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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第319回:握手とお辞儀とハグと…

更新日2013/07/11



日本の偉い人で、首相、外務大臣、何とか省の人がアメリカやヨーロッパに来て、こちらの偉い人と、初めて会って挨拶をするとき、もちろんテレビカメラの前で多分にショー的な要素も加わるのでしょう、いつも硬くなり、握手をしながら頭も同時に下げ、半分お辞儀をしながらの握手になってしまいます。それはサミットでも、G7、G8、G20でも同じで、日本人の握手の風景はなんだか、妙に緊張し、ギコチなく見えます。 

握手は主に西欧の習慣ですから、日本で生まれ育った人が、いかにも自然にサッと手を出し、いかにも心を込めているかのように、しっかりと、しかし、簡潔に握手できないのは当たり前のことで、少しも恥にはなりません。

逆に、日本人でいかにも慣れた風に、大げさに、大きく何度も握った手を上下に振る方が、奇妙なカリカチュアに見えたりします。

柔道が国際的になり、オリンピックの種目になってから随分経ちますが、それでも、西欧や外国の選手が「礼」でお辞儀をするとき、どこか日本人選手と違い、不自然さが付きまといます。それは日本人の握手と同じで、当然のことと言えるでしょう。

相手の文化を少しでも尊重するなら、まず最初の挨拶ぐらいは、前もって知り、練習し、物まねでよいから相手のやり方で挨拶をするべきだ…と思っています。でも、これは意外と難しいことのようです。

私の日本語の授業でも、最敬礼とは言いませんが、先生(これ、私のことです)が教室に入ったら、軽く頭を下げて、「おはようございます!!」とか、「こんにちは!」と大声で言うことから始まります。そして授業が終わり、教室を出るとき、「お先に失礼します」とか、「さようなら」をキチント言わなければなりません。

私のダンナさんが時々山から降りてきて学校に立ち寄りますが、そんな時、日本語教室の生徒さんたちが、ぎこちなく挨拶をするのを見て、「お前、何教えているんだ? 明治の修身の時代じゃないんだぞ」とあきれています。

しかし私に言わせれば、ボディーランゲージもその国の文化、言葉の大切な一部ですから、私にレポートを渡す時、私からレポート、試験の答案を受け取るときは、必ず両手で、軽く頭を下げて受け渡しするように、私の事務室に入る時にも、ノックしてドアを開けた後、礼をしてから入るとか、簡単なことですが、そのようにシツケています。

何も小笠原流の込み入った礼儀作法を押し付けようとしているわけではありません。そして、生徒さんも喜んで、それを実行しているようなのです。

西欧人にとって、軽く頭を下げる"礼"や、日本人にとって、"握手"はさほどの違和感を抱かずにできますが、アメリカ流の"ハグ"(軽く、時々かなり思いっきり抱き合う)と、スペイン、フランス、イタリアなど、ヨーロッパ・ラテンの国での左右のほっぺにチュとキスしたり、ただほっぺを軽く触れ合う挨拶習慣、そして、ロシア式に男同士でも(女性同士でもそうなんですが)唇をふれあいチュを自然にこなすには、かなりの度胸と年季が必要になります。

うちのダンナさんの旧友がたくさんスペインに住んでいます。もちろん皆、叔父さんから、お爺さんの年齢で、古いタイプの日本人なのですが、ゴク自然にスペイン人女性と(セニョリータとは限らないのです、年寄りで太った、口ひげがウッスラ生えているセニョーラ、お婆さんにも)ほっぺたを触れ合う挨拶をこなしていますから、慣れの問題なのでしょうね。

ところが、彼ら、スペイン在住、ウン十年の日本人と日本で会ったとき、ウチのダンナさんもそうなのですが、彼らは頭を下げるお辞儀を全くしないのです。すっかりお辞儀を忘れているようなのです。チョットしたパーティー、大学やアメリカ大使館が主催した集まりに行っても、ウチのダンナさん、日本人を相手にしていても全く頭を下げる"礼"を忘れているのです。あれでは国籍不明の浪人か、日系2、3世に見られても当然です。

どうも、人は何かを失うことなく、新しいコトを学べない…のだと思わざるを得ません。

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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