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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第852回:自分の国籍を選ぶ権利

更新日2024/05/23


私は何も自分で選んでアメリカに生まれてきたわけではありません。偶然と言っても良いでしょうか、気が付いたらアメリカの中部、ミズーリー州の片田舎で生まれ育っていただけです。ウチのダンナさんも同じように偶然から日本に生まれ、そこで育ちました。

生まれる場所と時代は宿命というのでしょうか、それで運命が大きく左右されます。

私たちはどうにも、変えることができない宿命の下で、彷徨い、煩悶し、向上を目指して生きなければなりません。

私は心底から、自分が本当に幸運だったと思わずにいられません。第一に、日本とアメリカが第二次大戦後、戦争をせずに過ごしてきたし、パレスチナやアフリカの混沌とした国に生まれなかったことに感謝しています。また、アメリカとメキシコの国境に詰めかけている何十万人という難民、移民の群れの中に自分がいないことを喜んで良いのか、ただ高みの見物的な同情心を抱いている自分に気づかずにはいられません。
 
アメリカは移民で成り立っている国です。アメリカ人のルーツを探れば、ほんの200ー300年前にヨーロッパから渡ってきた人ばかりです。わずか原住民のインディアン以外すべて移民です。私のひいお爺さん、ひいお婆さんもスコットランドからの移民です。今国境を越えてアメリカに入国しようとしている中南米の人たちに言わせれば、「お前たち、少しばかり先にアメリカに渡ってきて、住み出したからと言って、そんなに偉そうに振る舞うな!」ということになるでしょう。

ダンナさんにも、私にも、“在日”と称されている日本に住んでいる韓国人、朝鮮人の友人がいます。彼らは日本で生まれ、育ち、日本語を唯一の言語として日本で生活してきました。ですが、彼らは日本国籍を持たず、永住許可証のような外国人登録証と、自国である韓国、北朝鮮のパスポートで生活しています。

敗戦後、日本政府は一度だけ、彼らに日本国籍か彼らの自国の国籍を取るか選ばせたことがあります。以後、締め付けが厳しく、日本国籍を取得することはとても難しくなりました。一番簡単な解決策は二重国籍を認めることなのですが、日本の政府はガンとして二重国籍を許しません。今“在日”と呼ばれている人たちの親の多くは強制的に日本に連れてこられたのですが…。
 
アメリカをはじめヨーロッパの多くの国、中南米では二重国籍を認めています。
国の重要な歳入に関わる税金だけはキチンと申告し、納めてくれればそれで良いというスタンスです。二重国籍を税金逃れのために悪用するケースがママありますから、アメリカの場合はアメリカ国内で得た収入にはもちろん税金を払わなければなりませんが、アメリカ以外の国で得た収入、それに海外に持つ資産、預金などもその国で支払った税金の証明などを加え提出しなければなりません。それでも、二重国籍を認めてくれるのは大感謝、大人の態度だと思います。

ウチのダンナさんは日本国籍、日本のパスポートの所持者で、アメリカで俗にいうグリーンカード(エイリアンカード)を持たされています。アメリカ国内で働くのは自由で、それに対して税金を支払わなければなりませんが、投票権はないという半国民です。いつでもアメリカ国籍を取得できる条件を持っているのですが、そのためには日本国籍を放棄しなくてはならない、という条件が付き、彼、日本国籍を捨ててまでアメリカ人になりたくはない…とのたまっております。
 

以前、日本の外国人登録事務所へ、私の日本の永住権についてお伺いをたてに行ったことがあります。
いやはや、なんたるお役所でしょう、廊下に詰めかけているのは見るからに東南アジア系の人ばかりで、私一人だけ、コーカソイドの白人でした。やっと順番が来てお役人さんの口上一番が、「お前はロシア人か?」ときたのです。きっと当時、ロシア人が大勢日本在留を希望していたのでしょう。

その時、定年退職したら、日本に住もうかと模索していた時期で、現役でしたから、現職の簡単な証明、日米両方の結婚証明証、日本の戸籍謄本などなどを持参していました。しかし、アンタ方、恥ずかしくないのというほどの豹変ぶりで、係官は急に親切になり、日本で働いたことがあるかという質問に、上智大学で客員教授を1年間やったと言ったところ、そのお役人さん、アンタ、ロシア人かと言ったことなどすっかり忘れて、それはそれは親切に日本で外国人が永住権を取得するプロセスを詳しく説明してくれたのです。

ですが、このような外国人コンプレックスを持つ人は私がアメリカ人で博士号を持っていると知り、気持ちが悪くなるほど親切でしたが、コロッと手のひらを返すように、東南アジアの人々には高圧的になるのでしょうね。ダンナさん、「あんなのをコッパ役人根性と言うんだぞ」と教えてくれました。

それぞれの国に事情があるのでしょうけど、自分が生まれた国に縛られない、その第一歩として、日本での二重国籍は検討するべきだと思います。

日本で二重国籍が許されるようになったら、私はいの一番に日本国籍を取得するつもりでいます。
そして、在日の方々、モンゴルからのお相撲さんと一緒に新日本人になった祝杯を挙げたいものです。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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