坂本由起子
(さかもと・ゆきこ)

マーケティングの仕事に携わったあと結婚退社。その後数年間の海外生活を経験。地球をゴミだらけにしないためにも、自分にとって価値のあるものを探し出したいと日々願う主婦。東京在住。

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第9回:理想の形はユニバーサル

同じようなものをたくさん持っているのに、どういう訳か、ついそれを使ってしまう…というものはないだろうか。たとえばボールペン。家に何本もあるのに、いざ使うときは決まって「いつものやつ」だったりする。たまにそれがみつからなと、しかたなく他のボールペンで妥協する…といった具合にだ。

ステイタスとしてのブランド品や趣味のものは別として、毎日なにげなく使う日用品。私なりに、なぜそれが好きなのかを考えてみた。デザインが優れている、無駄がなく機能的、丈夫で長持ち、使いやすくて簡単、失敗がなく安全、手になじんでいる、といったところだろうか。どうやら私の「これが好き」という言葉には、これらの意味が含まれている。

あまり考えなくても簡単にものが買える日本という国。買ったものの、あまり気に入らず使わないものが家の中で結構眠っているはずだ。大量生産と大量消費、そんな時代に終止符を打つかもしれぬ動きが、デザインの現場に起こり始めているらしい。それは「ユニバーサルデザイン」と呼ばれ、まさにもの作りの原点なのだ。

バリアフリーという言葉と並んでよく使われるせいか、初めてこの言葉を聞くと、高齢者や障害者だけのものと誤解してしまう人が多いらしい。バリア(障害)の無いものではなく、ユニバーサル(万人共通)なものとはいったいどんなものなのか。

それは年代や性別を超えて使いやすく、安全で快適なもの。生活雑貨からファッション、住宅や公共施設など、私たちを取り巻くすべての環境にまで及ぶ、快適な暮らしに欠かせないキーワードなのだ。

だからといって決して特別なものではない。なぜなら、すでに生活に溶け込んでいるものも多いからだ。家の中をざっと見渡すだけでも、シャンプーボトルのギザギザ、グリップ付きのボールペン、レバー式の蛇口、蓋開け、電動歯ブラシ、はめ込み式のトイレットペーパーホルダーなんて具合に簡単に見つかる。言われてみると「なぁーんだ、これもユニバーサルデザインなのか」というものだったりする。便利で簡単で使い心地がいいものだけに、無いとあらためて不便だなぁと感じることも多い。

何年もデザインが変わらずに残っているものも、ユニバーサルデザインといえる。たとえば、ドイツのリッター社製のピーラー(野菜の皮むき)は、15年以上もデザインが変わっていないし、フランスの台所には必ずあるといわれているムリネットという野菜などをすり下ろす調理器具は、70年以上もデザインは変わっていないのだそうである。お婆さんも、お母さんも、娘もみんな使っているのだ。

日本にもそういったものはある。昔からお婆ちゃんの裁縫箱に必ず入っていたU型の握りばさみは、利き手を選ばない優れものだ。残念ながら私たちの世代ではあまり使われなくなってしまったが、細かい作業に向いているので、刺繍などの針仕事には欠かせないものとして、今もちゃんと受け継がれている。そしてこのU型はさみ、なんとギリシャ時代の出土品にもみられたというほどその歴史は長かったのである。 より機能的に生まれ変わったものもある。たとえば、小さい子供を持つ家庭には必ずあるという耳式体温計。たった1秒ほどで体温が測れるというもので、あっという間に普及した。始めは子供用だったが、大人だって使いやすいし、なによりガラス製の水銀式のものより安全だ。

完璧なデザインは、誰もが使いやすいのだ。いいものはこれからもずっと使われていくだろうし、長く使えばゴミだって減る。そんな暮らしがあたりまえになる日は近いのだろうか。

 

→ 第10回:小さな宝探し


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