第730回:世に男と女がある限り、セクハラはなくならない…
アメリカは軍事と外交だけ、合衆国政府が司り、他はすべて州単位で行われるとよく言われています。合衆国政府、議会で、たとえば銃規制や堕胎の法案が可決しても、その決定に従わない州がたくさん出てきます。それどころか、合衆国の決議を守るのことは州の法律に違反するとまでやり出したりします。いったい何のために合衆国議会があるのか、と思わせます。
警察権も市警、郡警、州警があり、隣接した州にその権限が及びません。ある州で罪を犯し、隣の州に逃げ込めば、当事州のお巡りさん、周囲の州にその旨連絡するだけで、州境を越えて捜査に乗り出すことができないのです。お隣さんがホンキ、マジメに捜査してくれるのを祈るだけなのです。
殺人などの重犯罪なら他の州も協力して捜査に当たるでしょうけど、万引き、空き巣、交通違反などの軽犯罪では、お隣さんも自分の州のことだけで忙しすぎて、そんなことにまで手が回らないが現状です。
一応、犯人が州を越えて逃亡した場合、罪は倍になると条約がありますが、必死になって逃げている犯罪者は、そんなことは当然無視します。逮捕状の出ている犯罪人の誰が、その州を離れ、隣の州に入る時、罪が倍になるなるから、やっぱり止めておこうか、引き返そうかと考えるものですか。
そんな事情で検挙率がとても低くなり、解決策としてUSマーシャル、そしてFBI(Federal Bureau of Investigation)が生まれました。FBIは全米どこでも捜査権、逮捕権があり、いつも清く正しい、まさに正義の味方、水戸黄門のお札をばら撒き、持ち歩いているように、絶対権があるのです。
そのFBIのエージェント二人が、セクハラに関連して、合衆国の最高裁で裁判にかけられました。問題は、アメリカ女子体操選手に関したことで、1996年から2015年までの間、チームドクターのラリー・ナサール(Larry Nassar)が、NBCの『Today』という番組では女子選手40人、CBSニューズでは60人に対してセクハラを働いたという事件です。
ラリー・ナサール医師は27年の懲役刑をすでに受けて、牢屋に入っているのですが、体操界の上層部が、セクハラが行われていることを知りながら、無視していた、特にひどいことに、選手が上層部に訴え、それをFBIにまで持ち込んでいたのに、それを受けたFBIエージェントが握りつぶしていたという、さもアリナンという図式なのです。
証人台には、東京オリンピックでメダルを取ったガブリエル・ダグラス選手(Gabrielle Douglas)も、他の数人の被害者の中にいました。彼女らは15歳から、ナショナルチームの一員になりたい、オリンピックに出たい一心でトレーニングに励んできて、その過程でチームドクターに逆らうことなどできなかったと証言しています。もっともなことです。
女子のスポーツ界はセクハラを黙認する体質になっているようなのです。そんなことなんか、トレーニングの一部だ、過程だ、チームの和を崩すような申し出はするな…という風潮が支配的なのでしょうね。
訴えられたFBIエージェントの二人は、一人はすでに亡くなり、もう一人も引退しており、保守系が牛耳っている最高裁判事たちは、彼女たちの訴えをすべて却下しました。
オーストラリアの女子サッカーチームの代表選手、リサ・デ・ヴァナ (Lisa de Vanna)は10代の頃からセクハラを受け続けてきたと『デイリー・テレグラフ』紙が報じていますし、スペインのリーグにいたこともあるベネズエラのスーパースター選手、デイナ・カステラノス(Deyna Castellanos)も、ベネズエラのコーチ、ケネス・セレメタ(Kenneth Zseremeta)にコンスタントにセクハラを受けていたと公表しました。女子選手の間では、ケネスを“怪物”と呼びならわされるほど、公然と猛烈なセクハラを行っていたことがデイナさんの訴えで明らかになりました。
このような事件、言い出しっぺはとても勇気のいることでしょう。チームの上層部、警察に訴える時、具体的にどのように、何回、強姦されたのか、微に入り細に入り供述しなければなりませんし、調書を取る側が男性ですと、ますます告白し難くなるのことでしょう。でも、デイナさんが口火を切ったおかげで、その後、24人の女子サッカー選手が、私も、私もと出てきたのです。
東京オリンピックの女子バスケット決勝で日本を破ったアメリカのチームも、セクハラが浮き上がってきましたし、アメリカの女子サッカーチームでも、セクハラ問題が広がりつつあります。
ニューヨーク州知事、アンドリュー・クオモ(Andrew Cuomo)氏も側近の女性からセクハラを訴えられ、辞職を余儀なくされました。クオモさん、コロナ禍が始まった時、初めからコロナのパンデミック、感染の強さを見抜き、強力な対策を打ち出し、成果を治めていたと思うのですが、女性とハグ(挨拶程度の抱き、頬に軽く触れる)の時、とても気合が入り、入りすぎる傾向があったようです。その女性とセックスに及んだわけではなさそうですが…。
そう言えば、東京五輪組織委員会の会長だった森喜朗さん、うっかり本音を吐いたのでしょうか、「女性がいる会議は時間がかかる…」とやり、その一言で、それまで中心になって推進してきた東京五輪の組織委員会の会長を辞任しなければなりませんでしたね。“もの言えば唇寒し・・・”とはこのことでしょうか。
先日、父と電話でそんな話題に及んで、父が中学校の校長先生をしていた時、体罰を加えるのにボートを漕ぐオールを使っていたと告白しました。アメリカの学校では、問題のある生徒を即、校長室に送り、校長先生が生徒の言い訳を一応聞き、生徒に否があると判れば、それなりの罰を加える仕組みになっています。
生徒にとって、校長室に送られることは不名誉なことでもあり、とても恐ろしいことなのです。父は問題を起こした生徒に、両親をここに呼んでお前が何をしたか知らせるか、今体罰を受けるかの選択を問題児にさせていたそうですが、100%の生徒は、どうか家に連絡しないでくれ…と懇願し、体罰を受けることを容認したと言っています。
家に連絡されれば、校長室の体罰より、もっと酷いことになるのが分かっているからなのです。父はオールにガムテープを巻き、木のオールのトゲが生徒の手の平や、お尻に刺さらないよう“工夫?”していたそうです。女子生徒はほとんどいなかったとは言っていますが、最近はカトリックの坊さんの少年に対するセクハラ全盛の時代ですから、彼自身、「今なら、何回首が飛んだか分からないな~」と溜息をついていました。
時代とともにセクハラの観念が変わったのか、元々影に隠れて存在していたのが、今日になって表面に出てきたのか分かりません。昔から権力に擦り寄ってくる人間はいるものです。政治家、映画界の大物プロデューサ-、監督、芸能界の実力者などに色仕掛けで迫ってくる人も中にはいるでしょう。権力を持つ者はツイツイ、パワハラ転じてセクハラに及んでしまうという背景があるのでしょうね。
スポーツチームのコーチだけでなく、政界の大御所、芸能界のトップは、強い自制心、モラル感を持つことを要求される時代なのです。
年老いて今なお、若い女性に熱い視線を送っている様子のウチのダンナさん、「イヤ~、俺に金も権力もなくてよかったかな~ おかげで誰も俺に近づいてこないからな…」とノタマッテおります。
-…つづく
第731回:血統書付の人間?
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