■ニューヨーク・カッパ便り~USアート見聞録

原園 綾
(はらぞの・あや)


在ニューヨーク。アーティストおよびアート・プログラムについて気ままにリサーチ中。ハンター・カレッジ人類学修士課程では知覚進化やアートの起源がテーマ。新しい趣味は手話と空手。2004年はいい感じ。

 

 
第1回:アートな旅
~サンタ・フェ&ラス・ベガスの巻

第2回:美術館でダンスの
展覧会を観るの巻

第3回:アングラ、ライブ、ビデオ、
エッチング…etc
.
第4回:幻想的な空間を楽しめるビジュアル本をご紹介
第5回:春だよ、イースターだよ、
ピョンコちゃんだよ!


■連載完了コラム
Gallery 1 by 4
~新進アーティスト・ガイド from New York

[全33回]

生き物進化中
~カッパのニューヨーク万華鏡日記

[全15回]

只今、生き物進化中
~カッパ的動物科学概論
[全15回]

■更新予定日:隔週木曜日

第6回:中間試験が近づいてきたあ…ゲロ!

更新日2004/03/18


さて、学校はもう春学期の中盤に差し掛かりつつありんす。いままで取りそびれていた必修の「言語学」と「生物人類学」(我が人類学部は4-fieldというカリキュラムで、どれを専攻するにせよ考古学、文化人類学、生物人類学、言語学の4つの基礎コースは必修)、そしてセミナーで石器分析も取っているずら。

今日は「石器分析」と「言語学」の水曜日。「石器」の先生は白いヒゲをはやしたパリー先生。毎回謎のネクタイをしてくる。カンガルーが飛び回っていたり、今日はもちろん緑色のクローバーだらけの「セント・パトリック・デー」のネクタイ。アイルランドの守護聖人の祝日。ニューヨークにもたくさんいるアイルランド系の人たちを中心に、緑色の物を身に付けて5番街のパレードもあったよう。で、そのネクタイって1年に1回しか使えないんじゃないの?

この授業はペーパーがメインで、先週最初のペーパーを提出すると早速つぎなる課題が配られた。最初の課題は、石器を「型式(かたち)から分類、分析する派」と「表面に残る痕跡から機能を分析する派」の論争について。そして第2弾は、「君もはじめにんげんギャートルズ!」(カッパ語訳)。つまり石器を配られて、実際にその石器を使って、どんな素材にどのように用いると、この鋭い刃にどんな形跡が残るかをレポートするんじゃ。皆にオブシディアン(黒曜石)とチャート(石英岩)で出来た小さい石器が二つ配られた。


オブシディアン(左)とチャート(右)どちらも左側が刃


こんなに小さいの!

もちろん、これは教材用で石器時代に作られた代物ではなーい。
「中米の石器には生け贄用のナイフもありますが、できれば生き物には使わないで下さい。」と先生、控えめにアドバイス。さーて、なーにをしようかなあああ。

「言語学」は語彙、形態素、音素、句、構文など、頭がぐちゃぐちゃになりそうやのー。おじいちゃん先生のベンディックスさんは、何ヵ国語も話せて、例文も縦横無尽に出てきちゃう。今日笑ったのは、「with」という同じ前置詞でも、「誰と」とか「何で」など、内容は一様ではないとの例で、「John broke the window with his little brother.」というもの。仲間のwith「弟と一緒に窓を割った」なのか、道具のwith「弟で窓を割った」なのか。これはアメリカ人でも両方取れるそうです。ナンセンスとも言い切れない…苦笑。ブフッ。

今日の「セント・パトリック・デー」のパレードに気付かず、5番街にあるジューイッシュ・ミュージアム に行ったら、交通止めなどで警官が出ていた。もうパレードは終わっていたので、団体さんのバスが脇の道でたくさん待っていた。


