第209回:世界に影響を与えた100人
恒例のタイム誌『世界に影響を与えた100人』特別版が出ました。すでに日本のマスコミでも、そこで選ばれた二人の日本人について報じていましたから、ご周知の方も多いことでしょう。この特集は年一度、その年に活躍した人、話題になった人、本当の意味で他の人々に影響を与えた人を順位なしにピックアップしたものです。
もちろん、商業誌のことですから、過去に自分の雑誌で取り上げた人物、スキャンダラスに世間を騒がせた人も選ばれています。ですが全般的に見て、よく世界中にシカと目を配り、人選しているなーと思います。
この特集の面白さは、取り上げた人物もそうですが、その人を紹介する書き手がなかなかユニークなことです。例えば英国の首相、デイヴィッド・キャメロンを元カルフォルニア州知事のシュワルツネッガーが書き、オプラ・ウインフリーのことをCNNの大株主でメディアモンスター、億万長者のテッド・ターナーに書かせ、アリゾナ州のツーサンで頭に4発もの銃弾を受けながら、今奇跡的に回復しつつあるガブリエル・ジフォード上議員をオバマ大統領が書くという具合に、著名人に人物紹介記事を書かせているのです。
この一年、話題になったフェイスブックの創始者マーク・ザッカベリー、ウィキリークで名を馳せたジュリアン・アサンジ、このエッセイで取り上げたタイガーママのエイミィー・チュアも本物のトラ二匹と一緒に見開き2ページの大きな写真で載っています。
国の元首、政治家ではオバマ大統領はもちろんですが、フランスのサルコジ大統領、ドイツのメルケル首相、先に書いた英国首相、ブラジルの女性大統領デルマ・ルーセフ、 ヒラリー・クリントン国務長官、ミャンマーのスー・チーさんなどなど、豊富な顔ぶれですが、日本人政治家はいません。もっとも、首相が4年間に5回も変わるのでは、根付いた仕事も、評価もできないのでしょうね。
その代わり、今回取り上げられた日本人のお二人はとてもユニークな方々です。桜井勝延さんは南相馬市の市長さんです。写真で見ると、現場の作業員にような風貌で凡そインターネット世代とは見えませんが(ごめんなさい、歳を調べたらまだ55歳でした)U-Tubeなどを通じて、政府と東電に大いに噛み付き、お前たち情報を隠していたとやり、おまけに市民を飢餓にまで陥れた罪は政府、東電の無策にあるとぶち上げたのです。
南相馬市は福島から25キロ、強制退去のボーダーライン上にある町です。桜井市長のビデオクリップを見ますと、彼は市民と彼らの町を守るために必死の覚悟で事態収集に取り組んでいるのが、ひしひしと伝わってきます。それにしてもよくタイム誌が桜井市長にスポットを当て、取り上げたものだとだと思います。
もう一人の日本人は、管野武さんという若いお医者さんです。管野さんは勤務してる志津川病院で津波警報を聞き、即座に一番上の階へ、入院患者を全員移動させ、その病院も危険になり、強制退去命令が出たあとも、最後の患者さんが避難する3日後までそこに残りました。彼が家に帰った一時間前に奥さんが二人目の赤ちゃんを生んだことは、日本のマスコミでも取り上げていましたね。
皮肉なことに、今回の地震、津波が起こらなければ、お二人はタイム誌に載ることもなかったわけです。しかし、経済大国を自任していた日本から、政治家、経済人がまったく選ばれず、お二人のような、市井の方が選ばれたのは今の日本を象徴しているように見えます。
このお二人は、選ばれたことなどに関心がなく、あたり前のことをしただけだ…と思っている様子ですが、あの大災害の時には、このお二人のような方が、きっと何百人、何千人もいたことでしょう。そんな人たちが、これからの日本を築いていくのでしょうね。
第210回:「想定外」と「想定内」
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