■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から


Grace Joy
(グレース・ジョイ)



中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。




第1回~第50回まで

第51回:スポーツ・イベントの宣伝効果
第52回:国家の品格 その1
第53回:国家の品格 その2
第54回:国家の品格 その3
第55回:国家の品格 その4
第56回:人はいかに死ぬのか


■更新予定日:毎週木曜日

第57回:人はいかに死ぬのか~その2

更新日2008/04/24


先週、見事な死とお迎えがきたという表現について書き、ついつい私にとっては大きすぎ、重すぎる考え(といっても思いつき程度ですが)までテーマを広げてしまいましたが、本当はアメリカ人の死因の統計に関して書くつもりでした。

自殺は日本の特許と言われるほど、日本人の自殺率は高いと思われてきました。それは特異なハラキリ文化に象徴され、屈辱的な生より名誉ある死を重んじるのが日本文化だと紹介されてきました。大昔?日本を舞台にしたジェームス・ボンドシリーズにさえ、作者のイアン・フレミング先生、日本の自殺文化についてシニカルに多くのページを割いているくらいです。

キリスト教の影響を受けてきた西欧では、自殺は教義に反する行為なので(他の宗教の人を殺すことはなんとも思っていないようですが)自殺率は低いと…説明されてきました。ところが、人口10万人当たりの自殺率では、圧倒的にキリスト教文化の影響下にあるはずの旧共産圏、東ヨーロッパの国々が高いのです。 リトアニアの40.2人をトップに、ベルルーシ、ロシア、ハンガリー、ラトヴィアなどが続いています。日本は10万人当たり24人で、世界で10番目です。ちなみにアメリカは11人です。

偉い社会学者は旧共産圏、東ヨーロッパに自殺が多いのは、長年にわたり共産主義に抑圧されてきた人々が一挙に資本主義に変わった体制に適応できず、また自由化以後も失業、貧困の問題が一向に解決されず、希望をなくしたせいだと言っています。ですが、私は統計の数字だけを見た偉い社会学者の意見などあまり信用していません。

自殺者が何千人いようと、その内での一人ひとりは違った理由で自殺に追い込まれているのではないかと想像します。それなりの葛藤があり、苦しい決断があったはずです。そんなことは個人の中まで踏み込まなければ分からないことです。密閉した車の中で集団自殺をする日本の若者をハラキリサムライ自殺文化の同じモノサシで測ることはできません。

自殺とは違い、病死、事故死の場合は、統計を見てどうしてそのような数字が出たのか、割合はっきりと原因を知ることができます。早く言えば、車の走っていない国で、そんな国があるとすればですが、交通事故で死ぬ人はいないからです。

アメリカでも、他殺より自殺の方が倍近く多いのは事実です。自殺死は3万1,484人ですが、殺された人は1万7,732人です。これは毎日50人近くの人がアメリカで殺されているという膨大な数なのです。

アメリカの事故死を特徴付けているのは、交通事故死の多さでしょう。航空事故の500倍、5万人近く(4万9,195人)が毎年交通事故で亡くなっています。ニューヨークを一つの大きな例外にして、アメリカ全国でアメリカ人は足を自分の車に頼っています。通勤もスーパーにチョット買い物に行くにも、どこへ行くにも車です。私はできるだけガソリンを使わない小さな車で動くようにしてはいますが、それも程度の問題で、アメリカの社会は車なしでは生きていけなくなっているのです。そのせいで毎日140人近くが事故で亡くなっています。

取り分け16歳から25歳までの若い人の死因のトップは交通事故です。私の学生さんも一人は脳にダメージが残る重傷で、折れた骨の数は数え切れないほどの事故を起こしました。もう一人は車は全壊でしたが奇跡的に軽傷でした。そういえば甥っ子も免許取りたてで、近所の郵便受けを2本破壊し、幸いにも木の塀を破って車が止まり、無傷でした。車は死にましたが。

病死で圧倒的に多いのは心臓病です。84万人が心臓病で亡くなっています。次が癌で55万人と病死の両横綱です。ここでもアメリカ的なのは、エイズで死んだ人が1万5,000人もいることでしょうか。それに付け加えて麻薬の中毒で死に及んだ人が1万1,000人もいることでしょう。

変わったところでは、お風呂でおぼれて亡くなった人が332人もいることです。こちらのバスタブは浅く、寝て入るようないわゆる西洋式のバスタブですが、どうやってあんなところでおぼれるのでしょうか?

ベッドから落ちて死ぬ人が515人、階段から転げ落ちて死ぬ人が365人、氷の上で滑って転び頭を打って死んだ人が103人、喉にモノが詰まって死んだ人が3,004人もいます。これでもお正月にお餅を食べない国の話です。

病死にしろ、事故死にしろ、どこにもこんな死に方をしてみたい、というようなのは全くありません。蜂に刺されたり、毒蛇にかまれて死ぬのもどうかと思いますし、癌や肺炎もゾッとしません。親戚のおばさんが、「雷に撃たれるて死んだら楽だろうな」と言っていますが、テレビのニュースで見た雷で撃たれて焼け死んだ人はまるで人間バーベキューで煙を出しながら燻ぶっていました(47人が落雷で亡くなっています)。 

見事な死に方もないし、良い死に方もない、やはり死なないのが一番良いのでしょうか。ということは、そんなことを考えずに生きていることの方が健康なのでしょうね。どうせ自分で自分の死に方を選ぶことができないのですから…。

 

 

第58回:ガンをつける