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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第881回:Mansplaining…

更新日2024/12/26


こんな英単語を知らなくても当然です。辞書にも出ていないし、しかも新しい造語なのです。しかもこれはアメリカの社会現象と言っていいか、アメリカ人男性に多く見られ、おそらく日本にはない現象でしょう。

この「Mansplaining」という言葉、現象は、man<男>とexplain<説明する>をくっ付けた造語で、なんでも説明したがる男性に対して使われます。

昔から、おしゃベリは女性の特権と思われてきました。久しぶりに顔を合わせたクラス会などでも、必ず一人か二人、この時とばかりしゃべりまくり、それも集まった旧友たちに関係のない、自分の孫や家庭のこと、最近離婚し再婚した顛末、団地の両隣との葛藤などなど、まるでマラソンで最終ラウンドに入ったかのように息せき切って話すのです。

彼女たちの特徴というのか、傾向は他の人の話を聞かない、自分が喋っている時に他の人に割り込ませない、自分中心の独壇場になることです。時にこれなら旦那さんが逃げて行くのも当然だ……と思わせます。

でもここに登場するのは、そのような女性軍のおしゃべりではなく、新種の男性のしつこい話し方をする人種です。
 
私の弟はハイテックのエンジニアで、自分の自慢話は決してしませんが、ある特定の分野で相当能力があり、勤めていたコンピュータ会社でもかなり重要な地位についていました。言ってみればプロのコンピューターオタクです。

そんな彼に電話し、例えば簡単な税金のこと(アメリカではすべて個人個人が申告しなければなりません)、銀行の利子、私たちの貯金など、わずかな上、利子たるやゼロに等しいのですが、それも収入とみなされ、課税されるのですが、その利子を今、引き出して税金を払うべきか、小額なので無視して銀行に預けっぱなしにした方がいいのかを尋ねたところ、弟はこれぞオタクの極みとばかり、税制、収入によって異なるのは当たり前ですけど、どんな控除があり、課税を逃れるために、どのような処置をすべきか、などなど、まるで税理士か会計士のように事細かく説明するのです。

私の方は、アレっつ、失敗した、弟に問い合わせるんじゃなかったと後悔し始めるほどで、ユウに1時間以上の講釈を聞くハメになります。元々弟はお喋りな人ではないのですが、何か一つのことを尋ねると、十になって返ってくるのです。

私はそれを“全知、俺は何でもすべて良く知っている”男性の態度、とりわけ、女性に対して、何でも説明したがる傾向を「mansplaining」と呼び習わしたのは、けだし名言だと納得させられるのです。
 
父親もお喋りで有名です。彼も普通、電話が1時間以内で済むことはありえません。彼は何でもかんでも自分が知っていること(時に知らないことまで)説明したがるのです。そんなこと私知っているよ…と言っても、自分の知っていることを喋り続け、途中でやめさせることなど不可能なのです。

父親の方は、説明書や取扱い注意事項などを丁寧に読んで聞かせてくれるのです。もちろん、そんな明細などこちらとしては耳にしたくもないのですが、延々と読み上げるのです。これも何かを教えたがる、とりわけ無知な女性の私に対して、のです。長年中学校の先生を務めていたせいか、教会で説教をたれていたせいか、生まれつきなのかは分かりませんが…。

このような「mansplaining」症状は普段無口なナード(nerd;オタク)タイプのエンジニアに多く見られます。スキー仲間にも一人いて、あらゆるテーマに関して彼は良く知り尽くしていると自分で信じていて、確信に満ち満ちて、トウトウと述べるのです。

至極簡単なこと、スキー靴の硬いバックルをどう締めるかなどを尋ねたら最後、スキー靴の構造、どのバックルが一番大切か、何番目のバックルから締め、徐々に全体を締めて行くか、レーサーはどうしているか、足首のベルトはどの程度の強さで締めるのか、と説明が続くのです。それがなければ、にこやかなとても良い人なんだけど…と思わずにいられません。

うちのダンナさんは極端に反対で、他人にモノを教えるのが好きでないのか、いつも説明不足で、日常の生活でもこれから何をどうするのか曖昧モコなことが多いのです。ヨットのエンジンをスタートする前のチェック、冷却水レベル、ベルトのテンションなど一度私に教えたら、あとは私に任せっぱなしなのです。

世の男どもはメカニックのこと、船のエンジン、車のメインテナンス、機械のことは女に理解できない種類のことだと、頭から信じ込んでいるようなのです。私が船のエンジン始動前のチェックを私がしていると言うと、驚くどころか呆れる人、男どもが多いのです。
 
彼の友人たちにもマッチョな「mansplaining」タイプはいませんから、きっとアメリカ的な現象、普段女性に押さえつけられている鬱憤が跳ね返ってきているのかもしれませんね。その中に、お前たち女どもはこんな簡単なこともわからないのか、それじゃ俺が教えてやる、というような感覚、感情が見え隠れしているようなのです。

それをありがたく拝聴するのが慎ましい女性の態度なんでしょうけど、そんな判り切ったこと、何十年前から知っていることを長々と喋るな! とやると、ナーンか相手を偉く傷つけることになり、人間関係がうまくいかなくなるので、この際、男どもの「mansplaining」を聞き流すのが賢い女性たるものの態度なんでしょうね。

時間の無駄、浪費と分かっていても…。

 

 

第882回:抜きん出た女性たち

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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