第131回:ブームタウンとゴーストタウン
更新日2009/10/15
うちのダンナさんに付き合うようにして、アメリカ西部をドライブして回る時、彼がいつも行きたがるのは、ゴーストタウンとブーツヒルと呼ばれるお墓地です。
もっとも、アメリカの田舎町は(大都会も同じですが)どこに行っても変わり映えがせず、いくらその土地の人が自分の町を誇りにしていても、ワイオミングの田舎町もモンタナ州、アイダホ州の田舎町も、メインストリートが町の真ん中を走り、両側に四角い表情をしたひなびたお店が並び、アメリカの国旗を揚げたモダンな建物の郵便局、いかめしい裁判所、町役場など同じようなものです。
流動性がとても激しいアメリカの西部では、よくブームタウンが生まれ、花開き、そしてしぼみ、ゴーストタウンになります。典型的なのはゴールドラッシュに沸いた金の鉱山町でしょう。ゴーストタウンを逆手に取り、観光地として売り出している町がたくさんあります。金山だけでなく、銀山、銅山、炭鉱も採算が取れないとなると、サッと引き上げるので、町全体が驚くべき速さで空(カラ)になります。
カラッポになった町は、文字通りオバケだけが住むゴーストの町になってしまいます。チョット手を入れれば住むことができそうな家がいくらでもありますが、多くは腐れ落ちるままになっています。どうにか車が入れるような道路が残っているゴーストタウンは悲惨です。お土産にするのか、記念に持って帰るのか、骨董としての価値があるのか、ありとあらゆるモノが外され持ち去られています。何でも古いソーダーガラス、向こうの景色がゆがんで見えるような古い窓ガラスでさえ、高く売れるのだそうです。
ゴーストタウンになってしまった町は、たまに例外的に5,000人以上が住んでいる町もありますが、最盛期でも人口が1,000人内外のところが多く、しかも、もともとあばら家のバラックで粗雑な造りでしたから、腐り落ちてしまうのもとても早いのです。
そんな西部の小さな規模ではなく、100万人近い住民が流失し、現代のゴーストタウンになりつつある大都市があります。自動車の町、デトロイトです。
デトロイトは、1970年代までアメリカ5番目の都市で、モータウン(モーターの町)と呼ばれ、アメリカ・モーターリゼーションの象徴でした。
1950年代の最盛期には、人口 185万人を抱えるまさにブームタウンでした。ゼェネラルモーターズのお膝元ですから、アメリカが潰れない限りゼェネラル モーターズは潰れない、従ってデトロイトは永遠に安泰だと言われたものです。
ローマ帝国が滅びたように、チョット大げさですが、1970年代から急激に仕事がなくなり、失業者が増え、失業者は仕事を求め他の土地に移住し始め、今では人口90万人を割るアメリカで11番目の都市になってしまったのです。
一口に100万人もの人口が減ったと言えますが、100万人は巨大な人口流失です。札幌がカラッポになったようなものです。税収入が減るので、市では今までと同じ広さをカバーできる警察、消防、学校を維持していくことができません。
アメリカ全体の失業率は9.7%で、それだけでも異常に高いのですが、デトロイトでは29%にもなっています。三人に一人は失業者です。
デトロイトの街にはゴーストタウン化した地区がたくさん生まれ、まさに無法地帯になっている、と言います。歴史的な豪華ホテル「リー・プラサ・ホテル」も若いギャングたちが根城にして暴れ回ったのでしょう、廃墟になっています。
今、リー・プラサのようにタダで泊まれるホテルが何件もあるそうですが、身ぐるみ剥がされ、殺される危険が伴います。
不動産は暴落しています。今、豪華な邸宅を買うならデトロイトです。あきれるくらいの安値で叩き売りしていますが、常駐の警備員を雇う覚悟がいります。
なんせ、殺人の検挙率が30%に満たない街なのですから、窃盗くらいでは警察が受け付けてくれるかどうかさえ、疑問です。
街が、一つの企業に頼る危険性は早くから多くの人が警鐘を鳴らしてはいたのですが、景気のよい時に、誰も自分が路頭に迷うことになると信じたくないのでしょうね。
デトロイトが完全なゴーストタウンになるなら、それは、永遠の発展を信じたアメリカ人へのよい"ミセシメ"になるかもしれません。いや、きっと別の街がブームタウンになり、何年後かにゴーストタウンになることを繰り返すのがアメリカの歴史なのかもしれません。
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