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■亜米利加よもやま通信 ~コロラドロッキーの山裾の町から

第662回:新型コロナウイルスで異変が…

更新日2020/06/18


2ヵ月に渡って、学校、レストラン、図書館など、人の集まるトコロはすべて閉鎖されてしまい、行き場がなくなったのでしょうか、私たちが住んでいる山裾が賑わってきました。いつもの散歩道まで、マウンテン自転車ならまだいいのですが、ダートバイク、バギーが騒音と砂ホコリを巻き上げて侵入してくるようになりました。

郡道にもキャンパーやバギーを引いたピックアップトラックが3、4台つるんで押し寄せてきます。しまいには、いずれもヘビー級の体に禿げ白髪を隠すようにバンダナを締めたハーレー・ダヴィッドソン集団までが、大音響でカントリー・ウエスタンを鳴らしながら攻めて来ています。しかし、どうしていい歳のオッサン連中、ああまでつるみたがるのでしょうか。例年であれば、週末、連休だけに見られるラッシュが日常的に起きているのです。

コロラド・ナショナル・モニュメントに入る下の駐車場はいつも満車状態で、公園に入る前の道路にも長い縦列駐車が見られ、モニュメントの曲がりくねった急な坂道にもこんなにたくさんのサイクリング愛好者がいたのかと思うほど、次々と登ってきます。週1回の買出しで町に下りる時、自転車やらキャンピングカーを引いたピックアップトラックなど、かなり注意が必要で、ノロノロ運転をしなければなりません。

人口10万人そこそこの小さな大学町は、東側にはグランド・メッサ、西にはコロラド・ナショナル・モニュメント、その奥に私たちが住むグレード・パークがあり、町中にはラフティングができるコロラド川が流れ、アウトドアには事欠かないところです。このコロナ騒動を機に、町中の人が一斉にアウトドアスポーツにのめり込んでいるかのような賑わいを見せています。

こんな時に近くに逃げ込め、楽しめる自然があることは本当に素晴らしいことだと思います。私たちが食料品を買う、低所得者向けのスーパー『ウォルマート』は一種の総合雑貨屋で、新鮮な食べ物の他にも、衣料品、靴、車のパーツ、大工道具、スポーツ用品などを広大な体育館のような建物の中に並べています。コロナが始まった時、真っ先にピストル、ライフル、猟銃などの銃火器、弾薬が売り切れで棚から消えましたが、次に何十台、おそらく100台以上並べてあった自転車が売り切れで、空になっていました。何でも、自転車はダンボールの箱に入って店に届き、それを組み立てて並べるのだそうですが、どうにも組み立ての方が追いつかないと言うのです。自転車業界、時ならぬブームに沸いているのかしら…。

根からのアウトドア派でなくても、これを機会にサイクリング、マウンテンバイク、ハイキング、キャンピングを体験し、アウトドアに転向していく人がたくさん出てくるのでしょうね。でも、ここ高原台地に棲んでいる人たちにとって、コロナのために家にいなければならない町の人転じて、インスタント・アウトドア体験者は必ずしもウエルカムと言えないのです。

もうすでに、この台地は乾燥した南西の風が吹き始めました。ここの住人は火の取り扱いに特に神経を使います。数年前、近くでキャンパーの火の不始末から山火事が発生したことがあります。大きなバスみたいなキャンピングカーでやってくる町の人たちが、野外で火を焚き、バーベキュー(アメリカ人はどこへ行ってもバーべキューの一本槍なのです)にいそしみたい気持ちは分かります。周囲の木立、風向き、火の大きさなどを考慮して焚き、後始末をしっかりしてくれれば問題がないのですが、私たちが裏山へハイキングした時、二度、まだ燻ぶっている焚き火の跡を見つけました。

ダンナさん、「何やってんだコイツラは…」と言いながら、オシッコを掛けていました。もちろん、そんな少量の水で消えるわけもなく、大きな石を運んできて、火種をつぶすように重ねて載せたりしましたが、それで本当に消えるのかチョット心配でした。

それにゴミです。これだけたくさんの人がアウトドアに出掛ければ、その内の何人かはポイステをやるのでしょう。ミネラルウォーターのペットボトル、ビールの空き缶などが目に付き始めました。例年ですと、ダンナさん、春には大きなビニールのゴミ袋を提げて、道路脇のゴミ拾いをやっているのですが、今年はもうキリがないから止めた、とコボシています。

牧場の人たちの心配は、放し飼いにしている牛たちのことです。この一帯はフリーレンジといって、国有林や国有の山だけでなく私有地でも郡道でもハイキング道でも牛様様で、どこでも自由に歩き回り、草を食べ、大きなベトベトしたウンコを撒き散らす権利が牛にあるのです。お牛様の侵入を防ぎたかったら、バラ線(有刺鉄線)を張ったフェンスを張り巡らすしかありません。

ここでは牛に第一級の権利があり、我々人間は道を塞いでいるお牛様をじっと待つより他ないのです。その当たりの事情を町から押し寄せてくるニワカ・アウトドアの人たちは分かっていないようなのです。おまけに、団地などでペットとして飼われている犬を連れ来ます。広々とした牧草畑、森に放たれた犬どもは、喜び勇んで走り回り、子牛を追いかけ回し、向かいのサムとダイアンの牛が足の骨を折ったことがありました。牧場主にとっては怒り狂う当然の理由があろうというものです。

森でキャンプをする人たちのほとんどが銃を持ってきます。春に狩猟はできないのですが、たくさん買い溜めした弾丸が余っているからでしょうか、射撃訓練をやるのです。田舎道の道路標識は穴だらけになっています。連射式というのでしょうか、こちらでセミオートマチックと呼んでいる、機関銃のようにバリバリバリッという銃声が聞こえてきます。

そんなこんながあっても、この時期に自然の中で暮らすことができるのは、とてもラッキーなことだと思わずにいられません。森の中にダンナさんが何箇所も造った“イコイの場所”で朝食は陽を背に浴びるようなベンチ、昼は森の木陰に釣るしてあるブランコ式長椅子か、ピクニックエリアと呼んでいるテーブルと椅子を出しっぱなしにしているところ、夕方は夕陽がよく見える岩陰と、寛ぐ場所に事欠きません。

出歩きすぎる傾向のある私たちには、たまにこうして家に、と言っても森ですが、過ごすのも悪くないな~と思っています。


-…つづく

 

 

第664回:ついに山火事発生! そして緊急避難…要持ち出しリストは?

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Grace Joy
(グレース・ジョイ)
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中西部の田舎で生まれ育ったせいでょうか、今でも波打つ小麦畑や地平線まで広がる牧草畑を見ると鳥肌が立つほど感動します。

現在、コロラド州の田舎町の大学で言語学を教えています。専門の言語学の課程で敬語、擬音語を通じて日本語の面白さを知りました。

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~アメリカ中西部今昔物語
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