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■明日の大人たちのためのお話

更新日2021/02/25

 

 

水の子アクア


 

アクアは小さな小さな水のぶんしです。みなさんが見たりさわったりのんだりする水は、小さな小さなぶんしがたくさんあつまったものです。川の水も海の水も、おふろでシャワーからでてくる水も、泣いたときにでてくるなみだも雨も、みんな水のぶんしがたくさんあつまったものなのです。

ですからアクアにはたくさんのたくさんのなかまたちがいます。ガラスのコップについている小さなすいてきは、少しのなかま、といっても、それでもかずをかぞえれば、かぞえきれないくらいのたくさんのなかまがあつまったものなのです。ぶんしはものすごく小さいからです。

すいてきでさえそうですから、うみともなると、もうとんでもなくたくさんのなかまのあつまりです。うみにいくと砂がたくさんあるでしょう。その砂をかぞえることなんて、とてもできませんよね。でも、すなはまがたくさんの砂でできているように、海はたくさんの水のぶんし、アクアのなかまたちがあつまってできています。

 

アクアたちはみんな、へんしんやぼうけんがだいすきです。アクアたちは、ちきゅうじょうのどこにでもいて、いろんなことをしています。みなさんがごくんと水をのむと、アクアたちはのどをとおってみなさんのからだのなかにはいっていきます。そしてからだのいちぶになります。

じつは、みなさんのたいじゅうのはんぶんいじょう、だいたい、さんぶんのに、くらいが水のおもさです。水はきんにくにも、ひふにもほねにも、どこにでもはいりこんでいます。もちろん、けがをするとでてくるけつえきも、そのほとんどが水です。

けつえきには水のほかにもいろんなものがとけています。みなさんがごはんのときに食べたにくややさいなどのえいようもとけていて、けつえきはえいようを、からだじゅうにセッセセッセとはこぶおてつだいをします。けつえきはけっかんをとおって、からだじゅうをながれていますけれども、水がなければけつえきもえいようもながれることができません。

 

ですからアクアたちがいなければ、にんげんはいきていくことができません。にんげんだけではありません。ちきゅうには、たくさんのどうぶつや、くさきなどが生きていて、ライオンもハクチョウもカブトムシもチューリップもイヌもネコもサカナも、水がなければ生きていくことができません。

すべてのいのちは、ちきゅうにたくさんの水があったから生まれたのです。もちろん、いのちが生まれるには、水のほかにも、くうきやひかりもひつようです。すばらしいことにちきゅうには、水やくうきがたくさんあって、たいようの光もたくさんふりそそいで、そうしていろんないのちが生まれたのです。ちきゅうはほんとうにほんとうにステキなほしです。

 

アクアのなかまたちは、みなさんのからだのなかにいるだけではなくて、いろんなところにいます。つちのなかにしみこんでいたり。みんなであつまってかわをながれたり、すいじょうきになってそらにのぼってくもになったかとおもうと、雨になってちじょうにおりてきたりします。

アクアは、そうしていろんなところにたびをします。いつまでもどこまでもたびをします。たとえばアクアは、みっかまえに、雨になってそらからちじょうにおりてきました。そしてアクアは、ランドセルをせおってがっこうへいくとちゅうの、しょうがくせいのかさのうえにおちました。そのときはじけて、こまかなみずたまになりました。そしてじめんにおちて、それからなかまたちといっしょになって、かわにながれこみました。

いっしょにそらからおりてきたなかまたちのなかには、いえのやねのうえにおちたなかまもいて、そのなかまたちもやねからあまどいをつたって、そしておなじようにかわにながれて、いっしょにかわをくだりはじめました。いまごろはたぶん、そろそろ海にいるたくさんのなかまたちと、いっしょにいるかもしれません。

アクアたちはふだんはやさしく手をつなぎあっていますから、どんなかたちにもなれます。うみの水をコップですくえば、コップのかたちになります。大きな海にもなれます。おなじ海でも、ほっきょくやなんきょくのようなさむいところでは、アクアたちはしっかり手をつなぎあって、かたい氷になります。アクアたちは水にも氷にもすいじょうきにもへんしんできます。そうしてへんしんをしながら、いろんなところにたびをします。

 

アクアのなかまたちは、のはらにさいている美しい花のなかにも、花にとまるチョウチョのなかにも、空をとぶ鳥たちのなかにも、大きなキリンや小さな虫たちのなかにも、海をおよぐクジラのなかにも、ウミガメのなかにも、春のあたたかな風のなかにも、あなたがはくいきのなかにもいて、しょっちゅういばしょをかえて、そうしてたびをつづけます。

ですから、いまあなたのからだのなかにいるアクアのなかまは、もしかしたら、きょねんはおかあさんのなかにいたかもしれません。おともだちのなかにいたかもしれませんし、とおいがいこくのおんなのこの、青い目のなかにいたかもしれません。ひょっとしたら、とおいむかしに、アフリカのライオンのからだのなかにいたことだってあるかもしれません。

さむい冬のひに、あなたがふうーっとはいた、白いけむりのようないきが、すがたをけして風にのってそらまでのぼって、そしていつかまた、空から白い雪になってフワフワまいおりてくるかもしれません。

みんなつながりあっていきています。みんなステキないのちの星、ちきゅうのなかまたちです。ほらほら耳をすませば、アクアたちのうたがきこえてきます。

 

 わたしはアクア、小さな水の子。

 いつでもだれかのそばにいて

 いつでもだれかのなかにいて

 いのちのうたを歌います。

 

 わたしはアクア、小さな水の子。

 海になったり雲になったり

 風のなかにかくれんぼをしたりして

 いのちのうたを歌います。


 わたしはアクア、水の子アクア。

 ステキなみんなをキラキラさせて

 そんなみんなのおともだち

 ちきゅうのみんなのおともだち。


-…つづく

 

 

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谷口 江里也
(たにぐち・えりや)
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本や歌や建築、さらには自治体や企業のシンボリックプロジェクトなどの、広い意味での空間創造を仕事とする表現哲学詩人、ヴィジョンアーキテクト。
主な著作に『鏡の向こうのつづれ織り』『鳥たちの夜』『空間構想事始』『天才たちのスペイン』、主な建築作品に『東京銀座資生堂ビル』『ラゾーナ川崎プラザ』『レストランikra』などがある。
なお音楽作品として、シンガーソングライター音羽信の作品として、アルバム『わすれがたみ』『OTOWA SHIN 2』などがある。

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