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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から
 

第768回:歳をとるのは悪いことばかりではない…

更新日2022/08/18


先日、日本に住む義理のお姉さんから電話があり、彼女の家に町内会の会長さんが突然訪れ、喜寿のお祝いとして高級なお茶と金一封を届けてくれたと喜んでいました。年寄りを大切にする日本ならではの風習でしょうね。一番上の義理のお姉さんのところへは、かなり前になりますが、“金杯”が届けられたそうです。それぞれの地方自治体で趣向を凝らしたプレゼントをしているようです。米寿、そして100歳記念にはどんなプレゼントが待っているのかしら、興味の湧くところです。

ウチのダンナさんも日本にいれば立派な後期高齢者に分類され、医療費が1割負担になり、公共の乗り物も大幅に割引になる役得が受けられるようになりました。それを聞いて、ダンナさん、「オイ、後期って呼び方はないだろう。それじゃ、前期高齢者、中期高齢者という呼び方があるのか? 後期とは最終段階でもう後がない、後は死んで頂きますってことになるんじゃないか? ひどい呼び方だ」と憤慨しています。

アメリカの居住者であるダンナさんにも老人としての役得があります。社会保障や国民健康保険、介護保険がない代わりに、至って具体的に、固定資産税が半額になります(コロラド州では)。元々、こんな森の中、高原台地ですから固定資産税は安かったのですが、さらに激安になり、年に200ドル少々になったのです。「こんな安上がりに暮らせるところは他にないぞ、どこにも動けんな~」と、私の妹たち、弟らが年に5,000~7,000ドルの固定資産税に喘いでいるのを横目で見ながら、せせら笑っています。

また、“シルバー・スニーカー”という老人カードを貰うと、何箇所かのスポーツジムが無料で利用できるうえ、コロラドにある温泉や温水プールも無料になります。これはスキーの帰りにチョイと寄り、温泉に浸る最高の贅沢を与えてくれました。

ショッピングにも役得があり、火曜日には老人は半額になる店(と言っても救世軍の古着、リサイクルショップだけですが)があるのです。もっとも、衣料品など新品をブティックなどで買ったことなどありませんから、私たちが立ち寄る回数が圧倒的に多いのは、この手のリサイクルショップです。先日、新品なら結構値の張る大きなリクライナーチェアを30ドルのところ老人割引15ドルで買い、ダンナさん、シエスタ(昼寝)はもっぱら、これでとっています。

そして、スキー場の無料シーズンパスです。これは各スキー場により年齢(老齢かな)に差があり、全く無料のところは少ないのですが、偶然からか私たちが一番気に入っている、よく行くスキー場はダンナさんの歳なら無料なのです。私はまだ若いので??准老人価格、シニア割引でシーズンパスに250ドルほど払わなければなりませんが、それにしても、年に60日ほどスキーをするので激安です。1日券が100ドルほどですから、この老人優待システムがなければ、とてもスキー三昧などできるものではありません。他のスキー場でも、大なり小なりシニア割引をしています。

スキーやスキー靴を救世軍の老人半額セールで買い、無料のスキー場で滑りまくり、帰りにこれまた無料の温泉に浸かる、これぞ極楽とはダンナさんの言うところです。私たちにとって、冬場の2、3ヵ月のスキー三昧は恐ろしくお金のかからない最高のレジャーになっています。

でも一番活躍しているのは、アメリカの国立公園無料パスです。これは70歳になると権利が生まれ、その時20ドルの老人生涯無料パス登記手数料を払い、クレジットカードのようなパスを発行してもらうと、アメリカに63ヵ所ある国立公園がすべて無料になるのです。国立公園のサイト、スポットだけでいくと400ヵ所にもなります。しかも、そのパスは一度取得すると死ぬまで使えるというのがミソです。マア、毎年若くなる人はいませんから、ダンナさんも死ぬまで、あと何度、何十回行けるものか分かりませんが…。 

現在、私たちが住んでいる高原台地へはナショナル・モニュメント(国立公園に指定されていませんが、同じ組織に組み入れられている、日本で言う国定公園に当たるでしょうか)を通って町に下ります。そのコロラド・ナショナル・モニュメントの入園料は車一台25ドル、自転車は8ドルです。人気のあるイエローストーン国立公園やグランドキャニヨン国立公園の入園料は30ドルを越していると思います。年に何度もあちらこちらのナショナルパークを訪れる私たちにとって、これはとても大きな役得です。シニアパス、さま様です。

さらに嬉しいのは、国立公園内のキャンプ場がその老人パスで半額になることです。私たちのように、冬はスキー、夏はキャンプの生活をしている者には、国立公園パスはとても価値があります。ちなみに私は老人であるダンナさんと一緒ですから、彼にくっ付いている限り、同じ車に乗っている限り無料なのです。テントも1張りの料金設定ですから、ダンナさんの老人特権の分け前を十分に味わっているのです。

超後期高齢者のダンナさんを持つ価値がやっと出てきたというところでしょうか。

それにしても、以前、ダンナさんはよく「年寄りを甘やかしてはダメだ。最後まで社会的責任を負わせ、働かせた方が本人の幸せ、健康に良い」などと御託を並べていましたが、いざ自分が超後期高齢者に分類される歳になり、様々な役得、権利を受けられる段になった途端に、「歳をとるのも、そんなに悪いもんでないな~」と言い出しています。なんと日和見的な変わりようでしょうか。「ただ、自分の身体が以前ほど思うように動かなくなったことだけは問題だ!」とこぼしていますが…。


-…つづく

 

 

第769回:アメリカの国立公園

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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