■拳銃稼業~西海岸修行編

中井クニヒコ
(なかい・くにひこ)


1966年大阪府生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊中部方面隊第三師団入隊、レインジャー隊員陸士長で'90年除隊、その後米国に渡る。在米12年、射撃・銃器インストラクター。米国法人(株)デザート・シューティング・ツアー代表取締役。


第1回:日本脱出…南無八幡大菩薩
第2回:夢を紡ぎ出すマシーン
第3回:ストリート・ファイトの一夜
第4回:さらば、ロサンジェルス!その1
第5回:さらば、ロサンジェルス!その2
第6回:オーシャン・ハイウエイ
第7回:ビーチ・バレー三国同盟
第8回:沙漠の星空の下で
第9回: マシン・トラブル
第10回: アリゾナの夕焼け

■更新予定日:毎週木曜日

第11回: 墓標の町にて

更新日2002/05/23 


ジョンのシボレーのトラックは、砂漠の道を爆走する。すでに辺りは真っ暗な闇に包まれている。前方はトラックの照らすライトだけが頼りであったが、ジョンはこの辺りの道に詳しいらしく、カーブが始まる前からハンドルを切っているのが分る。

「GUNは、何に使うんだい?」
私がさり気なく聞くと、ジョンは、
「デザートには危険が多いんだ、ラッツ・スネーク(ガラガラヘビ)、サソリにコヨーテ…。しかし、ロスのダウンタウンよりは安全だけどな」

妙に納得のいく返答だった。私のロスでの体験も話したかったが、面白おかしく説明するほどの英語力はない。そしてなにより疲れていた。
「さあ着いたぞ!」

夜中の10時過ぎに到着したのは、空き地の真中にポツンと建った彼の家の前であった。日本にはないトレーラーハウスという移動式の家で、家そのものが運びやすいように地面から50センチ位浮いている、タイヤ付きの家だ。しかし、ここしばらくは動いていない様子で、表札はしっかりと表に掲げてあった。

3段の階段を上がりハウスに入ると、ジョンが女房にサンドイッチを作らせるから、そこで待ってなと言うと、
「ダーッ(父ちゃん)! お客さんかい?」
と、ダイヤモンド・バックスの野球帽を被った10歳くらいの男の子が出てきた。横にいたエプロン姿の白人中年女性を呼んで、
「妻のスーと息子のシェ―ンだ」
とジョンが紹介してくれた。

今日はもう遅いので、明日の朝、シルベスタという大きな町のバイク屋に連れて行くから、今日はここで泊まれということだった。言葉と態度は乱暴だが、内面は非常に親切なオヤジだ。その晩私は、離れの作業場の納屋で一夜を過ごすことになった。今日は長い一日になった。しかし助かった。まあ明日は何とかなるだろう…。

ニワトリの甲高い鳴き声で目が覚めた。アリゾナの朝は、6時前にはすでに明けていた。空は快晴で、砂漠が朝日に赤く焼けている。ジョンの家族と4人で、スーが作ってくれたゲキ甘のドーナッツと、お茶のように薄いアメリカンコーヒーの朝食を摂った。
「ツームストーンへようこそ!」
とジョンは、赤い頬っぺたを盛り上げて笑って言った。
「墓石?」どこかかで聞いたことがある名前だった。

朝食を済ませ、奥さんのスーに昨日からのお礼を言って、ジョンとトラックでシェ―ンを学校に送りに出かける。死んだバイクは、まだ積んだままだ。シェ―ンは、BMXが好きなせいか荷台に積んだ私のバイクをやたら気に入にしている。米国の田舎の家庭は、殆どがこのように毎朝子供を学校に送るのが日課のようだ。シェ―ンを学校に送った後、バイク屋まではさらに車で1時間ほどの道のりをドライブする。

バイク屋はかなり大きな規模で、しかもYAMAHAの専門店であった。バイク屋にXTのトラブルを説明したら、最低3日はかかるという。「3日か…。仕方ないね」とばかりにジョンも肩をすくめた。そうか、でも直るならと、気分を変えてジョンに今までのお礼を言って握手して別れようとすると、
「これから3日間もどうするんだ?」
とサングラスの眉間に皺を寄せながら言ってくる。
「さあね、この辺をぶらぶら…」 と言い返すまもなく、1分後にはバン・ヘイレンをガンガン鳴らすシボレーで砂漠を激走していた。

要するに、バイクが直るまで俺の家にいろ、ということらしい。私も、他人の迷惑になるのは好きじゃない。本当はジョンと別れて、気楽にバイク屋のある町にいたかったのだが、なんとなく半強制的に、彼の判断でそうなってしまったのだ。それがまた、彼の不器用さでもあったが、3日間もどうするの…? 別の意味で不安がよぎる。これから彼は仕事だというのに、私を連れて行く気なのか?

彼はそんな私の不安などを別に気にもかけてはいない。その理由は、現場に着いてすぐに理解できた。ツームストーンに戻った私たちは、彼の仕事場へ向かった。町に入ると、そこはまるで昔の西部の町並みであった。100年以上前に建てられたような木造の長屋街がダウンタウンなのだ。しかも歩いている人たちまでテンガロン・ハットを被って、拳銃を腰に吊っているのだ。何だここは?

しばらくすると「OKコラン」という看板が見えてくる。ジョンはロックのボリュームを下げ、親指でそこを指しながら
「ここで昔、凄い撃ち合いがあったんだ」と説明してくれた。
言わずと知れた、110年前、1881年の「OK牧場の決闘」だ。保安官ワイアット・アープとドク・ホリディらが、敵役とガンファイトで死闘を繰り広げたのは、あまりにも有名だ。

「ちょっとジョブに戻る」とジョンは、車を停めると工事用のヘルメットを被った。OK牧場から歩いて5分もかからない道路工事現場がジョンの仕事場であった。道路の脇の地面を5m位掘った穴の中では、すでに4、5人の屈強そうな白人の作業員たちが削岩機やショベルを持って働いていた。

「夕方までその辺で遊んで来い!」と彼は言うが、さすがに観光気分にもなれず、私もヘルメットを被り、ジョンの後を追って穴に飛び込む。こんなことになるとは夢にも思わなかった。彼は工事現場の監督だったのだ。アメリカの田舎町で道路工事。

これが、私のアメリカでの初仕事ということになるらしかった。

 

 

第12回:真昼の決闘!?

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