■めだかのスイスイあまぞん日記~~ゆったり南米ブラジル暮らし

夏川めだか
(なつかわ・めだか)


仙台市広瀬川にて誕生。その後利根川、井の頭公園の池、ダブリンのギネスビール、多摩の浅川などを転々とし、さらなる新天地を求めて、ついに世界第一の流域を誇るアマゾン川へ流れ着く。



第1回:アマゾンでジャングル暮らし?
第2回:こんなとこに住んでいます。
第3回:ゆるゆるモードにはまる。
第4回:「おんな」を満喫!
ブラジル人女性。

第5回:漢字が流行ってます。
第6回:買い物もひと苦労?
第7回:選挙もお祭りなのね
第8回:アマゾンのサムライたち

■更新予定日:隔週木曜日

第9回:市民の足は爆走バス

更新日2004/11/18


こんにちは、めだかです。

外国に行ったときいちばん苦労する乗り物は市バスだと思う。乗り降りも料金の払い方もわからないし、鉄道みたいにきちっとした路線図もないことが多いし…。ということはバスを乗りこなせるようになればもう一人前(?)と言えるかもしれない。そしたらワタシも0.8人前くらいにはなったかな。そもそもベレンには電車がないので日々の移動手段はもっぱらバス。これがまた慣れるまでは一苦労だった。

まず時刻表というものが存在しない。ニホンみたいに「○時▲分発のバスがあるから、じゃあ10分前に家を出て…」なんて計画的なことはあり得ず、とりあえずバス停に行ってみて、たまたま来たバスに乗るということになる。それが5分後に来るのか20分後なのかもわからず、ひたすら待つ。たまに運よくほとんど待たずに乗れたりするとすごーく得した気分になるくらい。

そして停留所というのが今イチはっきりしない。大通りとか市場の前などにはちゃんとそれらしきものが立っていて、バスのナンバーと行き先が書かれているけど、ほとんどの場合何もないか、バスの絵が描かれたちっちゃーな看板が木の陰にこそっと隠れているだけ。でもたいていバス待ちの人たちが何人か固まって、車の進行方向と逆の方を遠い目をして見ているので、「ああ、あそこがバス停だな」とわかるのだ。


バスに乗り込む人たち。少し前まで後ろ乗りだったけど、
今は前乗りが主流。

さらに自分の乗るべきバスを見極めるのがまた困難。ベレンの市バスは循環バスなので、フロントガラスの下の方に往路・復路で通過する地名が小さくずらっと表示されている。だから自分の乗るバスのナンバーがわかっていない時は、目を凝らしてその文字を読み取らなければならず、「これだ!」と見つけたらすかさず手を上げてバスを止める。バスはかなりのスピードで走っているので、明るいうちならまだいいけど夜は字がよく見えなくて困ってしまう。

自分のお目当てのバスを見つけたら、運転手さんの視線をしっかりとらえ、手を水平に挙げ、人差し指を「おいでおいで」みたいに動かして、乗りたいですということをアピールする。ここで「あーやっと乗れるわ、やれやれ」と安心するのはまだ早い。というのは、どういうわけか乗車拒否をされることがよくあるからだ。

別にバスが満員だからとかそういう訳ではなく、単に運転手の気が向かなかったから、止めるのが面倒クサイから…とかそんな感じで、バス停には乗りたいと意思表明をしている客が何人かいるのに、運転手は視線を合わせようとせずスピードも落とさずぶぉーっと走り去ってしまう。置いていかれた方は腹を立てるが、よくあることなのですぐ諦めて次のバスを待つ。でもタクシーじゃなくバスで乗車拒否ってどういうことなの?と、いまだに理解に苦しむ。

ちなみに運転はすごく荒い。急発進するので、乗り込んだら即どこかにつかまらないとホントに危ないし、座っていてもカーブを曲がるときなど手すりを握ってないとイスから振り落とされそうになる。市内を走るバスでもそうなのが、これが中距離バスで国道を走ったりするとまさに爆走状態。初めの頃は景色も見たいしと一番前に乗ってたけど、シートベルトがあるわけでもなく、あまりに速くて恐ろしいので最近は一番前には座らない。

