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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第215回:健康サプリ、ビタミン、痩せ薬 ~薬好きの国

更新日2011/06/23


日本の通勤風景は、一つの文化的光景です。ラッシュアワーの駅のホームでゴルフのイメージトレーニングでしょうか、ゴルフクラブを振るジェスチャーをしているサラリーマンやヘッドホーン、イヤホーンの音楽のリズムに乗っているのでしょうか、身体を揺らしたり、首を振ったりしている若者たち、なかなか興味深い風景を展開して見せてくれます。

その中で、痩せた、なんだか疲れきった様子の結構若い(アメリカ人の目から見ると、日本の若者は皆、痩せっぽちで、着ている背広を運ぶのもやっと…に見えてしまいますが…)サラリーマンが駅のホームにあるキオスクで牛乳やスタミナドリンクをグイッと一気飲みしているのも、日本以外であまり目にしない光景でしょう。会社でシゴトを始める前に元気を付けておこう、昨日の飲みすぎ、二日酔いを追い払い、頭と身体をすっきりさせておこうというのでしょうね。

何台かの電車をやり過ごし、観察していると、小さな茶色のビンに入ったスタミナドリンク、大変な数、売れているのです。しかも、男性専用なのかしら、それとも精力剤でも入っているのかしら、女性もスタミナが必要なのは男性と同じはずなのですが、スタミナドリンクを飲んでいる女性は見たことがありません。100パーセント、オトコオンリーなのです。 

私はこれでも女性ですが、勇気を出して、変な外国人の叔母さんなら、男性専用らしきドリンクを買って飲んでも許されるだろうと、試してみました。効能書きにはありとあらゆる、聞くだけで元気の出そうなありがたいサプリがたくさん入っていて、味もさわやかで悪くありません。なんだか、いかにもスキッとしてエネルギーが出そうな舌ざわりです。でも、これを飲んだからと言って、電車に乗るのを止めて、走って会社まで行けるというほどのこともなさそうです。

もともと薬の心理的効果は大きいものですし、まして、健康サプリのように医薬品ではないものは、もっぱら宣伝による洗脳効果を狙っているといってよいでしょう。直接、間接身体に害がないのなら、これは効く、元気が出ると信じて飲むなら、それなりの心理的効果がある……のでしょうね。

売薬好きなことでは、アメリカ人は日本人に負けていません。お医者さんの処方箋がいらないスーパーのカウンターに並んでいる、薬、ビタミン、健康サプリに莫大なお金を遣っています。アメリカ人のビタミン好きは世界中に知れ渡っています。製薬会社のお抱えでない、アウトサイダー的でマジメなお医者さん、栄養士さんがことあるごとに、ビタミンの錠剤や健康サプリは食品の代用にはならない、食生活そのものを改善しなければ意味がないと言ってはいるのですが、製薬会社の宣伝力の前に掻き消されてしまいます。

アメリカの製薬会社の儲けどころは、鎮痛剤、睡眠薬、アレルギー抑制剤、やせる薬です。どんな薬にも、誰も読まない(読めないくらい小さな字で)注意事項、副作用、一緒に飲んではいけない薬などなど書いてあります。もちろん、裁判で訴えられた時にちゃんと注意書きに書いてあるではないか、それを無視するからそんなことになるんだと……と言えるためのものです。

処方箋なしに買える、やせるための薬「Alli(アーレイ)」で障害が起きています。この魔法の痩せ薬は、2007年にFDA(Federal Drug Administration;アメリカの保健省)から販売許可になり、爆発的に売れていたサプリです。出た当時、"魔法の痩せ薬"とまで言われ、例のごとく"使用前"のウルトラデブとすっきりと痩せた"使用後"の写真がテレビ、雑誌に掲載されたものです。

ところが、予想されたことでしたが、とても効果的に痩せることができた人もたくさんいたのですが、肝臓障害を併発して2週間以内に肝臓移植をしなければ死ぬと診断された人まで出てきたのです。会社側は30万人のテストをしているから、万全だと言って全く非を認めていません。これもまた、アメリカ特有の"クラスアクション(集団で裁判に訴える)"に持ち込まれることになるのでしょう。

健康サプリ、ビタミン、痩せ薬は、病気を治すためのものではありません。生活をチョット変えれば、食生活、運動、リズムある生活をすれば解決できることばかりです。それを安易に朝晩一錠づつの錠剤で済ませようと言うのがそもそもの間違いではないでしょうか。

不健康な生活をしていて、健康サプリをいくら呑んでも健全な元気はでてきません。

 

 

第216回:エチケットとマナー

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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