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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第213回:明治維新とイラク、エジプト、リビア

更新日2011/06/09


NATOに押されるカタチで、ということになっていますが、アメリカがまた戦争の手を広げてしまいました。カダフィ、リビアへの介入です。表向きは人道的な理由、罪のない市民をカダフィの殺戮から守るため……だそうです。 そのため、制空権(ノー・フライゾーン)を確保する必要があり、カダフィ側にある、空軍基地、ミサイル基地を爆撃したと、オバマ大統領は言っています。

しかし、人道的な理由なら、現在、世界中で起っている一方的な政治的虐殺を無視している理由が成り立ちません。

もう一つ、長引く内戦に介入したことになるのでしょうか……。

今、マリウス・ジャンセン教授(Marius Berthus Jansen;あまりに偉い人なので、気軽に"さん"付けで呼べません)の『坂本竜馬と明治維新』(Sakamoto Ryoma and Meiji Restoration;コロンビア大学出版)をほとんど読み終えたところです。日本の歴史はこの時代と戦国時代がとても面白ですね。

マリウス・ジャンセン博士の本は、変革期の中で、いかに若い下級武士でしかなかった竜馬が、明治維新の原動力になったのかを考察し、学者の書く無味乾燥な歴史の教科書的な記述から一歩進んだ読み物になっています。

以前、ケンブリッジ大学が編纂した長大な日本の歴史を読んだ時もそうでしたが、今回、マリウス・ジェンセン教授の本を読んで、改めて明治維新当時の日本人の偉さを知りました。それは幕府側も、維新を推進する側も、武器の供給こそ外国から受けていますが、外国軍の直接介入を避けていることです。

幕府はフランスから大規模な軍事力を提供する申し出を断っているし、革命軍(維新側)もイギリスから武器を受け取っていますが、英国軍隊そのものの介入を断っています。

「これは、俺たちの問題だ」という意識が双方にあったのか、外国の軍事の直接介入を許せば、ほかのアジア、アフリカの国々と同じように、植民地になってしまうと先を見越していたのか、ともかく両サイドともに日本を全面戦争に陥れ、国を滅ぼすような事態を避けようとしていたように思えるのです。 

偶然が重なってそういう結果になっただけなのかもしれませんが、私には若い革命軍側にも、十五代将軍徳川慶喜にも、自分自身の身を守ることより、全面的な内戦を避け、日本を独立国として守る意識があったと思えるのです。それでなければ、最後の将軍、慶喜の鮮やかな身の引き方、そして革命軍が慶喜を生かしておいた説明が成り立ちません。フランスやロシアの革命のように、王族はギロチン、銃殺になって当たり前のところでした。

イラクの内戦、繰り返されるテロ事件に接するたびに思うことですが、スンニー派もシーア派もいつまでも互いに殺しあっていては、決して国造りはできず、国を滅ぼすだけだと自覚しない限り、治まりがつかないということです。両者に欠けているのは、明治維新のときの幕府、革命軍の精神でしょう。

今、歴史を鳥瞰図のようにしてみると、明治維新を通じて死んだ志士たちの純粋さばかりが目に付きます。それに引き換え、生き残り、新政府の重職についた人たちの堕落、思想性のなさは目を覆いたくなるほどのものです。 

エジプトのムバラクも、リビアのカダフィも、初めは純粋に国のためと信じて行動を起こしたのかも知れませんが、長い間権力の座に居座ると、自己を守ることと国の発展を混同し、他の人の意見を無視するようになるのでしょう。

ですが、それは政治とか一国の独立性の問題ではなく、哀しい人間性の問題なのかもしれません。

 

 

第214回:貧しくても美しい国

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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