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■新・汽車旅日記~平成ニッポン、いい日々旅立ち
 

第709回:コオリンが来る! - 彦根駅 -

更新日2020/04/16



近江鉄道の彦根駅はJR東海道本線の彦根駅と並んでいる。琵琶湖側の西口がJR、東口側が近江鉄道だ。プラットホームは離れているけれども、その間は線路が並び、構内は一体化されているように見える。近江鉄道は過去に貨物列車も運行しており、ここで国鉄と直通する貨車の受け渡しが行われたと思われる。

01
定番撮影ポイント跨線橋の窓だった

プラットホームに挟まれた線路に近江鉄道の電車が三つ並んでいた。黄色、緑、黄色……。その一つは黄色で、顔つきが昔の国電、総武線各駅停車のようだ。でも側面の扉は3ヵ所しかない。西武鉄道から来た電車の顔だけを改造したというけれども、こんなに国鉄そっくりとは面白い。そもそも、同じ西武の電車でも、ほかの車両は三面鏡のような独自の顔が付いている。なぜかこれだけ国鉄顔だ。改造予算が減ってしまったか。

02
古い機関車が留置されている

プラットホームの東側も車庫である。跨線橋を渡って東口へ向かうと、窓から車庫を見下ろせる。古い機関車がずらりと並び、まるで博物館である。雑誌やネットの記事でよく見かける景色だ。ここが撮影場所だったか。なかなか良い眺め。どれも動かないところが残念である。屋根付きの博物館にしたら観光客が来そうだけど、経営難では難しいかもしれない。改造していない、西武鉄道のままの顔もある。西武鉄道沿線に住んでいる人には懐かしいだろう。

03
顔は国鉄、側面は西武の片側3扉

地上から見物しよう。東口を降りて車庫周辺を歩いた。駅前ロータリーから機関車群を見通せる。南側の道路は線路沿いで、こちらは留置線の真横だ。電車がよく見える。カメラを構えている人がいた。何か目当ての被写体を待っているような雰囲気だ。なんだろう。話しかけてみた。
「なにか珍しい列車が来るんですか」
「コオリが来ますよ」
「コオリ? つめたい?」
「いえ、コオリンです。工事の」
「ああ、工臨、工事用の臨時列車ってこと」
「そうです。平日だけかもしれないんですけど」
「あの機関車のどれかが引っ張ってくるんですね」
「いや、あれはもう使わないです。電車が引っ張ってくるはずです」
なるほど、電車が機関車の代わりになる。古い機関車が不要になるわけだ。
しばらく待っていたら、彼の予言通りにコオリンが来た。ライオンズカラーの電車の後ろに、バラストを積んだ黄色い貨車が繋がっている。珍しいモノを観た。彼に礼を言って駅に戻る。

04
電車にひかれて工臨がきた

彦根と言えば彦根城だ。ゆるキャラ「ひこにゃん」で平成の世に名を上げた城だ。跨線橋の端の窓から天守が見える。彦根で降りたからには見物しようか。地図アプリで調べると徒歩20分。往復40分。入館すれば1時間。その他の時間も含めて2時間コースの散歩になる。今日は日没までに近江鉄道の全線を乗るつもりだ。冬の日は短いから、ここで2時間は取れない。でも、少しだけ近づいて写真を撮ろう。

05
近江鉄道資料館は日時限定公開で本日はナシ
(その後、2018年12月に建物老朽化のため閉館)

06
橋上駅舎の窓から彦根城が見えた

タイマーアプリを10分に設定し鳴ったら戻る。そんなつもりで歩いたら、ビルの工事現場を通りかかった。解体作業のようだ。かなり大規模だ。大きな窓に太い×状の筋交いが入り、それがズラリと並ぶ。これはどんな建物だったか。工事車両入口の警備員さんに聞いてみた。私より少し年上の恰幅の良い女性だ。うっかり口を滑らせたら、マンガのように首根っこを掴まれて放り出されるかもしれない。が、とても優しい笑顔で相手をしてくれた。

07
耐震工事中の彦根市庁舎

08
筋交いダンパーは仮設置か、恒久設置か?

この建物は彦根市の市庁舎で、取り壊しではなく耐震強化工事だ。躯体がむき出しになるまで外装を剥がしている。窓の筋交いはダンパーだという。大きな窓で採光や眺望も良かっただろうけれど、太い×が取り付けられた窓はどうなるのか。それとも工事のために臨時に付けられたか。完成は2021年の春だから3年後だ。城よりもこっちが気になる。市庁舎の落成後の姿も見たい。そうなると彦根城見物はその時でもいい。彦根駅に戻った。

09
街歩き。石屋さんに「ひこにゃん」

行きは彦根城を注視して歩いたけれど、帰り道は周囲へ注意が向く。食堂に「近江牛」のノボリ。近江牛はブランド牛肉の先駆けだ。当地の畜産は秀吉の時代から始まり400年の歴史があるという。これは食べてみたい。食堂の店先には「彦根丼」の文字もある。気になって調べたら、近江牛などを使った丼物である。主役は近江牛。B級グルメのような売りだしだけど、高級ブランドの近江牛では価格のバランスが難しそうだ。さて、B級か高級か、それも次回のお楽しみ。待ってろよ彦根丼。必ず帰ってくるからな。

10
彦根藩初代藩主、井伊直政像
2018年は15代藩主の井伊直弼の生誕200年

-…つづく

 



杉山 淳一
(すぎやま・じゅんいち)
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1967年生まれ。東京出身。東急電鉄沿線在住。1996年よりフリーライターとしてIT、PCゲーム、Eスポーツ方面で活動。現在はほぼ鉄道専門。Webメディア連載「鉄道ニュース週報(マイナビ)」「週刊鉄道経済(ITmedia)」「この鉄道がすごい(文春オンライン)」「月刊乗り鉄話題(ねとらぼ)」などWebメディアに多数執筆。「鉄旅オブザイヤー」最終選考委員。

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『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法: 時刻表からは読めない多種多彩な運行ドラマ!』


列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法
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