■ニューヨーク・カッパ便り~USアート見聞録

原園 綾
(はらぞの・あや)


在ニューヨーク。アーティストおよびアート・プログラムについて気ままにリサーチ中。ハンター・カレッジ人類学修士課程では知覚進化やアートの起源がテーマ。新しい趣味は手話と空手。2004年はいい感じ。

 

 
第1回:アートな旅
~サンタ・フェ&ラス・ベガスの巻

第2回:美術館でダンスの
展覧会を観るの巻

第3回:アングラ、ライブ、ビデオ、
エッチング…etc
.
第4回:幻想的な空間を楽しめるビジュアル本をご紹介
第5回:春だよ、イースターだよ、
ピョンコちゃんだよ!

第6回:中間試験が近づいてきたあ…ゲロ!


■連載完了コラム
Gallery 1 by 4
~新進アーティスト・ガイド from New York

[全33回]

生き物進化中
~カッパのニューヨーク万華鏡日記

[全15回]

只今、生き物進化中
~カッパ的動物科学概論
[全15回]

■更新予定日:隔週木曜日

第7回:ギリヤークさんのスワン・レイクに胸キューン!

更新日2004/04/22


踊ってください。

「翼をください」ではありません。「踊ってください」なんです。うひひ。あとでゆっくりこのお話を。

さて、中間を終えたら、石器の実験しなくっちゃー。ひー。実験は、白い石器でニンジン20本皮をむき、全然刃が傷まないのでそのまま20本分を削り切りました。マメできちゃってさ。計2,000ストロークだもん。茶色い石器では、鶏の脚をおろしました。骨についている肉をこそげ落とす時に、かなり刃が傷んだので、3本にて終了。これで1,000ストロークなり。刻んだ鶏肉はゆでて、ワン公のおかず&おやつだね。

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実験チキンに興味クンクン。

結果的には、白い石器は素材が固いチャートだったので、刃のすり減りが少なく、肉眼では多少の摩耗ぐらい。高倍率の顕微鏡などで見ると傷が見える可能性はあるのだが。一方、茶色の黒曜石は鋭い分摩耗しやすいから、骨に当たったらあっという間でした。自然のガラスですからに~。

著名な石器の大先生が心臓の手術を受ける時に、自分で用意した石器をメスの代りに使ってもらったら、回復が早かったという。それだけ、鋭さはダントツらしいっすよ。石器って。

休みに入り気分転換に久しぶりに会議のお手伝いに行ってみた。NYのホテルを会場に週末の3日に渡りいろんなゲスト・スピーカーがやってくるので、ボランティアのお礼として入場料なしで時々会場に聞きに行けるの。

そのうちの一人、クリストファー・リーヴは、あのスーパーマンの俳優さんで、落馬して首から下が不随になり、6年間あらゆる医学の先端技術を駆使してリハビリをやってみたけど効果なく、もうできることはないとされたぐらい。それでもコンピューター制御のリハビリ・プログラムなどを続けていたら、小指(だったかな)が動かせるようになって、何も変化のなかった数年間の後にそんな端っこから回復してきたんだって。

意識はずっとしっかりしているから色々考えただろうし、却ってつらい面もあっただろうね。やっぱりすごいなあ。彼自身のすごさだけでなく、人間の精神と生命力、そして体という限界を我々に突付けてくる存在として。

アメリカの感心なところは、こういう人たちがすかさず社会的な活動をすること。もちろん経済的、政治的理由など色々あるでしょう。それでも彼を雑誌の表紙にしようとした人が、編集のトップにボツをくらって大喧嘩したという話もあるから、決して日向のスーパーマンではないのだ。

けれど真のスーパーマンここにありっ。彼が映画のヒーローのみならず、アメリカの象徴のような「スーパーマン」であったこと、転じて今は生きること、指を一本づつ動かせるように努力を続けることで「スーパーマン」であるという事実が衝撃的で、それだけですごいメッセージだと思ったじょ。

