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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第320回:年々、静かな卒業式になってきたのは…?

更新日2013/07/18



またまた、卒業式のシーズンになりました。一年が経つのが、年々早くなっていきます。今年もフットボールスタジアムで卒業式が行なわれました。

スタジアムは卒業生の父兄や友人たちで超満員でしたが、卒業生の入場行進の時、いつも巻き上がる大歓声、拍手が奇妙に少ないのに気が付きました。

先生たちは、あらかじめ決められた席について、直射日光の下、黒いガウンを羽織り、ジーッと耐えるだけの3時間を過ごさなければなりませんから、周りをよく観察することができるのです。

そんなわけで、最近、年々、歓声や拍手が少なくなっていることに気が付いたのです。その代わり、デジカメや携帯電話に付いているカメラで写真を撮る人が圧倒的に増え、昼間なのに、ものすごい数のフラッシュが瞬きます。腕は2本しかありませんから、確かに写真を撮りながらでは拍手はできないわけです。

考えてみると、写真を撮るという行為は、その場に自分がそこにいたことのほうが、祝ってあげる相手より大事、大切になってきた証明みたいなものです。成績の優秀な生徒さんを称えることは二の次になり、写真を撮ること、精一杯腕を伸ばし、自分の姿を表彰式の前景に入れて、記録に残すことの方が優先されているようなのです。

カメラのメーカーもよくしたもので、ファインダーを覗いて、カメラのその向こうの情景を撮るクラシックスタイルのカメラ、携帯だけでなく、腕を伸ばして自分を撮るとき、どんな風に自分が映っているのか、確認しながらシャッターを押せる機能が付いていたりします。

この傾向は、今回の卒業式だけではありません。日本へ学生さんを連れて旅行に行った時、皆が皆、自分の腕を精一杯伸ばし、自らの姿を撮影しているのにショックを受けましたし、大学のありとあらゆるイベント、集会、儀式、発表会で、腕を伸ばして自分を撮るのがアタリマエの光景になってしまいました。

私たち夫婦も、主に年老いたダンナさんのお母さんや私の両親に送るため、二人の写真を撮ります。と言ってからから考えたのですが、二人が一緒に写っている写真は数えるほどしかないことに気が付きました。2、3年に1枚のペースでしょうか。

それでも、二人一緒の写真を撮ろうかなと、100円ショップで小さな三脚を買いました。結局、ほとんど使っていません。それより、"孫の手"のように伸ばせる手、カメラを掴んで延長できる手など、自分撮影用のエクテンションアームを売り出せば大ヒット間違いなしです。多くの若者たちが我も我もと買うでしょう。皆、自分の手が短すぎて自分を入れた写真の背景がよく撮れないとグチッているのですから。

それにしても、両腕を伸ばしてカメラを自分に向け、自分の写真を撮るのは何と寂しく、侘しく、恥ずかしい行為でしょう。両腕伸ばしの写真撮影は、現代の若者気質と言って済まされない、引き篭もり現象や、自分だけがよければ、他の人は関係ない…という、自分優先の貧しい性格をよく表している行為だと思えます。

と、このコラムを書いていたら、『Time』誌がこの世代を"Me,Me,Me"(私、私、私だけの世代)として捉えている記事に出くわしました。やはり、誰でもそう思うのでしょうね。

「書を捨てよ、町へ出よう」と寺山 修司さんが自著で提言し、大昔、流行り言葉にもなりましたが、今の若者に、「携帯、デジカメを捨てよ、ナマの人間と接しよう!」と大きな声で叫びたい心境です。どうも、寺山さんの言葉ほど歯切れがよくありませんし、説得力に欠けていますね…。

 

 

第321回:山との接し方いろいろ

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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