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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第20回:カルト・ケイト ~アルバート・ボスウェル その1

更新日2017/10/19

 

アルバート・ボスウェルは当時としては長身180センチを優に超える体格、痩せ型だが、骨格のがっちりした引き締まった身体をしていた。小さ目の顎のとがった顔に落ち窪んだ鋭い目、頬から顎にかけて立派な髭を蓄えて、服装にも注意を払い、三つ揃いをシャッキっと着こなし、ブーツはいつも磨かれ、押し出しの効く、ほとんどハンサムと言ってよい男だった。 そして一端口を開けば、東部風の発音で、いかにも教養のある話し方をした。しかし、それも一旦彼が激高すると、悪魔も耳を塞ぐ罵詈雑言が飛び出してくるのだった。

ボスウェルは西部の男なら誰でもこなす、野生の馬をブレイク(手なずけ、乗馬できるようにする)するとか、投げ縄で子牛を捕らえ焼印を押すとかの仕事に手を染めなかった。そんな仕事は牧童に任せておけばよいと思っていたのだろう。

彼が近隣の牧場主たちと隔絶するほど…と言ってよいと思うが、違っていたのは、ワイオミングの開拓牧場を投資の対象としてしか見ていなかったことだ。

今見ると、100パーセント、ウソ、デタラメではないにしろ、誇大広告もいいところで、東部、中西部の投資家を煽っていたのだ。理想的な牧場地、清涼で枯れることがないスィートウォーターリヴァーが広大な高原にうねるように流れている。牛肉の需要は天井知らずで、ワイオミングの我が牧場オペレーションは順風満帆、さあ皆さん、今がチャンス、ドンドン投資してください…という訳だ。

ボスウェルは弱小開拓民の土地と、フリーレンジ(政府所有の共有放牧地)を次々と手に入れ、自身牧畜男爵に並ぼうとしていた。それには相当の資本と政治的コネが必要だが、彼は資金を投資家を募ることで得ようとしていたのだ。

実際、ボスウェルはリンチ事件の前に、すでにスィートウォーターリヴァー沿いの、彼が所有していない土地を売っているのだ。それらの土地の厳格な計測(サーヴェイ)は明記されていないものの、明らかにケイトの土地も含まれており、リンチの前にボスウェルが盛んにケイトに彼女の土地を売るよう持ちかけている事実がある。その時点で、彼はすでにケイトの牧場を第三者に売っていたから、彼としては何としてでも、ケイトの土地を取り上げなければならなかったのだ。

ボスウェルは自分に所有権のない広大な土地を転がし、東部の投資家を煽っていた。彼にとっては、ケチなホームステッドで政府からタダで貰った土地にしがみついている開拓民など、僅かな札束で頬を叩き、同時に脅しをかければどうにでもなると思っていたフシがある。そこへ、水場に恵まれた土地に頑なにしがみつき、彼に土地を譲ろうとしないケイトとジェイムスが現れ、居座ったのだ。 

ボスウェルはワイオミングのカウボーイや開拓民、牧場主の間では抜きんでた教養を持っていた。それを事あるごとにひけらかした。彼は開拓民やランチハンドと呼ばれていた雇われカウボーイを見下していたし、それを隠そうともしなかった。見下された人たちは、ボスウェルを煙たがったのは当然のことだろう。

それだけならまだよかったのだが、その上彼は瞬間湯沸器のように、事あるごとに怒り狂った。反対意見を聞く耳を持たないどころか、そのような意見を述べる者の全人格を打ち負かし、破滅させようとした。ボスウェルは確かに優れた商売のセンスを持っていたが、それ以上の敵を次々とつくっていた。彼のそんな性格を知る者は、自然と彼から離れていった。その意味でアンチ牧畜男爵の論陣を張っていたジェイムスは許せない存在だった。ボスウェルは牧畜男爵になろうとしていたが、まだそれには程遠い状態だった。ボスウェルは議論ではジェイムスに太刀打ちできなかったからだ。

一方で、ボスウェルはとても魅力的な会話を楽しむ素養があったという友人も多い。しかし、そのようなコメントは相当の資産家であり、東部で教育を受けたボスウェルのショーバイ上の繋がりのある人物の口から漏れていることだった。ボスウェルが使っていた牧童たちや近隣の牧場主たちの目に映った彼と、シャイアンや東部に出向いた時の社交的でさえあった彼とは、まるで違う人間のようなのだ。ほとんど二重人格のようにさえ見えるのだ。でも、これは人間の心理によく見られる現象で、黒人奴隷には悪魔のような存在である荘園の持ち主が、良き夫、良き父親であり、大地主の間では紳士然と振舞っているのと同様だろう。

リンチ事件を起こす以前に、ボスウェルはワイオミング、カーボン郡で原油、金鉱発掘事業を起業している。彼には確かに先見の明があった。ただ、彼の思惑は大きく外れたのだが…。彼はワイオミングの南部に石油があると読んだのだ。当時はまだ石炭全盛の時代だったが、石油がそれに取って変わることを彼は見越していたのだ。油田開発のための地質調査などあってないような時代だった。彼は、どこまで本当に自分の絡んだ土地から原油が吹き出ると信じていたのか、ただ単に投資家を募る手段として油田開発を打ち上げたのかは分からない。いずれにしろ、ボスウェルはワイオミング不動産および土地改善会社(Wyoming Land and Improvement Company)を立ち上げ、出資者を募り、莫大な投資をして、カーボン郡でボーリング工事を展開したのだ。

『カスパー・ウイークリー・メイル』紙によると、1,000ヵ所に及ぶボーリングを行なったとある。もちろん一滴の油も出てこなかった。いずれにしろ、ボスウェルが将来の展望を持ち、それに賭けたことは確かだ。カーボン郡近くのラトルスネイク界隈で原油と金鉱が発見され、十分再三の取れる事業が展開されていた。ボスウェルは柳の下のドジョウを狙ったのだろう。ラトルスネイクの鉱山技師、地質専門家たちは、ボスウェルのやることを、ド素人が出鱈目に穴を掘ったところで、何も出てくるわけがないと、横目で見ながら笑っていたようだ。

ボスウェルの油田開発の思惑は外れたが、彼自身が損害を被らず、馬鹿を見たのは投資家だけだった。これがボスウェルがスィートウォーターで大牧場を展開しようと意図するまでワイオミングで行ったことだった。

-…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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