第5回:Cycling(1)更新日2006/01/19
2週間も同じ街で過ごすと、まあそれなりに観光名所といわれるところは一通りまわったし、港にあるピーツ・カフィでカモメが舞う海を眺めながらの朝のカプチーノ一杯や、オフィス街に面したチャイニーズ・レストランでのランチ・セットも、ここでの自分のリズムに馴染んできた。
確かにこの街の開放感というか、昂揚感というものは心地良いが、あまりに欧米的な居心地良さに馴染んでしまうと、この後に控えている東南アジア陸路の旅が少なからずつらいものになってしまいかねない。
だいたい今回の旅の本来の目的は、アジアを渡り歩くことと決めているのだから、こんなところでのんびりしすぎるのはあまりいいアイデアとはいえない。とはいってもこんなに気持ちの良い街なのだから、その前にぜひ何か思い出に残ることをひとつはしたいと思った。
でも何かしたいとはいっても、何をすればよいだろうかといろいろ考えてみたのだが、毎朝眺めている港の対岸側にはどんな生活があるのか覗いてみたいという気持ちがなんとなくわいてきた。
サンフランシスコは湾に突き出るような形の小さな半島が街の中心部になっているのだが、そのまわりには興味深そうな名前の小さな町がいくつか点在しており、朝に夕に人々がそこからフェリーに乗って通勤してきては、また帰っていく姿を眺めてきた。
そこではじめはこのフェリーを利用して対岸へ渡ろうかとも考えたのだが、この心地よい潮風を浴びながらサイクリングをして、半島沿いに点在する小さな町巡りをするというのはどうだろうかということになった。
幸いなことにフィッシャーマンズ・ワーフには観光客向けのレンタル自転車屋がある。日頃の運動不足から、いったいどのくらいの距離を走りきれるかわからないサイクリングに出かけるのは多少の不安もあったが、エリカと相談して、まあ何とかなるだろうということで思い切ってやってみることにした。
このサイクリングを終えたらここを発つという一応の目途というか、心の準備もできたということで、気にかかっていた旅に出てすぐに調子が悪くなりつつあるカメラを買い換えるためにチャイナタウンへ向かった。
カメラ屋、電気屋、雑貨屋とカメラが置いてそうなところはいろいろ廻ったのだが、どこも値段は似たり寄ったりで、特に何処かの店が特別に安いとかいうことはなかった。そんな中で一軒だけアラブ系の店員がいる店で、軽い挨拶代わりのような値引き交渉後に店を出ようとすると、他の店よりもかなり安い言値を伝えてきたところがあった。
一瞬、その場で手を打とうかとも考えたが、まだ2、3日はこの街に居るだろうし、一日の市場調査で買うのは何だか勿体ない気がして結局そのまま店を出た。
翌朝、朝早くにゲストハウスを出てレンタル自転車を手に入れた。程度は上々で、変速ギヤもタイヤの具合も文句はいうことなしだった。ただひとつだけ文句をつけるとすれば、サドルの位置が高すぎて両足が地面に届きかねるのには困った。
日本人用にもう少し足が短くても快適に据われる位置にサドルが下げられる自転車があればなお満足だったのだが、店内を見渡した限りでは、まあそれは言っても無駄というもののように思えた。
-…つづく
第6回:Cycling(2)