぶ前に、外国人教師の口真似をして、タダシイ発音を真似する時間があったら、日本語の本を、童話を声を出して読むことです。

アヤフヤな携帯メール、Twitter、LINEだけの日本語しか使っていないのに、優れた外国語などできるわけがないと思うのです。英語もその程度のものになってしまうのは当然のことです。

何がなんでも、日本語の本をたくさん読むことが基本だと信じています。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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