■ニューヨーク・カッパ便り~USアート見聞録

原園 綾
(はらぞの・あや)


在ニューヨーク。アーティストおよびアート・プログラムについて気ままにリサーチ中。ハンター・カレッジ人類学修士課程では知覚進化やアートの起源がテーマ。新しい趣味は手話と空手。2004年はいい感じ。

 

 
第1回:アートな旅
~サンタ・フェ&ラス・ベガスの巻

第2回:美術館でダンスの
展覧会を観るの巻

第3回:アングラ、ライブ、ビデオ、
エッチング…etc
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第4回:幻想的な空間を楽しめるビジュアル本をご紹介


■連載完了コラム
Gallery 1 by 4
~新進アーティスト・ガイド from New York

[全33回]

生き物進化中
~カッパのニューヨーク万華鏡日記

[全15回]

只今、生き物進化中
~カッパ的動物科学概論
[全15回]

■更新予定日:隔週木曜日

第5回:春だよ、イースターだよ、ピョンコちゃんだよ!

更新日2004/03/04


暖かい散歩日和が増えてきたニューヨークです。満員の教室で反対側に座ったクラスメート、金髪で髪の毛を後ろで束ねていてきれいな白いおでこ全開。夜から明け方までバーで働いていると言っていた彼女。おでこに、ど真ん中にでっかくあざが…生まれつきではないはず…だっていままでなかったし。もしや変な客に襲われたのでは? ゲゲゲ。なんだか聞いちゃいけないもののような気がしてそそくさと教室を出た。

帰りにバスに乗って発覚! そうだよ、灰の水曜日だよ! おでこに黒い印をつけて乗ってくるおじいさんやおばさん。この日は教会で灰をおでこにつけてもらってイースター(復活祭)の準備に入るのであった。6年間カトリックの学校に通って一通り四旬節(イエスの修業と受難にちなんだ復活祭への40日間)についてのお話や聖歌には慣れ親しんだはずなのに、ぜんぜん身に付いてないのねー。でも灰を額につけるのってこちらに来て初めて見ました。

最近は、民主党予備選、ジャネット事件(ガタガタ言うな! あれは演出でしょう)、そしてメル・ギブソン監督の「パッション」アメリカ)(日本が話題になっているへんてこな国。灰の水曜日に公開した「パッション」は反ユダヤではないかという点が注目された。まだ観てないけれど、カッパの謎は聖書が書かれた原語、アラム語で演じられたこだわり。

だって時代劇的言葉遣いってウソくさい。つまり、テレビ「水戸黄門」をその当時の人に見せて通じるのか? という疑問。へんてこな時代劇でないといいのですが。役者はいい人出てますし。でもカッパの(←所有格:ファン度表現)ウィレム・デフォーのジーザス(スコセッシ「最後の誘惑」)を凌げるかなあ?!


カッパのお宝LD

映画は気になれば片っ端から観ているのですが、すばらしい! と心に残るものはマイナー系が多く、本当にいいものを観た後は、ハリウッド映画が見たくなくなっちゃう。そんな感じのした最近の映画から。


「The Return」ちらし

「The Return」というロシア映画。宣伝のトレイラー(Webでも観れる)にも一瞬お父さんの姿が見えて、それがあの絵だ! とピンとくる。本編を観たら、ますますその絵のことを思い出して、私の絵はがきボックスをひっくり返すと、底の方から出てきました。後輩カータンと行ったイタリア・フランス卒業旅行で買った絵はがきが。うーっ、なつかしー。そんでもって、あったじゃあーりませんかー。これこれ。マンテーニャ「死せるキリスト」(ブレラ美術館、ミラノ)。


マンテーニャの「死せるキリスト」の絵はがき

とても強烈な構成なので遠近法に忠実なのか誇張しすぎで歪んでいるのかもわからない。ハガキを平たくして角度をつけてみた方が自然に見えるような。でも映像でそのままこんな感じにみえるので、意外と遠近法に則っているのかも。


絵はがきを傾けて見る

タルコフスキー「ノスタルジア」を彷佛させるシーンもある。画面がとても美しい。とくに深い水のような沈んだ色合い。いくつか批評に目を通したら、やはりかなり宗教的なアイコンがちりばめられているようです。お父さんとの写真をはさんである本のページはアブラハムが自分の息子を生け贄に捧げようとナイフをかかげる絵でした。そう、ナイフも大切な要素。家族の食卓は最後の晩餐のような長テープルでお父さんがワインと食べ物を分け与えます。二人のマリアもいます。父の登場からの一週間は、イエスがエルサレムにもどり、最後の晩餐をし、十字架へ…というイースターのクライマックス、聖週間とも重なります。

でも宗教映画ではありませんよ。ロシア版「父帰る」っていったらタイトルそのままだしな…。ま、見てからのお楽しみじゃ。日本でも今年公開されるらしいですぞ。とにかく息子たちが子供と大人の間でぐらぐらしたところから突然大人になったり、また子供になったりする、その二人の表情がとてもいい! お父さんもお母さんも魅力的な俳優さん。

ハリウッド映画との決定的な違いは、語らないところにあります。セリフも少ないけれど、含みというか、描かれた世界の深さを自分で手探りできるゆとりがある大人の映画。アメリカではスリラーとされているが、それはほんの一部であって、映画づくりの口実のようなもの。マンテーニャをきっかけにルネッサンスという言葉を久しぶりに本などで見たけれど、人を描くということはいつまでも続く人間の豊かな作業なんだなー。

語らないといえば、現在日本でも公開しているという「Le Fils 息子のまなざし」ベルギー)(日本


「Le Filsのポスター」

(ベルギー+フランス映画)は本当に言葉が少ない。しかしその分、最初のシーンからこのおじさんの挙動不審な視線、行動に釘付けだっ。言葉に振り回されない分、おじさんの気持ちの傾きや、お弁当箱の感じ、物差しの開き具合、木材の匂い、空のベッドの子供の気配、カフェの空気…がリアルに丁寧に心に焼きつけられる。殺風景なカフェでThe Returnのレストランを思い出してしまった。そういえば、いずれも父子の(ような)関わり、車の移動が絡んでおるんじゃ。

おじさんとの距離を物差しではかるシーンや、おじさんの真似をして木屑を払うシーンとか、小さな宝物であります。

イースターはイエスの復活だけでなく、私の好きなチョコレートやピョンコちゃんもつれてきます。




お店にはイースター・バニーとチョコが勢ぞろい!!

PS:ああ、父子といえば、伝説の建築家ルイス・カーンの息子によるドキュメンタリー「My Architect」もあったよ。亡き父を彼の設計した建物と、その周囲の人たちから探す旅という大変パーソナルな作品なのに、感情的になりすぎず、建築もきれいに撮れていて行ってみたくなったじょ。特にソーク研究所とインド経営大学とバングラディッシュの国会議事堂!

 

第6回:中間試験が近づいてきたあ…ゲロ!