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■店主の分け前~バーマンの心にうつりゆくよしなしごと

第303回:流行り歌に寄せて No.108 「東京の灯よいつまでも」~昭和39年(1964年)

更新日2016/05/12

私が最初に“東京” に強い憧れを抱いたのは、日活の青春映画を観始めた中学3年生の時だった。日活と言っても、石原裕次郎や小林旭のアクションを伴う方ではなく、専ら吉永小百合や浅丘ルリ子らが競演する恋愛ものの方であった。彼女たちの生活の舞台である東京とはどんな素晴らしい都なのだろう、とずっと考えていたのである。

と言っても、私はそれまで一度も上京の機会がなかったわけではなく、母方の祖父母が蒲田に住んでいたことがあったり、同じく母方の伯母が椎名町に居を構えていたこともあって、小学校の低学年の時分から一二度、東京には来ている。

蒲田で記憶に残っているのがソースせんべいの味。教頭をしていた祖父の目をかいくぐって、父に連れられて紙芝居を観に行った思い出だ。

黄金バットか少年ジェットあたりだと思うが、その紙芝居の上演が終わると、おじさんがソースせんべいを売り始める。なぜか、そのせんべいの上にトッピングされた円すい型の飾りを、今さらながらよく思い出す。

椎名町の伯母の家には、地下鉄丸ノ内線と、西武池袋線で行った記憶が微かながら残っている。殊に、赤い丸ノ内線のテールライトの残像のようなものは、ずっと消えないで私の目の裏にあるのだ。

途中、池袋の西武デパートの大きな食堂でお子様ランチをご馳走になった。

「東京はいいな、面白いことやおいしいものが限りなくあって」と感じたものである。そんな頃、この曲が流行っていた。けれども、そこで住みたいという思いにまでは、小学生の私は到らなかった。当時の自分の住処が、そしてまわりの友だちがとても好きだったのだと思う。


「東京の灯よいつまでも」  藤間哲郎:作詞  佐伯としを:作曲  新川二郎:歌
1.
雨の外苑 夜霧の日比谷

今もこの目に やさしく浮かぶ

君はどうして いるだろか

あゝ 東京の灯よ いつまでも

2.
すぐに忘れる 昨日もあろう

あすを夢みる 昨日もあろう

若い心の アルバムに

あゝ 東京の灯よ いつまでも

3.
花のくちびる 涙の笑顔

淡い別れに ことさら泣けた

いとし羽田の あのロビー

あゝ 東京の灯よ いつまでも


前にも触れたが、東京オリンピックの開催されたこの年、タイトルなどに“東京” がつく曲が多くあった。オリンピックで灯と言えば連想するものは聖火。この曲が発表されたひと月後にギリシアで採火式あり、中東から東南アジアを通って台湾から海を渡り、沖縄を経由して本土に入った。この曲も聖火の存在を意識していたのだろうか。

作詞家の藤間哲郎は、三橋美智也を有名にした『おんな船頭唄』、大津美子の『東京あんな』、そして松山恵子の『お別れ公衆電話』などの曲を世に出している。タイトルが時代の香りを運んで来るようで、実に良いと思う。

作曲家の佐伯としをは、春日八郎の『あん時ゃどしゃ降り』、三橋美智也の『センチメンタル・トーキョー』、そしてバーブ佐竹の『ネオン川』などを提供しているが、こちらも昭和のあの時代にしかなかった雰囲気を、見事に楽譜に落とし込んでいる。

さて、新川二郎(現在は新川二朗と改名している)の名前はデビュー当時から、本当によく知っているのだが、知っている曲はこの曲だけである。

私はこの人の名前を殊更よく記憶しているのは、実はヒットの翌年あたりに、私の郷里でリサイタルを開いてくれたからである。会場はどこか失念したが、北島三郎との二人での公演だった。電信柱に張られたポスターを見て「二郎さん、三郎さんと数字のつく人が歌うんだな」と思っていた記憶がある。

もちろん、リサイタルには連れて行ってもらえなかったが、前の年に紅白歌合戦に出場したスターが、わざわざ私の郷里までやって来てくれるんだと、大変に感激したものである。

私はカラオケでこの曲を時々歌うことがある。髪をセミロングにまとめた清楚な女性と、神宮外苑や日比谷公園をそぞろ歩く。そして羽田空港での見送りが彼女との最後の時間だった。そんな昭和30年代後半の恋模様に一瞬タイムスリップする感覚を覚えながら。

-…つづく

 

 

第304回:流行り歌に寄せて No.109 「お座敷小唄」~昭和39年(1964年)

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金井 和宏
(かない・かずひろ)
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1956年、長野県生まれ。74年愛知県の高校卒業後、上京。
99年4月のスコットランド旅行がきっかけとなり、同 年11月から、自由が丘でスコッチ・モルト・ウイスキーが中心の店「BAR Lismore
」を営んでいる。
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