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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第561回:スクールバスと幼児誘拐事件

更新日2018/05/10




ウチのダンナさんが初めてアメリカに来て、当時、中学校の校長先生をしていた私の父の学校を訪れたことがあります。その時、まず驚いたのは、校庭に並んだ20台ほどのスクールバスだと言っています。黄色に塗装された大型バスが並んだ光景は、彼の育った札幌のバスターミナル以上の壮観さだと呆れていました。

州や学区によって違いはありますが、アメリカの小中高校が自宅から1マイル(1.6Km)以上離れている生徒さんはスクールバスで通学します。地方自治体がスクールバスを走らせ、子供たちを拾い集める義務があるのです。

このスクールバスのシステムは、日本やヨーロッパの公立学校にはあまり見られませんね。広すぎるアメリカではたくさん学校を建てるより、バスを走らせる方が効率がよいのでしょう。

私たちが住んでいる高原台地にもスクールバスが朝、夕回っています。ここに住んでいる牧場の人たちの子供を谷にある学校まで送り迎えをしているのです。もっとも、ここに住む子供の絶対数が極端に少ないですから、大型バスに3、4人の子供しか乗っていません。もっと小型のマイクロバスを使えばよさそうなものですが、教育委員会はスクールバスは黄色の大型バスと決めてかかっているのでしょう、盛大に無駄なガソリンを消費しています。

運転しているのは、この高原台地の名所的な風物になっている風車叔父さんで、様々な風車を自作し、自分の敷地内に建てているサンタクロース髭の叔父さんです。この頃、叔母さんもピンチヒッターとして大きなバスを運転しているのを見かけることも多くなりました。

地域としては広大ですが、ここに常に住んでいる家族は200軒ほどですから、ほとんど皆顔見知りです。スクールバスが来る時間になると、牧場に入る私道のゲイト近く、舗装された郡道の脇に車やトラックが止まっていて、母親かお爺さん、お婆さんが運手席にいて、子供がスクールバスに乗り込むのを見届け、またはスクールバスから降りてくる子供を、即自分の車に乗せる光景が見られます。

郡道から自分の敷地内のドライブウェイを通って家まで、長くても200メートル程度でしょうけど、その短い距離を子供を歩かせず、車で送り迎えしているのです。冬の間、早朝には気温が下がり、とてもシバレますから、スクールバスが来るまでヒーターを効かせた車の中で待つ…という意味もあるでしょうけど、頻発する学童誘拐事件に対処するため、学区が設けているルールに従っているのです。  

1年間、四ツ谷にある上智大学で教えた時、近くにある学習院小学校のチビッコが制服を着て、赤や黄色い帽子を被って、JRで通っているのにショックを受けました。なんという違いでしょう。アメリカの多くの学区では、街中にあるスクールバス・ストップに、大人が当番制にしたりして付き添っています。

私たちがカンサスシティーの団地に住んでいた時、私の弟のトムが危うく誘拐されそうになったことがあります。彼が6、7歳の頃で、その時代はまだ子供たちは外で、道路などで遊んでいたのですが、見知らぬ乗用車にトムがほとんど乗り込むところを全くの偶然でしたが、母が台所の窓から見て、表に駆け出し、「トム、どこへ行くの? 車に乗らないで!」と叫び、車は急発車して去った事件がありました。

もし、何秒か遅かったら、トムは私たちの家族の前から消え去っていたことでしょう。この話をする度に、母は寒気がし、鳥肌が立ち、腕を撫でています。トムが誘拐されていたら、その後、私たち家族は暗い雲の下で暮らすことになったことでしょう。

アメリカでは、“誘拐”は自分とは関係のない新聞上の事件ではないと言い切ってよいでしょう。牛乳のテトラパックに行方不明になっている子供たちの写真を印刷したり、スーパーマーケットの入口の掲示板には、行方不明、大半は誘拐された子供の写真と、もし生きていれば現在こんな風になっているであろう、コンピュータグラフィックの写真とが貼られています。

祭日ではありませんが、National Missing Children’s Day(全国行方不明の子供たちの日)というのがあります。5月25日です。この日、ニューヨークのイーサン・パッツ(Etan Patz, 6歳)が家から2ブロック離れたスクールバスの停留所までの間で消えた日です。

FBIの記録によれば、2017年に行方不明になった人は46万4,324人もいます。これはもちろん捜査願いが出された人だけの数字です。自ら家出した子供が大半でしょうけど、誘拐されたと思われる子供、少年、少女は2万人以上と推測されています。

明確に、性の奴隷にされ、売買された(Child Sex trafficking)と確認されただけでも、1万93人(2017年調べ)になります。ということは、行方不明の残りの45万人の子供は未だに性の奴隷としてどこかに売られたり、働かされている可能性があるのでしょう。

親に余程の財力があり、政治的なコネでもない限り、近くの警察署に行方不明届けを出し、近所に自分で作ったポスターを貼るくらいがせいぜいでしょう。警察も、はっきりと家出なのか、誘拐なのか区別がつかないまま、ファイルを作り、ポンとキャビネットに仕舞い込むのでしょうか、誘拐犯は呆れるほど同じ犯行を繰り返していながら逮捕されていません。日本の検挙率の高さと比べると、それはもう雲泥の差があります。

例えば、チョット極端な例ですが、有名なアトランタ幼児大量殺害事件というのがありました。23歳の男(どういうわけか誘拐犯は圧倒的にオトコばかりなのですが)が捕まるまでの2年間、少なくとも28人を誘拐して殺害した事件です。この連続誘拐殺人事件は、早くから彼を容疑者として特定していたのですが、逮捕できず、次々と犠牲者のヤマを築いてしまったようなのです。どうして警察が犯人逮捕に手間取ったのか不思議です。警察はどうせ何もしてくれないから、自分で自分の子供を守るしかない…と考えても当然のことです。

ダンナさんの「あんなことしているから、ガキは自分の足で、自分の道を歩けなくなり、独立心がなくなるんだよ」といういう嘆き、非難をよそに、道路わきに止めた車に児童を乗せ、スクールバスを待つ風景は当分なくなりそうにありません。

-…つづく

 

 

第562回:アメリカではあり得ない“掃除当番”

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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