野添千納
(のぞい・ちの)

パソコン通信黎明期よりパソコンをコミュニケーションの手段として使い続けるコンピューター&コミュニケーション・ジャーナリスト。33歳。

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第10回:ご隠居にもお勧め「デジタル近所づきあい

「proximity」というジャーナリズムの用語がある。読み手が記事に対していかに親近感を抱くかを表わす言葉で、これが高いほどネタほどニュースとしての価値は高い。ローカル紙が全国紙に対してもっとも差別化を図れるポイントでもある。

さて、インターネットといえば、地球の裏側の住人とでも、隣近所の人のように毎日気軽に言葉を交わせるメディアだ。しかし、じつはやっぱり物理的にも近所の人たちが発する情報こそがおもしろかったりする。「Google」などの検索サイトに自宅の町名までを入力して検索すると、電車やバスの時刻表から町の掲示板、ゴミ出しの仕方、物件情報、図書館や役所の情報、町内のお店のホームページなどなど──ある程度規模の大きな街なら、きっと何かしら情報がひっかかるはずだ。運がよければ、「Yahoo!」の地域情報で自分の町の住人が作っている自分の町のホームページが見つかるかも知れない。

こうしたホームページを使えば、引っ越してきたときにお菓子を渡したきり近所づきあいに努めていない人でも、あの店のシャッターがなぜ先週から下りっぱなしなのか、夜でも診療している歯医者がどこなのかといった、これまでの方法ではちょっと入ってこなかった情報に触れることができる。

町のホームページには、ほとんどの場合、情報交換用の掲示板が用意されているので、ここを読めばさらに多種多彩な情報に触れることができる(逆に「Yahoo!」や「2ちゃんねる」などのジャンル別掲示板にも地域情報のコーナーは用意されているようだ)。これまでの方法では知り得なかった町の情報が大洪水のように降ってくる。毎日、目にしている町の情景に深みが加わるかも知れない。

じつはこうしたインターネットを使ったローカル情報の交換に、未来を賭けている企業も多い。筆頭はCATVインターネットの会社だ。ADSLや光ファイバーなど、大手が力任せで値引き競争を繰り広げるなかで、中小の地域CATV会社が胸を張ってウリにできるのが、この地域情報なのだ。

実際、いくつかのベンチャー企業が、こうしたCATV事業者向けにローカル情報提供用のシステムを開発している。電話やFAXで簡単に町のイベントや商店街の安売り情報をホームページ化できるサービスや、地図の表示などに工夫をしたサービス、ホームページとCATVのテレビとを連動させたサービスなどなど…。最近、増えつつある光ファイバー導入のマンションでは、マンション内に設置された掲示板を使って回覧板をまわすところもあるようだ。

顔と顔を見合わせてする近所づきあいも大事だと思うし、それを怠るための「デジタル近所づきあい」ならしない方がいいかもしれない。しかし、「デジタル近所づきあい」にもいいところはある。仕事などの関係で、なかなか普通の近所づきあいができない、たとえば残業や夜勤が多い人や、運動障害などでなかなか屋外に出られない人、最近やたらと腰が重いご年輩の方々も、こうしたツールを使いこなしさえすれば猛暑や厳寒に絶えず気軽に行なえるメリットは大きい。

筆者はこうした「デジタル近所づきあい」がもっともアピールするのはシニア層なのではないかと思っているのだが、日本では多くのシニアが「コンピュータ」をあきらめてしまっているという点に問題が残る。

もちろん彼らに無理強いをする必要はないが、もしも、少しでもニーズがあるのなら、区政や市政レベルでこうした人たちがコンピュータを学べる場を作って欲しいと思う。パソコンはコミュニケーションのツールであるのと同時に、さまざまなハンディキャップを埋める道具でもある。若い頃のようには身体が動かなくなってきた年輩諸兄こそ、パソコンを使うことのメリットは大きいし、彼らがパソコンユーザーとなることは、日本のIT産業の活性化にもつながると思うのだ。

 

→ 第11回:デジタルライフスタイルは無駄だらけ


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