第3回:フィリピン・セブ島
更新日2002/03/28
セブ(Cebu)から日本に向かう機中、隣に乗り合わせた初老の男性に声をかけられた。セブ島北端の小さな田舎町に住んでいるというAさん。「日本に帰るのは1年ぶり、日本語でこうして喋るのも久しぶりなんですよ」。真っ黒に日に焼けた顔、60歳は越えているだろうか。
聞くとセブ市内と北端の町をつなぐバス会社を運営しているという。せっかくの機会なので、Aさんに外国人の会社開設手続きなどについていろいろ聞いてみることにしたのだが……。
「実は会社は現地人名義にしていて、役員にも入っていません。スポンサーという形で関わっているので、査証も観光査証なんですよ。延長すれば1年まで滞在できますし、2週間ほど日本にいれば再入国も可能なので、特に不便は感じていません。私の場合は日本に家族が住んでいますし、1年に1回日本に帰るのも楽しみですから……」
セブ市内でタクシー会社や飲食店を経営する日本人は多いものの、バス会社を運営する日本人というのは初めてだった。もともとセブ好きの旅行者だったAさん。たまたま訪ねた北端の田舎町が妙に気に入ってしまったのがそのはじまり。その街にしばらく滞在するうちに何もすることがなくなり、何かを始めたいと考えるようになったそうだ。
そこで考えたのがバス会社。といっても日本の公共交通機関とは異なり、小さなバスがあれば、比較的簡単に始められることを知ったからだ。また、小さな田舎町には交通手段が少ない。新しいバス路線ができれば喜ぶ人も多く、街にもプラスになる……。いわばボランティア的な発想で計画したという。
もちろん始めるにあたっては色々な苦労もあった。
セブ市内で事業を始めようとする日本人の多くは、一度は騙されたりと辛酸をなめるのが普通。Aさんも何度も騙されそうになったものの、幸いにも応援してくれる地元の信頼できる人々のバックアップのおかげで何とか被害は免れたとか。それでも実際に運営を始めてみると色々トラブルもあるらしい。
「一番頭の痛い問題は、バスの売上の一部を自分のポケットに入れる運転手がいること。金額はたいしたことがないのでどうでもいいのですが、問題は不良従業員を解雇できないことなんです。解雇して提訴されたら勝ち目はないですからね。私のように日本人が関わっている場合は、イミグレーションに支障が出てきますし、フィリピンの裁判では100パーセント外国人に非があるとされて、かなりの金額の賠償金支払いの判決が出るのが当たり前の世界なんです。もちろんフィリピンだけではなくて、インドネシアやその他のアジアの国々でも同じだと思いますよ。僅かなお金でも、現地の人にとってみれば生活に影響しますから、根気よく従業員のモラルを上げていくしか方法はないですね」
そう言いながらも、目をキラキラさせて楽しそうに話すAさん。家族はまったく海外に興味はなく、孤軍奮闘中。
小さな田舎町にこだわる、日本人のひとつの生き方がここにあった。
→ 第4回: ネパール・カトマンズ