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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第214回:貧しくても美しい国

更新日2011/06/18


明治維新前にジカに日本人に触れた西欧人が驚き、ショックを受けたことは、日本人の礼節の良さと、侍クラスの生活の貧しさだったそうです。

ヨーロッパやアメリカですと支配階級というのは、庶民より豊かだと決まっています。ところが当時の日本ではとても貧しいサムライがたくさんいて、内職に勢をだしていることも異状に見えたようですが、それより一番大きな驚きは、そんなわが身の貧乏を恥じていないことだったといいます。

武士は食はねど……というコトワザあるそうですね。貧乏をしていても精神的な高貴さ、豊かさをいつも保っているのは、よほど修行を積まないと到達できない境地だと思います。それをサムライたちは飄々とやっていたのです。

これからの日本はどうなるか、アメリカやヨーロッパの経済学者や科学者、未来学者がいかにも説得力のある説、意見を述べています。中には大戦で壊滅した状態から立ち直った日本だから、この津波、原発問題を乗り越えて飛躍するだろうと楽観的な意見や、国の赤字財政がすでに天文学的数字に達しているから、これ以上の負債を強いる津波、原発の事件で国の存在すら危うくなってくるという極論まで飛び交っています。

自分の身に降りかかってこない問題はいかに説得力があり、なるほどナーと思わせてもどこか白々しく聞こえます。

経済問題を語っている時に"愛情"などという言葉を持ち出せば、場違いに聞こえるかもしれませんが、日本を立て直すのはやはり、日本の風土、伝統、人間、ついでに美味しい食べ物まで加えてもいいですが、それらを好きな人々、深い愛情を持っている人でなければできないと思うのです。

これから、日本は震災前より貧しくなるでしょう。それは、例えば私の住んでいる家が四分の一なり半分焼け落ちたとしたら、今までと同じ生活ができなくなるのと同じです。

経済的損失も大きいですが、当分の間、前より狭い空間で暮らさなければならないのは当然のことです。生き方をほんの少し変えなければなりません。そうは言っても、別にたいしたことではありません。ちょっとした覚悟と気持ちの切り替えだけで生活を縮小できると思います。

企業は別でしょうけど、個人生活で1日、3、4時間の停電などは問題にもなりません。 簡単にできることなのですから。電気の来ない時間帯に今までとは別の楽しみを見出すこともできるのです。ニューヨークの大停電のあとでベビーブームが起こったことを言っているのではありませんよ。いつまでもモノがもたらす繁栄を追い求めているわけにはいかないことを自覚し、チョット視点を変えればいいだけだと思うのです。

今回の震災と原発の大問題は、足踏みをして、後ろを振り返り、いままでの日本の発展、物質的繁栄がはたして、国のあり方として、国民を幸せにしてきたのかどうか、考えてみる良いきっかけではないかと思います。

私の手前勝手な意見なのは充分知っているのですが、私にとって日本は、今まで多分に精神的なよりどころ、安らぎを与えてくれる逃げ場所でした。世界に理想の国などあるわけもなく、私が美味しいと感じるたべもの、大好きなお相撲、丁寧で優しい思いやりのある日本人の中にいるとリラックスし、くつろげるというだけの理由、ただ私が思い込んでいる日本のイメージに、私の気質が合っているだけのことかもしれません。

それでも、老後をどこで過ごそうかと問われれば、日本しかないと大声で言うでしょう。これは衝撃の…とまで言いませんが告白です。もちろん、日本が外人の私を受け入れてくれればの話しですが、そして、日本がいくら貧しくなったとしても、日本人がそこに住んでいる限り、日本の美しさは変わらないと信じています。

 

 

第215回:健康サプリ、ビタミン、痩せ薬 ~薬好きの国

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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