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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
第154回:ガンを抑えるのはガン?
更新日2010/04/01


抗ガン剤、制ガン剤の話ではありません。ガン、鉄砲、ピストルの話です。

もうアメリカの伝統的年中行事になってしまったかのような大学のキャンパスでの乱射事件を防ぐには、良い学生さんも皆そろって銃を持って通学し、何かことが起これば、手持ちの銃をさっと引き抜き、乱射している狂人を撃ち殺せ。自分を守るのは自分しかないのだから、どこでも銃を持ち歩くのは、自分を守るための権利のひとつだ、という運動が広がりをみせています。

日本人がアメリカのスポーツ用品店だけでなく、ウオルマートやKマートのような大型スーパーに行って驚くのは、ピストル、ライフルなどが日常雑貨と同じ感覚で並んでいることでしょう。

そして、街中で西部劇のように腰に拳銃をぶら下げて歩いている人に出会っても驚いてはいけません。アメリカの38の州では腰に実弾の入ったピストルを下げて公衆の中を歩いても全く罪にならないのです。

今まで、国立公園内への銃の持ち込みは禁止されていましたが、この2月から許可になりました。国立公園での狩猟は禁止されていますから、純粋に護身用?人間が対象ということになります。

それに続いて、今回の大学キャンパスへの銃火器の持込許可です。

コロラド・スプリングという町の高校では、授業の一環として銃火器の取り扱い、射撃訓練を取り入れ、すでに実施しています。また、多くの学校で、構内にガンマンが侵入したという想定での非常事態訓練を実施しています。

テレビ局が奇妙な実験をしました。授業中にガンマンが闖入する設定の訓練です。ガンマンが襲ってくることは、生徒さんにも先生にも知らせてあります。ただし、何時侵入してくるのかだけは先生も生徒さんも知りません。普段から銃の扱いに慣れた学生さんには、ペイントボールガンというピンポン玉が飛び出す銃で、玉が当たるとピンポンボールの中に入っている派手な色のインクが破裂し、被弾したことが判る銃を渡してあります。ガンマンもペイントボールガンを持って侵入してくることは前もって知っているのですから、訓練というより遊びに近いゲームです。

すり鉢状になった教室に黒ずくめの賊が突如侵入し、銃(ペイントボールガンですが)を乱射し始めます。生徒さんは本当の事件さながらに、ワー、ギャーと叫び、われ先に教室を出ようとします。そうしない人は、机の下に身を隠そうとします。多少は腕に自信のある、日頃から射撃訓練をしている銃を渡されていた学生さんが8人いましたが、5人は一発も撃つことなくペイントボールに染められ、やっと銃を取り出した学生さんも、一人はとんでもない方へ撃ち、立ち上がって銃を引き抜こうとしてる間に彼らのシャツは賊の撃ったペイントボールのインクに染め抜かれていました。もう一人は仲間の学生を撃ってしまい、もう一人は自分を撃ってしまったのです。この状況は隠しカメラに映っていました。

後のインタヴューで、銃を持った学生さんたち全員が、緊急時に応戦することは不可能に近いと告白していました。それなのに、キャンパスへの銃の持ち込みを許可しようというのです。

パイオニア時代の西部の多くの町では、ピストルの携帯を禁止し、町に入ると同時に重火器を保安官の事務所に預けるシステムを取っていましたから、町の中は当然、大学のキャンパスでも腰に拳銃を下げて歩くことができる現在の状態は、まるで100年以上前の銃携帯禁止令のない、無法の町に戻った感じです。

もし、パイオニアたちが現代の町に迷い込んだら、これ見よがしに腰に銃を下げてスターバックスコーヒー店やショッピングモールにいるガンマンを見て、きっと怖がることでしょう。そして乱射事件、殺人の記事が満載された新聞を見たら、なんとまー野蛮な国になったものだと思うことでしょう。

アメリカ人はピストルなどの銃火器で自分を守らなければならないような民主主義(?)しか想像できないのでしょうね。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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