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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第589回:激増する中国人留学生

更新日2018/12/06



トランプ大統領が中国に対して、“お前の国はアメリカにモノを売るだけで、さっぱりMade in U.S.A.を買わない。貿易収支はアメリカにとって天文学的な輸入超過だ。よって、中国産のモノには関税を掛ける”と言い出してから久しくなります。

逆に、地球上で最大の人口を抱える中国市場に魅力的なMade in U.S.A.商品がなく、それを開発しようともしないことを棚に上げて、すべてネガティブなこと、悪いこと、否定的要素は自分の側にはなく、お前たちがすべて悪い…という論法です。

ところが、中国人がアメリカに大きなお金を落としている分野があります。大学や高校にまさに大挙してやってくる中国人留学生が32ビリヨン(3兆2,000億)ドルも使ってくれているのです。 

日本の学校も少子化の影響で閉鎖する私学、高校が多いと聞きますが、アメリカも同じで、どこも(私が知るのは大学だけですが…)学生さんの獲得に躍起になっています。私が勤めているのはコロラド州の州立大学ですから、予算は(私の給料も)州から出ているので、学生さんの学費に頼らなくても良い…と思い込んでいたのですが、学生数の増減によって、州からの援助金の額が決まるので、専門の新入生リクルート課(募集課)を設け、学生さん勧誘に余念がありません。

新学期は秋に始まりますが、この時期にすでに、父兄を含めた学内見学ツアーがゾロゾロとキャンパス内を歩いているのを目にしますし、週末には説明会が開かれています。私も日本からもっと留学生を呼べないかと打診されましたが、そんなセールスマン(ウーマン)みたいなことできるモンですか…と断りました。だけど、日本から勤勉な学生さんがたくさん来てくれたら良いな~とは思っています。

中国にはエリートが行く優れた大学が数多くあります。しかし、そんな大学はとてつもない精鋭主義で、とてもフツウの子供たちが入り込む隙間がないのだそうです。そこで、お金さえ払えば入学できる大学がワンサとあるアメリカに留学しよう、させようとなったことのようです。奇妙な共産主義のおかげかどうか、中国には私から見ればスーパーリッチな中産階級?がゴマンといて、しかも子供の教育にはお金を惜しまない風潮が強く、世界言語と言ってよい英語(米語ですが)を使い、喋るアメリカに我が子を送ろう…というブームになったことのようです。

大学生になってからではもう遅い、米語を身に付けるには高校からアメリカに送ろうという親が出てきて、中国人の高校留学が急激に増えています。少し極端な例ですが、アイオワ州のミシシッピー川沿いの町、クリントンは、1980年から人口が20%も減少していました。当然、高校生も激減し、他の高校と統合する案まで出ていたところ、それなりの環境、地元の住民が外国人を受け入れること、施設の整った学生寮を作り、中国人の親が安心して14、5歳の我が子を送り出し、住まわせることができる環境を作り上げ、大成功したのです。2005年にアメリカの高校に入学した中国人生徒さんは639人でしたが、2016年には3万3,000人になりました。

少し週刊誌的興味で、一体いくらくらい中国人高校生が払っているのか調べてみたところ、なんと、平均で年に5万7,000ドルも使っているのです。アメリカの公立の高校は授業料が無料なのです。このお金には、3食付の寮、教材、医療保険などが含まれていますが、それにしても、巨額と呼びたくなる金額を中国人高校生の親は払っていることになります。

それにプラスして豊かなお小遣いも与えていることでしょうから、親の負担は半端ではありません。でも、そんな莫大な留学費用を払ってでも、アメリカの高校に我が子を入れたいと願う親が中国にたくさんいるのでしょうね。

日本での中国人の家電や自動炊飯器の爆買いなんて、まだまだスケールが小さい話です。

そして大学の方ですが、アメリカに留学している外国人はおよそ110万人いますが、その内の3分の1は中国人と見られています。アメリカの州立大学(アメリカに国立大学は、軍関係の陸軍や海軍などの士官学校しかありません。公立といえば州立となります)は、州に住んでいる人(州税を払っている両親の子弟)は州の住民対象のかなり安い授業料、他の州から来る学生にはその何倍かの高い授業料が課せられます。外国人は州外の授業料が適応されますから、大学にとっては大切な金蔓なのです。

これだけ莫大なお金を落としてくれる中国人留学生が、高校、大学にとって救いの神になるのは当然のことです。そうなると、中国人の実業家というのかしら、ショーバイ人が乗り出してきて、アメリカに中国人学生を送り、それを受け入れる会社を設立し始めました。今のところ、主に高校生を対象にしています。言ってみれば、こんなに儲かることを、自分でやらない法はないというところでしょうか。親が安心して我が子を預けることができる、豪華マンション風の高校生向けの学生寮を建設し、受け入れ態勢を固めています。

14、5歳の高校初年度から英語で教育を受ければ、大学に入る時にはほとんどバイリンガルになっているでしょう。そんな学生さん、私の大学にはまだ来ていませんが、勤勉な中国人留学生がたくさん来て、怠けたアメリカ人学生の刺激になってくれたら良いと思っています。

ところが、東部のエリート私立大学であるハーヴァード大学はアジア人(この場合は中国人が主でしょうけど…)の入学基準がアメリカ人より高く設定されており、中国人の入学を厳しくしているとして、学生入学基準協会(Affirmative action, Students for Fair Admission Inc)がハーヴァード大学を公正さに欠けると訴えたのです。ハーヴァード大学は私立ですから、代々巨額の寄付をしている一族のどんな馬鹿な子弟でも受け入れています。それは法的になんら問題ないことなのだそうです。 

ところが、入学試験などありませんから、一般の学生を受け入れる基準が明確でなく、白人を有色人種(これも古い言葉ですね)に優先させていると言うのです。この裁判は最高裁まで持ち込まれ、人種問題にまで発展しています。

アメリカの大学がノーベル賞受賞者を量産している、またそれができるのは、外国人の研究者に大きくドアを開き、受け入れているからだということは誰でも知っています。風通しが良いところに学問が生まれます。

一方で、“中国人が集まるところに中国が生まれる”と言われるように、どこにでもチャイナタウンを築く傾向があり、ハーヴァード大学でも学生の半数近くが中国人になってしまうと、アイビーリーグの大学としての伝統が保てなくなることを恐れているのでしょうか。まさかキャンパス内にチャイナタウンはできないと思うのですが…。

ハングリースピリッツを失ったアメリカ人の学生さんに接していると、勤勉な学生さんなら、どこの国のどんな人種でも受け入れ、その大学の生徒さんの80%が外国人になったとしても、それで良いと思うのですが…。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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