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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第607回:狩猟シーズンと全米高校射撃大会

更新日2019/05/02



秋の狩猟シーズン開幕前になると、私たちが住んでいる台地、森に銃声が響き渡り、土日にはかなり賑やかなことになります。夏の間、寝かせてあった猟銃、ライフル、拳銃を持ち出し、試し撃ちし、銃の微調整が始まるからです。

一応、市街地での射撃は禁止されていますが、カウンティー(郡)内で市政から外れた個人所有地内、と言っても私たちの地区では最小の単位が35エーカー(およそ東京ドーム3個分)で、牧場などは1,000エーカー以上が当たり前の広さですが、そこで射撃が始まります。狩猟シーズン前のチョットしたパーティー気分なのでしょう。

私たちがドライブウェーを共用している隣人、バッドとキャロルは自分の地所内に簡単な射撃場を設けました。20~30メートルの平地に標的を立て、その後ろは一応低い土を盛り上げて、標的を外れたタマはその盛り土に突き刺さるように作っていはいますが、標的が私たちの土地に向かっているのです。

岩に当り、跳ね返ったタマが家の方に飛んで来ないとは限りません。なにせ殺傷射程距離が1マイル(1,600メートルほど)はあるという強力なライフルなのです。バッドもキャロルも、いつも集まる彼らの従兄妹たちも、皆優れたハンターですから、まず的を外すようなことはない…と思うのですが、パンパン、バギューンと大きな銃声が聞こえるとちょっと不安になります。

私たちの土地に岩山があり、恰好のハイキングや森の散策、簡単な岩登りができます。若い人たちが家に来て、「お宅の裏山をハイキングしてもいいでしょうか?」と訊くこともたまにあります。もちろん、大歓迎で許可します。

ところが、先日、狩猟シーズンがとっくに終わっているのに、パンパンと銃声がし、見ると三人の若者、女性一人、男性二人が、ウチのダンナさんが”聖地“と呼んでいる岩山、毎朝のようにそこに登り、なにやら怪しげな深呼吸と礼拝じみたことをしているところで、ピストルを撃ち合い、遊んでいたのです。

すぐに、ダンナさんは、「ムムッ、俺の神聖なる岩山を犯しやがった…」とズカズカとそこへ行ったのです。まるで丸腰のまま酔っ払いがピストルを乱射している西部のバーに乗り込むシェリフよろしく、彼らに注意を促がしに行ったのです。彼は自分の身に降りかかる危険に対し、鈍感というのか、異なった感覚を持っているのでしょうね。

普通なら、彼ら若者がウチのダンナさんに銃を向けるとか、撃つとか、あるいは動物と間違って撃つ可能性を考えると思うのですが、そこまで頭が回らないようなのです。

注意を聞くと、三人組は、「アッ、そうか、ここが私有地だとは知らなかった」(そんなことが分からないはずはないのです。なにせフェンスを回してあるのですから…)とピストルを引っ込めたようです。また、山火事の危険が高いから、タバコは吸うなとも伝え、その二つさえ守ってくれるなら、あとはどこでも自由に散策、歩き回ってかまわないとも言っておいたぞ、と至って呑気なのです。

この界隈は大多数の地主が“侵入者は即座に撃つ!”と嫌な立て看板を出すのが当たり前の土地なのですが…。
ダンナさん、後になってから、ウーム、ちょっとヤバかったかな…と呟いていました。

アメリカ映画とヨーロッパ、日本映画のアクションシーンの大きな違いは殴り合いの上手下手です。アメリカ映画はどんなマイナーフィルム、テレビの番組でも、パンチを繰り出す方も、殴られる方も真に迫っていて、さすが暴力の伝統を誇るアメリカだと思わせるのに比べ、ヨーロッパや日本の喧嘩のシーンなど、ヘッピリ腰で、全然様になっていません。

もう一つ、銃火器の使い方、構え方も、アメリカの方は群を抜いて本格的ですが、日本、ヨーロッパでは銃撃シーンが少ないこともありますが、オモチャ丸見えのようなピストルやライフルで、まるで重量感がなく、あれはプラモデルじゃないかと疑いたくなります。アメリカでの銃の扱いは伝統と経験に裏打ちされているのです。

少しやり過ぎですが、10歳の少女に機関銃(セミオートマチックという連射できるAR-15でした)を持たせ、撃たせたところ、銃に振り回され射撃場のインストラクターを撃ち殺してしまった事件が起こりました。こんな事件は悲劇というより喜劇に近く、そんな銃を持たせ、撃たせた親もバカなら、射撃場の指導者たるインストラクターもアホにしか見えません。

ピストル、ライフルなどの射撃はオリンピックの競技になっていますから、スポーツと呼んでいいのかもしれません。今アメリカの高校で大いに競技人口が伸びているのがクレイ射撃です。お皿を飛ばして、それを撃つ競技です。

2018年の全米高校選手権に参加した高校が300校、選手の生徒さんは8,000人に上ります。全米選手権にエントリーしなかったメンバーも含めると、射撃部に入っている高校生は2018年に2万1,917人になります。7年前の2011年には707人しかいませんでしたから、実に31倍に増えているのです。

これは、NRA(ナショナル・ライフル・アソシエイション;全米ライフル協会)の戦術の勝利と言い切っていいでしょう。高校の射撃部にはNRAがコーチを派遣し、年に4ミリオンドル(4億4,000万円相当)を高校の射撃活動に投資しているからです。NRAによれば、正しい銃の使い方を教え、2008年から現在まで7万人の高校生にトレーニングを施し、4,200万発の弾丸を撃たせてきたと自画自賛しています。 

このような銃規制に逆行する動きは、政治的な洗脳につながりやすく、全米高校射撃大会はまるで極右政党の政治集会の様相を示しています。子供たちは“軍隊のお友達”メンバーになり、NRAの“会友”になり、“銃を所持することがアメリカの自由を守ることになる”というキャンペーンばかりなのです。南北戦争の時の極右のサインとも言える南軍の旗(コンフェデレイト・フラグ)を掲げたりしもしています。

10歳の誕生日に当たったトミー・シュロエダー君にNRAは“銃火器を持つ権利を守り、不法な外人移民から国を守った”功績により、生涯名誉NRA会員証が贈呈され、トランプ大統領と面会までしています。

極右政治と結びついたNRAの活動が子供たちにまで及んできている様子をみると、ヒットラーがまず手始めに“ヒットラー・ユーゲント”(ヒットラーを信奉する若者組織)を組織し、頭脳が軟らかいうちに洗脳し、武器を持たせたことを連想してしまいます。 

若い世代に銃火器のスリコミをするのは、将来、彼らが様々な銃器を買い、それ用の弾も買い、大いに兵器メーカーの良いお客さんになるからです。なんでも鉄砲など一度持つと、次から次へ、色々なモデル、新製品が欲しくなる傾向が強く、ガンマニアに成長する…のだそうです。

昨年のフロリダ州のパーク郡、ストネマン・ダグラス高校で17名を殺し、他17人を負傷させた大量射殺事件の犯人、ニコラ・クルス君(Nikola Cruz)は高校の射撃部員でした。もっとも、犯行に使った銃は競技用のものではなく、殺戮用のAR-15でしたが…。

-…つづく

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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