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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第851回:4年に一度のお祭り騒ぎ

更新日2024/05/16


4年一度の祭典といえばオリンピックです。近頃だんだん人気がなくなり、当事国と日本、アメリカだけが大騒ぎをしているようですが…。 
お祭り騒ぎが大好きなアメリカでは、4年に一度の祭典といえば、大統領選挙です。丁度オリピックと同じ年に行われます。オリンピックなら15日間で終わりますが、大統領戦は1年も続くのです。

舌戦はその遥か以前に始まります。選挙運動、お互いの揚げ足取りが本格化するのは本選挙の1年ほど前からです。大統領選挙の奇怪なやり方は簡単に説明すると、各党が党を代表する指名を争うことから始まります。現在アメリカは典型的な2党代表政治システムですから、民主党か共和党ということになってしまいます。アメリカの政党政治、2党独裁?を打ち壊し、第三、第四政党を作り、そこから大統領を送り出そうという運動を展開し、第三の候補者が現れたこともありますが、とてもとても組織力、金力が圧倒的な二大政党には太刀打ちできませんでした。
 
各党での指名者争いは、その党員だけが投票権を持っています。いわばその政党の誰を大統領選挙に送り込むか絞り込むための大会が各州で順ぐりに開かれます。これがまた大掛かりなお祭り騒ぎ、ドンチャン騒ぎで、それぞれ支持する候補者の名前を大きく書いたプラカードやパネルを掲げ、支持する候補者の名前入りのTシャツ、野球帽で身を固め会場に集まります。プラカードやその他のあらゆるグッズは資金の豊富な候補者はタダで配っていますし、あまり資金繰りが豊かでない候補者は安い値段でグッズを売り、それを運動資金に当てています。

一人ずつ演壇に立ち、自分の政策を述べる…のは二の次で、いかに大衆にアピールするかが焦点になります。そして全員勢揃いで壇上に並び、お互いにやり合います。こんな状況はテレビで実況中継されます。ですが、何度も同じことの繰り返しなので、見ている方も飽きがきてしまいます。その都度投票があり、支持率の低い、党の指名権を得る可能性のない候補者は次々と脱落していきます。面白いのは、「もう辞めた!」という候補者が自分に集まった票をまだ生き残っている候補者に譲ることです。

そして、党を代表する候補者一人に絞り込んでいきます。

さて、党の、二大政党の候補者が確定してからも、各地で党大会が開かれ、お祭り騒ぎは続きます。最終的には、二つの党の代表者が対決する討論会が開かれることになります。

ですから、この4年毎の大統領選挙の年は、政府も議員もいかに選挙に勝つか、それには何をどう言えば国民にアピールし、票を獲得できるかに焦点が絞られ、マスコミ受けのする言動が多くなります。

そして、大統領本選挙になります。

この大統領選挙は州ごとに振り分けられた選挙人(と呼ばれる)に投票します。その結果、一票でも多く獲得した政党の候補者がその州すべての代表人になり、その人数が本選挙で数えられることになります。ですから、一票差で負けた候補者の票は膨大な死に票となります。

全米の投票で絶対多数を得た候補者が、選挙人の獲得数で負けるケースが当然出てきます。また、加州ごとに何人の選挙人がいるか、一応州の人口に比例することになってはいますが、とてもとても、州の人口に対応し、完全にスライドすることなどできていません。

このように選挙人を選ぶやり方は世界でも珍しく、ユニークと言えば、ユニークなやり方かも知れません。電信、電話、交通遮断のなかった西部開拓時代のやり方をそのまま引き継いでいるのです。  

こんな選挙のことを書いたきっかけは、日本の総理大臣、岸田さんがワシントンを訪れ、議会で演説をしましたが、アメリカのマスコミは全く無視、この選挙戦に忙しい時期にアンタ何しに来たのとばかり、岸田さんの訪米は、テレビ、新聞に全く取り上げられなかったのを知ったからです。

ダンナさんが日本のニュースで、「オイ、岸田さんがアメリカに来ているぞ!」と教えてくれ、その日のニュース、マスコミに日本の首相、訪問の記事を探したからです。ニューヨーク・タイムズが辛うじて、3面か4−5面にトピックス3行記事のように取り上げていただけでした。アメリカのテレビ4大チャネルでは完全無視でした。

日本のインターネット・ニュースでは、岸田さん、アメリカの議会で大歓迎、大いに受けたように書いてあり、テレビにニュースにも彼が演説した様子を流していました。なるほど、岸田さんの英語、なかなかのものですし、ずいぶんリラックスして、「日本の議会で、こんなに盛大な拍手をしてもらったことがない」などと冗談を交えていました。

ですが、岸田さん、米国に対し一体どんな懸案を持ち、それをどのように提案し、交渉し、合意に達したかという、実際の成果は何もなかったのではないでしょうか。アメリカのマスコミに無視される所以です。それにしても、日本とアメリカのマスコミの取り上げ方にこんなに大きな差があるのはショックでした。

アメリカ側にすれば、この大統領選挙で大忙し、外交ではイスラエル、ガザ、ウクライナにどう対処するか、どれほどのお金を注ぎ込むかで大忙しの時期に、何しに来たの? というところでしょうか。岸田さん、アメリカ訪問の時期を誤ったと言えます。
 
これから11月の大統領選挙まで、アメリカの政治、外交は各々の政党がいかに票を獲得するかだけに動き、実際の政治はストップしてしまう時期なのです。連日のようにマスコミに堕胎問題が取り上げられているのは、それが膨大な票に結び付いているからです。キリスト教の宗派がやたらに多く、保守的な教会から、比較的進歩的な宗派まで、その中間に無数にある宗派の票をなんとか取り込もうとしているから、マスコミも政党も堕胎に大いに力を入れてキャンペーンを繰り広げているのです。

古代オリンピックは、その開催中、たとえ戦争をしていても、ともかく一旦中断し、オリピックに参加したようですが、アメリカ的民主主義のお祭りでは、4年に一度、得票集めのため以外、他のすべてが忘れられる運命にあるのです。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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