彼のスピーチからの一言、「真実は早めに言ってしまおう!」。大人になると色々気遣いなどを覚えてしまうものだけど、それは小さなウソの積み重ねだったりするでしょ。むしろ本心を早く言った方が、結局は誰のためにもいいのだと。

仕事を断るのも回りくどく言ってないで、さっさと言っちゃった方が時間も無駄にならないしってね。そういえば、別のスピーカーも、「言葉を飲み込んだり、踏み止まらないで」って。言おうと思って止めること、やろうと思ってためらうこと、って結構あるけれど、それはこうなったらイヤだなと不安がブレーキになっていたりして、せっかくいいもの、自然なものが常識とかに潰されていることも多いから。カッパも気をつけてるんじゃ、それ以来。


ギリヤーク尼崎NY公演チラシより

ああ、そして気分転換どころでは済まないヒジョーに衝撃的なもの見ちゃったっ!! NY公演に日本からきたギリヤーク尼崎さん。はー、言っちゃった。真実は早く言わなくちゃね!

知り合いの金井さん十一月画廊銀座)の企画でブルックリンのアート・スペース、Williambsurg Art & Historical Center で行われたイベントでした。

なんなんじゃろ!!? パフォーマンスっていうか、ダンスっていうか、舞踏っていうか、どれでもない。やはり大道芸なんだな。ダンスの仕事をしていた頃から色んな公演を見てきたつもりだけど、こんなん知らなかったー。いやー74歳。あっぱれ。お肌が白くてハリがあって、しかもお腹とか背中よ、うらやましい。

通常のストリートでやっている模様もビデオで上映。衣装、小道具、機材をカートで引いて、どこへでも。新宿の高層ビル街や、お稽古は駒沢公園、鎮魂の踊りがテーマで、震災後の神戸やNYのグランド・ゼロにも。

グランド・ゼロはテロ1年後の当日で人混みの中、場所は確保したものの踊り出せないで正座していると、死者たちから、「ギリヤークさん、踊ってください。」との声が…。俄然、ギリヤーク節で周りの人たちも釘付けに!!

ビデオで見たように、実際の公演でも場所を構え、気合いが入り、着替え・メイクをして、商店街にあるような拡声器風スピーカーとつながっているデッキのスイッチを押すところ、題目を読み上げては踊り、最後は水で締める。即興のようでいて段取りまできちんと稽古されつくしている感じ。

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「禁じられた遊び」の曲で『夢』を踊るギリヤークさん。

圧倒されるのは、彼の独自の世界を迷いなく表現して、でも押しつけず、照れるような繊細さもあるけれど、度肝を抜く大胆さもあって、純粋だからかなあ。

計算がない。アートしようなんて思ってない。ありのままの魅力でしょうか。パラを1本使うのだけど、本物の花を使ったりしない。プラスチックのケースに入れてある造花なの。ケースから出すのを見て笑っちゃうんだけど、同時にジーンとくるのよ。

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お茶目な場面もあるけど、泣けた『スワン・レイク』。

白鳥の湖」なんて題目を「シュワンレーク! シュワンレーク!」なんて読み上げた後、神妙に始まったかと思ったら、なんだかかわいい元気な顔になっちゃったり。バレエをやっていただけあって、線がきれいなところも意外で面白い。でもかなり胸キューンな作品でした。

アートと語らなくても、彼の踊りにムンクを見て、ゴッホを見る。そんな凄みがあると同時にキュートな面がでてしまう人でした。

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題目『念仏じょんがら』を読み上げる。

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本領発揮のギリヤーク尼崎。

NY公演といえば、夏にはリンカーン・センターに勘九郎率いる「平成中村座」も。先日センターの広場を通り過ぎたら、もう芝居小屋が建て始められていた。「黒人のにいちゃんたちがTシャツにヘルメットで歌舞伎座建ててんのかよー」と突っ込みたくなったよ。

 

第8回:春のウィリアムズバーグ