第153回:旅の疲れか、疲れる旅なのか?
学校の先生という職業柄、薄給ですが、その見返りとして、学生さんと同様に盛大に休暇を取ることができます。まず、他の職業だったら、3ヵ月の夏休み、ほぼ1ヵ月の冬休み、1週間の春休みなど取ることは不可能でしょう。本来なら、長い休みは研究のためにあるのですが、そのあたりは緩やかに構えて、深く考えないことにします。
こんなショーバイ柄、普通の人より余計に旅をすることができます。うちのダンナさんの実家のある日本へ、年一度は通っているし、ここ数年生徒さんを連れて日本修学旅行にも行っています。私の両親の住むカンサス・シティーへも去年は3回行っています。加えて、まだ言語学者の端くれですので(もうだいぶ化石化してますが)、カルフォルニアや東海岸の街の学会にも年2回は顔を出しています。いずれも飛行機の旅です。
ところが、だんだん飛行機の旅が億劫になってきました。若い時には気にならなかったのでしょうけど、長い列を作ってセキュリティーチェックを通り、いざ飛行機に乗るときに、我先にゲートに詰め寄り、いざ座席に着いたら、隣にウルトラデブが私の領土を侵すように肘掛から腕だけでなく、横腹の肉まで侵略させ、無愛想で乱暴なスチューアデスに気分を害し、我慢を重たあげく、それでも時間通りに目的地に着けばまさに運の良い方です。
私の住んでいる田舎町から小さな飛行機に乗って、大きな町まで行き、そこで乗り換えるのですが、通常2回から4回乗り継いで目的地に到達します。そして、この頃、飛行機の遅れで乗り継ぎがうまくいかないことが多くなりました。
天気が原因で遅れが出た場合は、次の乗り継ぎ便を探してくれますが、遅れに対して航空会社は責任を負いません。整備などの問題で遅れた場合は、一応航空会社の責任になり、やむなく一泊しなければならないときには、指定したホテルを世話してくれます。ところがこれが曲者で、飛行機一機分の乗客がサービスカウンターに詰めかけ長蛇の列を作ります。そして、そのサービスカウンターには、大抵一人か二人しかアテンドする人がいないのです。
今度の旅で、またまたそのようなことが起こりました。到着が遅れ、乗り継ぎ便に間に合わず、次の振替便の席を取ろうとしましたが、なんと100人以上がすでに並んでいたのです。そこで2時間半待ち、やっと最終便でデンバーに着きましたが、そこから私の田舎町へ行く飛行機はとっくの昔に飛び立った後で、今度は次の日の便の席を確保するため、またサービスカウンターで1時間40分待ち、飛行場のホテルに入ったのは深夜の1時を過ぎていました。それから4時間半ほどベッドに付き、朝一番の飛行機でやっと私の町にたどり着いたのです。
こんなことは、飛行機で旅行をする以上、仕方のないことで、天候不順にしろ、整備にしろ、安全にお客さんを運ぶ以上、飛行機会社も無理をしないほうがよいに決まっています。
それにしても、サービスカウンターで働いている人のイライラした不親切さは表彰ものです。まず2時間も待たせること自体がおかしいし、やっと自分の番になってから、"Next!"と叫ぶのもどんなものでしょう。せめて"プリーズ"を付けても、唇や声帯が減るわけではないでしょう。ゾロゾロとフェンスのような枠の中を進んでいるとき、後ろにいたおじいさんは、「まるで牛か馬の積み込みだな…」と笑っていましたが、サービスカウンターのおばさんの態度は、アウシュビッツの監視員もかくやと思わせるものでした。
それでも、彼女は遅くまで残って乗客の世話をしているから、まだマシなのかもしれません。途中でプイと消えた二人の地上勤務員はどこに行ったのでしょう?
夜遅く、イライラ、カッカきている乗客の相手を長時間するのはとても大変なことだと思います。彼女たちも、商業主義の犠牲者と言ってもよいでしょう。
アメリカの飛行機会社でこんな扱いを受けるたびに、ああ、これが日本ならと、嘆息しないわけにはいきません。飛行機で出すオシボリは日本が始めたそうですが、これから日本は、"日本的サービス"を輸出してはどうかしら?
第154回:ガンを抑えるのはガン?
|