昨日の大雪で、奥に見えるセントラル・パークは真っ白なのよ


ほら。5番街から見て。


鼓笛隊もバスへ。パレードお疲れさん。

ニューヨークの一大イベントだね。地下鉄でも緑のセーターやら帽子やら、メークやら、うようよいました。以前クィーンズに住んでいるマリアが、「今日、改札を定期なしで男の子が飛び越えようとしたら、いつも改札の辺りに立っている太ったおじさんがいきなり走って捕まえたんだよねー。警察官だったみたい。それ見てたおばさんが思わず、『あの人てっきりアイリッシュだと思ってたよ』って言ってさー、笑っちゃったよ」と話してくれたのを思い出しました。その地区にきっとアイリッシュが多くて、太っちょオヤジでブラブラしてるって印象があるんでしょうか。警官と並列になっているところがミソ。

もちろんジューイッシュ(ユダヤ人)も多いニューヨークですから、ジューイッシュ系の美術館、博物館もいくつかありんす。その一つでやっている写真展「フォーカス・オン・ザ・ソウル: ロッテ・ジャコビ写真展」の記事を見て行ってきました。


ニューヨーク・タイムズ記事と絵はがき。

とても素敵な写真でした。ポートレイトが魅力的で有名ですが、ライカが出たばかりで、カメラが写真館からストリートに出た時代の街や風景もとても良かった。日本もそうですが、昔のあの空気は、もう今はどこに行ってもないもので、そこまで昔の空気なんて経験してないのに、ちょっとノスタルジックな懐かしさを感じてしまう。人間臭さって、これ本当に臭ってそうな人々の生活。ぷーーん。

1896年生まれの彼女はベルリンで家業の写真館を4第目として継いだ。女性にも参政権を与えた開放的なワイマール共和国が、いかに文化的にも刺激的であったか彼女の作品からだけでも想像できる。ニューヨーク・タイムズに掲載された写真は、クルト・ヴァイルの奥さん、ロッテ・レンニャ「三文オペラ」のリハーサル中に撮影したもの。うわー、かっこいー!

フリッツ・ラングの映画「M」にも出ているペーター・ロレ(記事の右上写真)は、「一枚だけよ」との厳しい注文。上からとらえた彼の顔は彫刻のようであり、また映画のワンシーンのように彼の人生というストーリーを何かしらにじませてもいる。ベルリンでもアメリカでも撮影しているというアインシュタインのこの記事に出ている写真は「ライフ・マガジン」が「カジュアルすぎる、もっと風格のある写真を」と言って没にしたという。そう、雑誌が写真で盛り上がって行くのもこの時代で、彼女は先端のメディアで働くキャリア・ウーマンでもあった。

彼女のベルリン時代の写真がすべて残っていないにも関わらず、他にもバウハウスモホリ・ナジ、ロシア出身のメソッド演技の父スタニスラフスキ、ベルリン・フィル指揮者フルトヴェングラー、バイオリニストのメニューヒンなどなど。舞台関係、ダンサーもいいのありました。で、で、ありましたよーん。私のお宝絵はがきボックスにも一枚。どこで買ったのかも忘れてしまった。パリだったかなー?


絵はがきボックスにあったロッテの作品「ポーリン・コナー」。

1935年にニューヨークに渡ってからも、この絵はがきのように多くのアーティスト、活動家を撮影し、彼女自身も晩年、環境や政治活動に関わったらしい。また、ポートレイト以外にも印画紙に懐中電灯で直接露光するフォトジェニックという技法による作品もモダンな抽象作品になっている。

ロシアで撮影した鉄橋の写真の構図といい、フォトジェニックといい、やはりバウハウスとのつながりがよぎります。面白いのは、それと同時に華のベルリン文化満開感も味わえるところ。彼女の人生だけでもこういった濃厚な時代と併せて興味が湧くのに、ポートレイトを撮る彼女にとって自分自身を作品に表現することは敢えて拒否している。

「モデルのスタイルが私のスタイルになるのです」と。ああ、なんて潔い。謙虚というよりは、もっと広い、いやもしやもっと貪欲なものがあるのかもしれませんぞ。機会があったら是非ロッテちゃん御覧あれ。

 

第7回:ギリヤークさんのスワン・レイクに胸キューン!