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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第853回:パリ祭とオリンピック

更新日2024/05/30


俗に“パリ祭”と呼んでいるのはフランス革命の記念日で、丁度本格的な夏になる7月14日です。それを期に、パリはヴァカンス狂想曲が始まり、夏のメチャ暑い時にパリにパリジェンヌ、パリジャンはおらず、いるのは外国人観客だけになってしまいます。

それにしても、パリは美しい街です、絵になるところです。スマホのカメラで裏町や街角のカフェを撮っても、これぞパリだと思わせます。世界中の街で訪れる観光客の数では、万年トップの座を維持しているのも頷けます。

エッフェル塔、ルーブル美術館、ノートルダム寺院(再建中ですが…)、シャンゼリゼ通りの並木道、そしてセーヌ川河畔と大きな見ものもありますが、道路に張り出したカフェに陣取り、パリジャン気取りで行き交う人を眺めるのも良いものです。なんたってパリはピーピル・ウォッチ(people watching)のパラダイスなのです。行き交う人も見られることで磨き上げられているのです。貴方が多少の食通なら、舌を満足させるレストランがそこここにあります。
 
アメリカ人にとってパリが未だに魅力的な街なのは、多分に19世紀、ベル・エポック(古き良き時代)19世紀への郷愁があるからでしょうか。パリでドルの札束を切れた時代を懐かしんでいるのかも知れません。後進性の表れでしょうか、アメリカ人も日本人同様、他の国の人に好意的に迎えられているかどうかを気にします。

多くのアメリカ人はフランスで、特にパリで嫌われているという印象を持ち帰ります。あそこでは英語、米語ですが、を誰も喋れない、つっけんどんで不親切な奴らだと言うのです。パリからフランス人がいなくなれば天国なんだがと、極論するアメリカ人が結構いるのです。そんな自己中心的なアメリカ人がどこに行っても嫌われるのは当たり前のことなのですが…。今も昔も、フランス人が英語、米語を話せないというのは事実ではありません。余程のド田舎に行かない限り、どこでも立派に英語は通じます。

いずれにせよ、パリの魅力は衰えることがありません。
とは言え、観光客に人気があるのと、そこに住む人々にとって住みよい町であるかどうかは別問題です。
 
それが今年はパリ・オリンピックが7月26日から開かれますから、フランス人が命より大切にしているヴァカンスを投げ打って、膨大なオリンピック目当ての観客をもてなさなくてはなりません。これはフランス人にとって大変大きな犠牲でしょう。

俺たちの、私たちの命の洗濯期間、ヴァカンスをオリンピックに取られてたまるか、というわけではないのでしょうけど、市や国が盛んにオリンピックを盛り上げようとしているのに対し、今からでも遅くはない、オリンピックなんか中止してしまえという運動がかなりの規模で繰り広げられています。

彼らの言い分はオリンピックに使うお金があるなら、パリの郊外からの市心に入る高速道路、通勤電車を整備し、パリ市内のゴミ処理、清掃を下町まで徹底させろ、オリンピックはそれに関連している大資本の業者だけを潤し、パリに住む人にはなんの利益もない…とオリンピック反対を唱えています。

確かに、パリが住みにくい街になっていることは事実で、人口もこの10年で12万3,000人減少しています。
 
パリ・オリンピックですが、大きな祭典があると市当局は慌てて街をキレイにする傾向がありますが、汚れ切ったドブ川、セーヌ川のクリーニングだけで15億ドルを使っています。まだパリ・オリンピックにどのくらいのお金を掛けたかの数字は出ていませんが、東京オリンピックは総額1兆7,000億円ほどかかっています。まるで小さな国の年間国家予算の額なのです。ちなみにコンゴ共和国の国家予算は1兆9,800億円相当です。

そんな巨額の費用がかかるイベントを中小クラスの国が主催できるはずがありません。
歴代のオリンピック開催地はお金持ちの国ばかりです。資本主義国筆頭のアメリカでは、夏の大会が4回、そしてパリの次はアメリカで5回目になるロス・アンジェルスで開かれる予定です。冬の大会も4回開かれています。翻って、アフリカの国々では1回も開かれたことはありません。アジアで開催されたのも東京、ソウル、そして北京で大金持ちの3ヵ国だけです。

オリンピックの開催地は、IOCがオリンピック憲章の第5条に基づき候補地を選び、その中から投票で決められます。と聞くと、いかにも民主的に開催地を選んでいるかのように聞こえます。どうしてどうして、自分のところでオリンピックをやりたいと立候補した都市がキャンペーンを繰り広げますが、その一環として、その都市をIOCの委員が訪れ見聞します。その条件たるや、飛行機はファーストクラス、ホテルは5つ星、同伴者、通訳、現地ガイドとこれらはすべて開催を希望する都市の負担になります。

今のIOC会長、バッハさんが東京を訪れた時、滞在費だけで、一日当たり70万円と報告されています。一体どんなホテルに泊まり、何を食べていたのでしょうか。それも招致運動の費用の一部なのでしょう。IOC委員が現地を調査に訪れる時には、選手村に泊り、選手と同じ食べ物を摂るべきだと思うのですが…。
  
オリンピックがどこの国でも、貧しい国でも開くことができるようにする方法は、お金持ち国がスタジアムや選手村などの施設を建ててあげることです。簡素なホテルなども用意してあげると良いでしょう。今さら、アマチュアリズムの看板を掲げることもないでしょうから、スタジアムなどはマイクロソフト・スタジアム、アマゾン・スタジアム、トヨタ選手村とスポンサーを付け、商業主義を打ち出せば良いでしょう。もうすでに、オリンピックはお金持ち国のお金持ちクラブの行事になっているのですから…。
 
年々派手になり、莫大な費用がかかるようになってきたオリンピックに、お金持ち国でさえ、ご辞退ムードが漂い始めています。札幌ももう冬季オリピックは招致しないと決めましたし、近年はIOCが懇願するように冬季オリンピックの開催地を探している有様だそうです。

7月26日に開催されるパリ・オリンピック、華やかな素敵なスポーツの祭典になることでしょう。
と同時に、1日も早くカンボジアやラオスそしてアフリカの国々でオリンピックが開かれることを願っています。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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