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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第415回:ジャンク・コレクターの救世主

更新日2015/05/28



恒例ですが、『Time』誌が昨年最も影響を及ぼした100人を選びました。毎回登場する政治家も幾人かいます。どうしても眼が行ってしまうのが、一体日本人は何人その中にいるのだろうかと、日本人の名前です。

今回、偶然、最近私が読んだ本の著者、作家が二人入っていました。一人は村上春樹(ハルキ・ムラカミ)さんで、いつノーベル文学賞を貰ってもおかしくない、世界的な小説家ですからTime誌に載ったところで、何をいまさらの感が無きにしも非ずです。恐らく、ポスト三島ではアメリカで一番読まれている日本の作家と言ってよいでしょう。私の大学でも、英文学の先生がハルキ・ムラカミの短期集中講座を開いたところ、定員の何倍かの受講希望者があったと、その先生、悲鳴を上げていました。

そしてもう一人、近藤 麻理恵(マリエ・コンドー)さんという若い女性です。彼女の本はアメリカで200万部売れたとか宣伝されていて、私も父に一冊送りました。コンドーさんが日本女性だとは知りませんでした。コンドーさんの本は、『The Life Changing Magic of Tidying Up』という英訳タイトルがついています (日本語オリジナルは『人生がときめく片付けの魔法』) 。

コンドーさんの本は早く言えば、如何に身の回りのモノを整理し、少ないモノで(精神的に)豊かな生活をするかというハウツウものなのですが、今アメリカで流行っているその手の記事や本、ガレージをオーガナイズする方法とか、2年以上手を通していない衣類は場所塞ぎだから、救世軍の店に回そうとか、大きな家からマイクロリビングへ如何に移行するか、と言ったものと違い、心理面にも光を当てていることです。

間単に言えば、モノを沢山持つと、どうしても精神はモノにとらわれる、それよりもホントウに必要な少ないモノだけで、モノに拘らない自由な時間、空間を持とう…と言うことなのですが、コンドーさんは説得力のある豊かな表現で書いています。

さて、本としてはなるほどな~、もっともだと思っても、それを実行に移すのはある種の人にとっては別問題です。とりわけ私の父のように、モノを捨てることができない人、おまけにタダかタダ同然のモノを拾わず、もらわずに通り過ぎることができない人(往々にしてこの二つのタイプは重複しますが)には、何を言っても無駄、生涯治らない癖のようなものです。

たとえ、そうと分かっていても、私が大枚はたいて買い送ったコンドーさんの本を読んでもらい、なるほど本当にそうだと父が共感したとしても、結局、猫に小判(豚に小判だったかしら)になってしまう可能性が高いことは覚悟しているのですが…。

父のモノ好きは異常で、しかも広大な敷地に飛行機の格納庫のような物置がありますから、アメリカ的に大きなジャンク(使い道のない、修理不可能なモノ)がぎっしり詰まっているのです。もう何年も動かない芝刈り機7台、トラクターは動くもの1台、小型の動かないもの3台、ほか足の壊れたキャビネットなどの家具類、上半分と鍵盤の三分の一がない足踏みオルガン、ピアノなど、どれも売るというより持っていってもらうのにお金を払わなければならないような、純正ジャンクです。

悪いことに、彼は長年、小中学校の校長先生をしていましたから、学期が変わり、教育委員会などの上の機関が、学内の施設、家具、道具などを新しくすると決めた時、その捨てる家具類、設備などを集めるために、ものすごい圧搾機械の付いた大型ゴミ収集車が学校にやって来ますが、その前に家に持って帰ってくるのです。

引退してからのジャンクの供給源は、周囲でドンドン死んでいく親類、友人、知人です。ダンナさんが亡くなり、一人残った奥さん、おばあさんが老人ホームとかグループホームに入るとなると、父にお呼びがかかります。不幸にして、父は大型のトヨタトラックを持っていますから、引越しを手伝ってくれというお声がよくかかるのです。

父は人にモノを頼まれるとノーと言えない性格ですし、それどころか、ヒョイヒョイと喜び勇んでトラックを運転して"引越しのお手伝い"に行きます。帰りはもちろん、トラックに山のようにモノを積んで帰ってくるのです。

父に、「お父さん、あなたが死んだら、こんなゴミの山を抱えてお母さんや私たちはどうすればいいの?」と言ったこともあります。その時は、「そうだなー、でも治せばまだまだ使えるモノが沢山あるぞ」と言うだけで、ジャンクを入れるためにもう一軒大きな物置を建てる計画を立てています。

私のダンナさんは、「オメーは自分でコントロールできないことに気を使いすぎる、心配し過ぎる、余計なストレスを抱え込んでいる。親父さんを変えようとするな。好きなだけ集めさせ、彼が死んだら、お金を払ってプロのゴミ収集屋を呼んで持っていってもらえば良いだけだ」と言っております。

コンドーさん、こんな重症のジャンク・コレクター(ゴミ収集家)に付ける薬はなのかしら、何か効き目のある殺し文句を知りませんか?

 

 

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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