車内には車掌さんがいる。運転席の後ろに車掌席があって、乗客はここで料金を払い、回転扉を押して奥に進む。この扉にはカウンターがついていて通った人数を記録し、最終的にその数と集金額が一致するかどうかを確認するようだ。バス代は一律R$1.15(約46円)で、停留所1つ分でも2時間くらいの中距離でも同じ値段。そしてお年寄り、妊婦、身体の不自由な人、子どもなどは無料。車掌さんはいたってラフな勤務態度で、お客が少ないとつっぷして眠ってたり、新聞を読んでたり、化粧を直してたり、たまたま乗ってきた知り合いと話し込んでたりする。でもま、質問もできるし、乗客は何かと助かっているようだ。

降りたいときは天井に張ってあるヒモを引っぱるとブザーがなり、運転手に知らせる仕組み。でも停留所には名前がないし、もちろん「次は○×前です~」なんて車内放送もないので、降りるべき場所を見極めてヒモを引くタイミングを図るのもけっこうコツがいる。慣れないうちはずいぶん手前で止めちゃったり、かなり行き過ぎたりしたこともある。ちなみに乗り降りはわりと融通がきいて、信号待ちの時など停留所じゃないところでもへーきで乗せたり降ろしたりしてくれる。


左前方が車掌席で、その前が回転扉。

融通がきくと言えば、こっちのバスは路線変更も運転手の裁量に任されている(?)ようだ。ラッシュアワーで前方の道路がかなり混んでいるのがわかるときなど、いきなり手前の角を曲がり、全然別のルートを走り出すのだ。そこで慌てて「ちょっと! ここで降ろしてよ!」と怒鳴って降りて行く人たちもいるけれど(当たり前だわ)、お陰で渋滞に巻き込まれずスムーズに進めたりするので、やるなーと感心する。ちょっとニホンではありえない話だろう。

面白いのはバスにお菓子や文房具など物売りの人が乗ってくることだ。まず前の席からとりあえず乗客に商品を渡しておいて前に立ち、「みなさんこんにちは。今日お持ちしたこの飴は特別製品で喉に良く、しかも特別価格です…」という具合に口上を述べる。そして買いたい人だけがその人にお金を渡し、いらない人は商品を返すというシステムになっている。最初は有無を言わせず品物を渡されるので何かと思ったけど、割といい方法かもしれない。お金を払わず失敬しちゃう人はいないのかしら、なんて心配もしたけど、そんなことは想定してないみたい。基本的にここは性善説で成り立っているようだ。

物売りだけでなく、生活に困窮している人が援助を求めにくることもある。子どもの場合が多いのだけど、小さな紙に自分の家族の生活がいかに苦しいか、少しでもカンパしてもらえたらどんなに嬉しいか…などといったことが書かれていて、これも前の席から配り、寄付する人はして、しない人はしないという仕組み。何でもちゃんと言葉で説明しようとするところがニホンとはちょっと違うなぁと妙に感心している。

ベレンのバスでいいなと思うのは、座っている人がごく自然に立っている人の荷物を持ってあげるということ。最初いきなりカバンに手をかけられた時はびっくりしたけど、もう当然のことなので特に声もかけないみたい。ある時、満員バスに中古テレビを持ち込んできた女性がいたが、座っていたおじいさんがすぐに手を差し出して持ってあげていた。かなりな重さだと思うけど、持ってもらう人も軽くお礼を言うくらいで、ごく当たり前のことのようにふるまっていた。

たまーに友だちや知合いの車に乗せてもらうことがあるけど、冷房もきいているし(バスは冷房ナシ!)、運転もスムースだし快適だなぁと思う。でも、日々利用している市バスではベレンの人たちの生の姿に触れられるし、自分もちゃんと暮らしているんだなという実感が持てるのでけっこう楽しい。これからも爆走バスでスリリングなドライブを満喫しようと思ってます。

 

 

第10回:こんなものを食べてます-その1