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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第804回:スキャンダルは票稼ぎ?

更新日2023/06/01


もう4、5人殺されただけでは、アメリカで大きなニュースになりません。先週も18歳の坊やが4人の老嬢を射殺し、警察官2人を負傷させましたが、多くのアメリカ人はあゝまたか、といった程度の反応しか示しません。一応、困ったことだ、どうにかならないのか、と嘆く程度です。でも、こんな事件が起こるたびに銃火器、攻撃用短機関銃、ピストル、ライフル、そして弾薬の売り上げグンと伸びるのです。規制が厳しくなる前に買いだめしておこうという思惑です。この事件でも、犯人の坊や、市街戦用の短機関銃、ライフル、ピストルを携帯し、1,400発もの弾薬を買いだめしていたと言いますから、ウクライナの兵隊さんより完全武装していたようなのです。

日本に3週間ほど帰っていました。その時ちょうどチャールズ3世の戴冠式があり、その模様をテレビのニュースで観ました。イギリスの王室は三面記事向けのスキャンダルの製造元ですから、今回の戴冠式にヘンリー王子とメーガン妃が招待されなかったとか、列席しなかったとか、どこそこの国からの王族が来たとか、来なかったとか、また、式の席がどうのこうのと話題がよく尽きないものだと呆れるばかりでした。日本人も相当王族、皇族や彼らのプライベートライフのゴッシップ的なニュースがお好きなようです。
 
もっとも、地元のイギリスでは王室の大きなイベントやスキャンダルがある度に色刷りのその手の新聞、週刊誌の売り上げが倍増すると言いますから、それらの報道機関、出版元にとって王室はなくてはならないものなのでしょうね。

さすが英国と思わせるのは、王室を廃止しようというデモが大きな規模で行われ、それをBBCがきちんと報道していることです。日本で皇族廃止運動など、正面切って掲げる議員も、デモをオーガナイズする団体もないのではないかしら。
 
アメリカの王室は大統領家族ではないかしら。でも、これは期限付きで4年間、または長くて8年間の命です。賞味期限が著しく短いのです。例外的に長い間ガンバッテいるのはトランプ前大統領です。今、トランプは34件の訴訟を抱えていますが、裁判沙汰になる度に、支持率が増えるという奇妙な現象が起こっています。

ポルノ女優だったストーミー・ダニエル(Stormy Daniels)さんとトランプは公然と関係を持っていましたが、大統領選に打って出た時、お前、俺との関係を黙っていろと、彼にとっては小銭の2,000万円相当を手渡し、それをストーミーさんはすんなり受け取っていたのです。それは政治家によくある浮気、お遊びで、多くの議員さんも同じようなことを裏でやっているから、さしたる問題ではないのですが、彼がストーミーさんに口止め料として払ったお金が選挙運動の資金から出ていたことが明らかになり、選挙法違反に問われたのです。

トランプにとって微々たる金額を自分の懐からでなく、なぜ寄付で集めた選挙資金から使ったのかと問われ、トランプが「自分の懐から出すと、女房にバレると困るから…」と率直?に答えたのが、これまたトランプほどの大金持ちプレーボーイでも奥さんが怖いのかと、人気を盛り返したのです。 
 
キャロルさん(E.Jean Carroll)がニューヨークの裁判所に(U.S. District Court in Manhattan)に訴えていた事件、トランプにデパートの中で強姦、セクシャルハラストメントされた、と訴えた裁判は格好のスキャンダルでした。トランプは「キャロルなんか、見たことも会ったこともない。第一、あんな女は俺のタイプではない」とコメントし、一般の女性からブーイングを受けましたが、逆によくぞ率直に言ってくれたとばかり、支持率がグンと上がったのです。

なんせ33年前、1990年の事件ですから、刑事法の適応は受けず、民事法で5ミリヨンドル(6億円相当かしら)をトランプがキャロルさんに支払う判決が下ったのでした。トランプにとっては、5ミリヨンドルは痛くも痒くもない金額でしょうけど、それで次の選挙に共和党から大統領候補の指名権を得ることができるなら、安い買い物、格好のスキャンダルなのでしょうね。

一体トランプがこれまで何回、何十回のセクハラを犯してきたことか、キャロルさんは、その被害者に立ち上がれ、訴えろとけしかけています。それに対し、トランプは「そんなヤツのお●●を握り潰し、揺さぶってやる!」と答え、これまたよくぞ言ったとばかり、人気、支持率が上昇したのです。ホントにアメリカは狂っています。

どうにも、アメリカの選挙、とりわけ大統領選挙は候補者の思想や政治的能力より、ゴシップ的なスキャンダルの方がズーッと大切で、影響力が大きいようなのです。その意味では、二権分立?にして、ゴシップ、スキャンダルは王室、皇族に任せ、選挙政治は個人的なゴシップを離れ政策に専念する、できる?英国や日本の政治のあり方が実務的に健全なのかもしれませんね。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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