第930回:山に書かれた大文字
遅くなりましたが、“新年あけましておめでとうございます。”
山に囲まれた町から毎日それらの山々を眺め暮らしている人々が、山に対してある種の神秘的な自然信仰に似た感覚を持つのは当然のことでしょう。
有名なのは京都、東山の“大”文字で、周知の通り書き順通り火が灯され夜空にくっきりと浮かび上がります。一方如意ヶ獄の“大”の文字はいっぺんに燃え上がります。その他、京都五山、北山の“妙”“法”“舟形”“舟形”“左大文字”そして、北嵯峨の“鳥居の型”と灯されます。
これらの火文字は、仏教の野辺送りと関係がある、古い伝統だそうですね。
アメリカにも山に巨大な文字を書くことがあります。
主に、西部の山間にある町でのことですが、地元の高校の愛称のカシラ文字を岩山の山腹に大きく描くのです。
山といっても、ここらのロッキー山脈の間にある村や町には木に覆われていない、岩山、小高い丘があり、その斜面に多くの場合は町のカシラ文字を山肌とは異なった色の石を並べて書くのです。それは地元の高校生が動員され、余暇で作り上げます。
私たちが毎年行くスキーの基地にしているサライダ(Salida)という町は、イニシャルの“S”を山の中腹から頂上にかけて、遠くからでも見えるように大きく書かれています。その丘山に散歩がてら何度か登ったことがあります。近くで見ると、実に大きな文字で、目立つような明るい色の石ではなく、石ころに白ペンキを塗り並べています。しかし、山に文字を書く、浮かび上がらせるのはとんでもなく大変な大仕事だということが知れます。地元の人に訊いても、いつ完成したのか知りませんでした。
今では、その文字“S”になぞって豆電球が灯され、夜空にクッキリと浮かび上がる仕掛けが施されています。
私が育ったミズーリー州、そして中西部の大平原の州には山がありませんから、それぞれの村や町にある高い水道水用の大きな貯水タワーにその町の名前を大きく書いています。宇宙人のような頭でっかちのタワーがあり、そこに落差を利用して水圧を掛け、各家庭に配水するための水道水の貯水タンクを天高く持ち上げているのです。地震の多い国、地方ではチョットあり得ない光景でしょうね。
もう50年ほど前になるかしら、ヨットでクルージングしてた時代に、小型飛行機で世界を回っている人に出会ったことがあります。意外とヨット乗りにパイロット、飛行機乗りが多いのです。カーナビのような便利なGPSがない時代のことですが、彼曰く、アメリカの田舎町へアプローチする時、一番役に立つのが山に書かれた大きな頭文字と貯水タワーに書かれた町の名前だったそうです。
私たちがアメリカの中西部をドライブしている時、田舎道の遥か向こうにまず見えてくるのは貯水タワーです。私たちの車には未だにカーナビなど付いていないので、もっぱら道路地図と走行距離でどこまで行ったかを知るのです。その意味でも、貯水タワーに書かれた町の名は大いに役に立ちます。
とは言っても、山に書かれた大きな文字と人造の貯水タワーに書かれた町の名前がいかにハッキリと大きく書かれていたにせよ、比較できるものではありません。山にはアニミズムと呼んで良いのかしら、山には精霊が宿る、谷間に棲み、いつも見上げている山々に精神的、心理的な思い入れがあるのだと思います。町の人にとって山は神秘的な存在なのでしょう。山は神なのです。
でも、日本で“山の神”と言うと自分の奥さんのことを意味するのはどうしてでしょうか。日本では奥さんは山のように不動の力強い存在だった(過去形です)のでしょうか。
第931回:一人暮らしの老人と介護保険
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