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■新・汽車旅日記〜平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第616回:うどんとそうめんの境界 − 徳島線 阿波池田駅〜阿波半田駅 −

更新日2017/02/09


南風16号は南側から中国山地を通り抜ける。土讃本線は四国のくびれに締めた帯。四国の島の中央を南北に貫く。雨だ。車窓から見える路面が塗れている。14時23分、阿波池田着。乗り継ぎ時間は6分。私はカメラのレンズにキャップを付けて、小走りで駅前広場を通り抜け、キャップを外して駅舎を撮った。とんがり屋根は濃い緑色。周囲を見渡して街も撮る。これでは阿波池田を訪れたとはいえない。足跡を残しただけだ。レンズにキャップを付けて、名物祖谷そばのノボリに惹かれつつ、ホームに戻る。


阿波池田駅は緑の三角屋根

徳島行きの普通列車は1両の気動車だ。銀色の1000形。今朝、高知から伊野まで乗った車両と同じ。乗降扉は三つあって、真ん中だけ両開き。端が片開きという変則型だ。通勤通学の混雑に対応するために扉が多い。前面のおでこの位置に徳島の文字。貫通扉にワンマンの赤い文字がある。私はクロスシート側の席に座る。この時間は乗客は少なく、ボックスシートに一人か二人。通路の向こうのロングシートはすべて空いていた。

この列車で徳島に到着すると、JR、民鉄ふくめて、四国島の鉄道を全線踏破である。4月には九州島を踏破している。列島4島のうち二つを制覇し、全国制覇に近づいた。徳島線は今回の旅、最後の路線だ。晴れやかに締めくくりたいと思うけれど雨。雨の景色は嫌いではないけれど、すこし残念だ。


徳島行き1000形、今回の旅、最後の列車

普通列車、列車番号4466D。14時29分に阿波池田駅を発車した。いよいよ徳島線、ではない。ここはまだ土讃本線だ。徳島線は次の佃駅からである。終点は佐古。列車は2駅進んで徳島が終着。起点と終点は地味だけど、ほとんどの列車が阿波池田、または徳島を発着する。国鉄時代は徳島本線を名乗り、短いながら支線もあった。いまも特急"剣山"が1日7往復も走る。時刻表の掲載順はJR四国の最後だけれども。

特急は阿波池田と徳島を1時間10分ほどで結んでいる。我が普通列車は約2時間だ。特急同士の接続は考慮されているだろうけれど、この時間帯は特急がなかった。最後の列車だし、ひと駅ずつ進むほうがいいかもしれない。佃駅発14時35分。さあ、ここから徳島線だ。


沿線は民家が多い

車窓の両側に山が連なる。左側は讃岐山脈、右側は四国山地。ここは谷間。四国最高峰の石鎚山から湧き出た水が、川となって土地を削り、この谷を作った。この川こそ吉野川。四国三郎の異名を持つ暴れ川だった。水が暴れたおかげで谷間ができて、平地が作られて人が住む。船便も栄えた。徳島線は、この谷の地の利を使って吉野川沿いに建設された。1899(明治32)年に徳島から約50kmさかのぼった鴨島まで開業し、さらに山奥へ少しずつ延伸して、1935(昭和10)年に阿波池田に至った。


車も通れる吊り橋

吉野川は車窓の左側に流れている。常に人家が見え、田畑と集落は途切れない。暴れ川と対峙しつつも、やはり水利は暮らしを豊かにする。辻駅を出るとすぐに大きな吊り橋があった。幅は狭いけれど車も通れるようだ。橋の向こうも建物が多い。


おとなしくなった吉野川

地図を観ると、線路はずっと川のこちら側で、線路は対岸に渡るそぶりを見せない。暴れ川が曲がりくねっていれば、直進する線路は何度か鉄橋を渡る。しかし、川幅は広く素直に流れている。両岸に広がり、民家がある場所が吉野三郎の暴れた跡地。ダムを造ったり堤防を作ったり。人々は暴れ川をねじ伏せた。


茶畑が現れた

三加茂という駅のそばに神社があって、緑の木立の中に1本だけイチョウが立っている。幹は黄色い葉に包まれ、落ち葉が境内と神社の屋根の一部に落ち、黄色く染めている。ここは金丸八幡神社といって、秋祭りの神事が徳島県指定無形民俗文化財に指定されている。盤古大王の物語を組み合わせた神楽だそうだ。これは誰かに聞いた話ではない。境内にある白い看板を望遠レンズで撮ったら、そう書いてあった。


黄色いイチョウが映える神社

江口駅で列車交換となった。向こうからやってきた列車は2両編成。手前の気動車はこちらと形が似ているけれど、貫通路と前後の扉が緑色である。後ろの車両は丸みを帯びた形の新型、1500形だ。エコトレインと書いてある。ディーゼルエンジンにコモンレール方式を採用し、窒素酸化物の排出量を減らした。駆動装置は液体変速機を使っている。ディーゼルエンジンのクルマと同じだ。ディーゼルエンジンで発電し、モーターを動かすほうがエコではないかと思うけれど、エンジンとモーターを搭載すれば高く付く。エコトレインはエコロジーでエコノミー、という意味かもしれない。


対向列車がやってくる

阿波半田駅の周辺にそうめんの看板をいくつか見かけた。半田そうめんは徳島の特産品だ。やや太い麺が特徴という。吉野川が作った土地は肥沃で、豊かな水のおかげで小麦が育った。吉野川は近畿との水運も栄え、奈良の三輪そうめんの技術でそうめんを作ったという経緯があるという。


2両編成の後ろが新型だった

讃岐山脈を境にして、香川はうどん、徳島はそうめん。形は違えど、小麦と水の豊かな土地では麺が発達するらしい。そういえば阿波池田には祖谷そばがあった。蕎麦も上質。四国は麺の国。特急列車で駅弁を食べて間もないけれど、腹が減った。温かい麺が恋しい。


阿波半田駅、そうめんの町だ

 

-…つづく

 


杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。京浜急行沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動する。「新汽車旅日記」をきっかけに鉄道方面にも進出した。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員

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