坂本由起子
(さかもと・ゆきこ)

マーケティングの仕事に携わったあと結婚退社。その後数年間の海外生活を経験。地球をゴミだらけにしないためにも、自分にとって価値のあるものを探し出したいと日々願う主婦。東京在住。

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第2回:モチベーションアップのための掃除機

製品の回収と再資源化。循環型社会を目指して日本でも新しい環境関連法がスタートした。この4月から施行されたのは、家電リサイクル法、食品リサイクル法、グリーン購入法、改正リサイクル法、化学物質排出管理促進法の5つで、おもに企業に対する規制となっている。なんだか固い言葉が並んでしまったけれど、私たちの生活に直接関わるものとして、最近よく耳にする家電リサイクル法がある。これからはテレビ、冷蔵庫、洗濯機、エアコンを処分するときにはお金がかかる。今のところ、これら4製品だけに限定されているが、いずれはすべての家電にこれが適用されることになるかもしれない。

我が家の4製品はまだまだ元気で買い替えの予定はないけれど、これ以外にどうしても欲しいと思っていた家電があった。それは掃除機。以前アメリカ在住中に40ドルという価格に惹かれて買った掃除機はとうとう壊れてしまい、帰国後の家は床がフローリングだからといいやと、専用ワイパーでなんとか乗り切っていた。そして、またも突然に引越しが決まった。今度の家の床はカーペットで掃除機が要る。早くなんとかしなくては…ということで念願がかなうことになった。

最近の掃除機は、ゴミパックを使わないサイクロン方式や排気が出ないものなど、環境にやさしい機種が主流で、機能はどれをとっても素晴らしくファンシーなデザインが多い。掃除機も「見せる」ことを意識した家電のひとつになったのかもしれない。あまり迷っている時間はなかった。そこで、買い物をするときの基準を決めてみた。美しくムダのないデザインで、環境に優しく長く使える物。そうやって探していくと外国製品に行き着いた。どちらにするか最後まで迷ったのは英ダイソン社と独ミーレ社のものだった。二社の掃除機の大きな違いは、ゴミパックを使うか使わないかというところ。そういえば40ドルの掃除機はゴミパックがなかった。そしてゴミを捨てるときにくしゃみが出てとても辛かったことを思い出した。うん、やっぱりミーレにしよう。

さて、掃除機が届いた日、これがいかに素晴らしい物かを夫に説明することになった。それなりのお値段がしたので、それなりのプレゼンテーションをしたほうがよさそうだったのだ。 「これはね、20年間の使用に耐えられる設計で、壊れても部品を保存してあるから修理ができるの。もし捨てることになったとしても製品の93パーセントはリサイクルできるし、世界で初めて付けた排気清浄機能は埃を99.98パーセント除去できて、吸引力が…」 こういう説明を聞かされている夫は、パソコンや車の話を聞くときの私と同じで、ただひたすらうなずいていた。気がつくと、つい一人で熱く語ってしまった。夫の反応が気になった。 「すごいな。いいんじゃないの」 よし、やった。 「ところでさ、これ、BMWみたいな雰囲気だな」 夫がぼそっとそう言った。 なるほど、言われて納得とはこのことか。とにかく気に入ってもらえたのでほっとした。

夫がBMWみたいだと言ったのはあながちハズレではないのだ。実はこの掃除機は、ドイツの自動車の工業デザインをモデルにしていることをあとになってから知った。ドイツの車といえば、BMWやベンツといった高級車が思い浮かぶ。シルバーのボディにブラックのバンパー、そしてクロムメッキのパイプ。決して安くないこの掃除機には、確かにそんな風格がある。

そういえば、いい仕事をするために奮発してBMWを買ったという友人がいた。確かにこういう買い物なら主婦業のモチベーションも上がりそう。ひょっとしたら家電を買うときも、いい自動車を選ぶみたいにしていいのかもしれないなと最近は密かに思っている。

 

→ 第3回:ダイニングテーブルの色が変わるとき


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