坂本由起子
(さかもと・ゆきこ)

マーケティングの仕事に携わったあと結婚退社。その後数年間の海外生活を経験。地球をゴミだらけにしないためにも、自分にとって価値のあるものを探し出したいと日々願う主婦。東京在住。

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第12回:砂浜の宝石

海のそばで暮らしたい。今まで憧れだった言葉が現実のものとなったのは、結婚してからアメリカに行くまでの4年間ほど。それまでは、海水浴やドライブなど、観光客としてしか訪れたことがない場所だった。当時、都内で働いていたので通勤が片道2時間という最悪の条件だったが、引っ越しは考えなかった。自分でも驚くほど、海の暮らしが気に入っていた。東京に近過ぎず遠過ぎない、都会との程良い距離があって自然に恵まれた鎌倉。今でも大好きな場所だ。

海での過ごし方はいろいろある。週末の朝、お気に入りのパン屋でサンドウィッチを買って、海を眺めながら朝食というのは暮らし始めた頃のお気に入りだった。地元に友達ができると、一緒に釣りに行ったり、カヤックに乗ったりして遊んだ。海でスポーツをしない私は、本を読んでみたり、絵を描いたりしていたが、炎天下でするような行為ではないと思い知らされた。

結局ぼんやり海を眺めているのが一番楽しかったのだが、ある日砂浜を見ていたら、きれいな貝殻が落ちていた。まさに灯台もと暗し。シーズンオフの海岸がこんなにきれいなものなのかと感激した。思えば海水浴シーズンの砂浜しか知らなかったのだ。それからは、海に行くと必ず砂浜を探索している。後になってこれが地元で「ビーチコーミング」と呼ばれている、立派な海遊びだと知った。貝殻や流木はもちろん、いつも夢中になって集めるのはビーチグラスと呼ばれるガラスの破片だ。ビンの破片が波で洗われているうちに角が取れて、まるいすりガラスのようになったもので、ブルーやグリーンなど、ビンの種類だけ色があってとてもきれいだ。

ビーチコーミングをする人たちには、お気に入りのポイントというのがあって、仲良くなると「どこどこの浜にいっぱい落ちているよ」と情報交換もあったりして楽しいのだ。けれどいつもたくさん落ちている訳ではない。やはり自然に左右されるので、台風などで海が荒れた後は、サーファーたちに混ざってビーチへ急ぐ。

そんな環境にあるせいか、地元には流木やビーチグラスを使うアーティストたちがたくさんいる。そんな彼らに刺激されて自分でも何か作りたくなる。ときどき集めたものを並べたりしながら、あれを作ろうなどと考えている時間がまた楽しい。まだまだ材料が少なくて、希望のものは作れていないが、ゆっくり集めていけばいいと思っている。だから、海に行く楽しみが尽きないのである。 最近はビーチグラスに香りをつけたルームフレグランスも売っているので、ひょっとしたら人工的に作れるものなのかもしれない。何でも買える世の中なのだなぁと思う。けれど、波の音を聞きながら探索をする楽しい時間まで、お金で買いたくはないなと思ったりもする。

ビーチコーミングをしていると必ず出くわす、悲しいことがひとつある。人によって捨てられたゴミだ。確かに海辺にゴミ箱は少ない。けれど、何故持って帰れないのだろうか。自分の家でもゴミを床に捨てているのだろうか。海だけではない。街にもゴミがたくさん落ちている。4年ぶりに日本に帰ってきてガッカリしたのは、日本は以前よりもゴミだらけということだった。

ビーチグラスはもともとゴミとして海に投げ捨てられた悲しい運命のビンからできている。せめて砂浜にたどり着くまでにその姿を美しく変え、人に拾われることで救われようとしているのかもしれない。

 

→ 第13回:気持ちよく始めよう


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