第37回: 面罵された時の対処法
更新日2002/05/30
私は今、湘南と呼ばれる地域に住んでいる。気候は穏やか、海は近い、と住むには申し分のないところであるのだが、難点がある。その一つは、「道路が狭いのに、交通量が多い」ことだ。気温の上昇と地元以外のナンバープレートをつけた車の増加が正比例するのだ。道の細いことも半端じゃない。電信柱も立ち放題だから、一本の道幅がどうがんばっても車一台分しかない、という道も見つけるのは難しくない。
アメリカから帰国してすぐの頃は、「この道が一方通行じゃないなんて嘘でしょ~!!」と叫びながら運転したものだ。運悪く対向車が来たら、できるだけ左に寄ってあとは通り過ぎてくれるのをひたすら待つ、ということしかできなかった。さすがに今では、たいていの細い道も慣れたもので、対向車が来ても「嘘でしょ~!」と叫ばないで済んでいる。
しかし、狭い道から対向斜線のある広い道に出る時は今でもどきどきする。車のノーズを恐る恐るじりじりと突き出して、車の往来を確かめなければならないからだ。だって、見えないんだもん。
その日も、細い道からじりじりと車のノーズを突き出していた。すると、向こうから恐ろしい程の勢いで突っ走って来た車が、耳を聾する程のクラクションを鳴らした。「あ、ごめんね」と言いながら、でも出てしまったものは仕方ない。広い道に出た、その瞬間。
その車を運転していた粋がったお姉ちゃんが、私の方に指を突き立てて「お前がとまるんだよ!!!!ば~かっ!!!!」と叫んだのである。それだけではなく、彼女はそう私に叫んだあと、得意そうに助手席の友だちににやっとしたのである。
唖然とした。そうやって、口汚く人を罵ることが彼女にとっては「やってやったぜ」と得意になることらしい。そうやって、その威勢のいいお姉ちゃんの車は再び恐ろしい勢いで去って行った。
思わず、「たまちゃん、今の、きいた??」と娘に言った。その時、私はちょっとむっとしていたのだ。もちろん。でも、子供の手前その威勢のいいお姉ちゃんを罵り返すことはできなかったから、むかついてもいた。「聞いた!あの人、バカッて言ったよね。すごいね。たまちゃん、びっくりした」「ほんと、すごいねえ」「ねえ、ママ知ってる?」環は涼しい顔で続けてこう言ったのだ。「バカって言う人は、言った人がバカ!」
爆笑してしまった。「ほんと!ほんとそうだよね!」むかついていた私の汚い心があっという間にすうっと澄んだ。
負うた子に教えられる、と昔の人は言ったが、言いえて真なり。バックシートの子に教えられた。今度からは、そんなふうに罵られたら「あら、ごめんあそばせ」と涼しい顔で言ってやろう。
→ 第38回:子供を叱るのは難しい!