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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第262回:リサイクルの原点“原始チリ紙交換”

更新日2012/05/31



日本の春の風物詩といえば、物干しに使う"青竹屋"でしょうか、小型トラックをゆっくり走らせながら、「エーッ、サオヤアオタケ~~」と住宅地を売って回る商売です。青竹は一度買ったら何年も持つだろうから、一体商売になるかしらと余計な心配をしたくなります。

一年中回っているのが、「毎度、お騒がせしております。古新聞、古雑誌などありましたら、チリ紙、トイレットペーパーと交換させていただきます」と馬鹿丁寧な口上のチリ紙交換です。

いくら丁寧な言葉使いで静かに宣伝しているとは言っても、一日に何度も色々な業者が回ってくるので、煩い、喧しい、騒音だと抗議したくなる気持ちも分かりますが、チリ紙交換は非常に優れたリサイクルのやり方だと思います。

最近では、曜日を決めて玄関先に新聞、雑誌などを出しておくと、回収してくれて、郵便受けにチリ紙を入れていってくれるスタイルもあるようです。

ですが、これ以上に究極のトイレットペーパー交換システムが昔日本にあったことを発見しました。水洗トイレになる前の汲み取り式の便所(ベンジョと発音すると、いかにも旧式な日本のお手洗いの感じがしますね)が幅を効かせていた時代の京都のことですが、大正、昭和の初期まで、女性が小用(大の方ではなく)の時に使った使用済みの紙を軒先の籠に入れておくと、原始チリ紙交換業者がそれを集め、籠の脇に1、2銭の小銭を置いていったと……金子光晴氏の『這えば 立て』という随筆にありました。

この随筆は、私の日本語の実力では手に余るのですが、人間いつも背伸びをしながら成長するという故事を踏まえ、無理をして金子光晴の詩や随筆を読んでいます。

その、京都での原始チリ紙交換のところを、うちの仙人にも読んでもらい、確認しましたからたぶん間違いないと思います。その時代、京都では"使用済みの古新聞、古雑誌"だけでなく"使用済みのトイレットペーパー"(もっともその時代は水に溶けるトイレットペパーではなく、コシの強い桜紙ですが)まで回収し、それを大きな釜で煮立てて再生していたのです。これぞ究極のリサイクルと言わずして何と言う!!

アメリカのこの田舎町で"お払い屋、チリ紙交換"をやったら……と、ダンナさんに盛んに勧めたのですが、ウームと言った切り、煮え切りません。 

そういえば、江戸時代、大きな町での汲み取りは、業者の利権がからんだ大きな事業だったといいます。"金肥"と呼ばれ、近郊の田舎に運ばれ、堆肥に熟成させ使っていた伝統があります。

どうも西欧には汚いもの、臭いものは水に流し、一切目にしなくて済むのをヨシとする文化的傾向があるようです。西欧では都市の近代化を測る目安として、何パーセントの家屋に水洗トイレがあるかという、全くヨーロッパの視点からしか文化を見ていないようなのです。200~300年前、すでに世界でも有数な大都会だった江戸や大阪がどのように機能していたか、排泄物をどのように処理していたか、都市工学として見直す必要がありそうです。

私たちの山の生活は、私のおじいさん、おばあさんの時代に舞い戻ったような原始的な部分があります。水道はなく井戸ですが、風車で水を汲み上げるというダンナさんのアイディアはまだ実現せず、彼によれば、カンニングして電気のモーターを使っていいるし、太陽電池もとてもすべての需要をまかなうだけ張り巡らすことができず(何しろ値段が高いので)、薪ストーブの熱を巡回させるためだけに使っています。

トイレは、これぞ最高の日本トイレ文明の利器"シャワートイレ"をスーツケースに入れて日本から持ち帰って使っています。これで清潔感と紙をトイレに流さない京都方式の一石二鳥です。シャワートイレでの使用済みの紙は汚れていませんから、他の紙類と一緒にリサイクルセンターに運んでいます。

ウチのダンナ流の地球に爪痕を残さない生き方や生活は、かなりの労力が要求されるのです。

 

 

第263回:"シングルハンダー症候群"

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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