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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第11回:カルト・ケイト ~リンチの報道合戦始まる

更新日2017/08/17

 

今から観ると、このダン・フィッガーの証言はおかしなところが多い。もし、彼が縛り首を目撃したのなら、フランク・ブキャナンがしたようにシェリフに通報するのが当然だ。さもなければ、目撃者というより殺人幇助になる。しかも、6人組が立ち去った後、すぐにケイトとジェイムスを木から降ろすこともできたはずだが、それもしなかった。ケイトとジェイムスは翌日の7月21日まで吊るされたままだったのだ

かつ、6人組が一応逮捕され、裁判にかけられた時、証人として名乗り出ることもせずに沈黙を守っている。反面、彼が7月20日にゲイト牧場に出ていたことは事実で、そこから死の行進を目撃できる距離にいたのは確かだ。もし、本当にダンがケイトとジェイムスの最期を見届けたとしたら、なぜ彼は最後まで沈黙を守ったのだろうか。なぜ何もしないことで、6人のリンチ組を助けたのだろうか。

今も昔も色のつかない、偏見のない報道はありえない。偏見と言って悪ければ、報道した者の思想が先行するのだ。それは事実を見る目を変え、脚色する。現代の報道機関は大なり小なり編集基準を設け、事実からかけ離れ過ぎた報道を抑えるようになってはいるが、報道した者、記事を書いた者の責任を明らかにするという意味で、日本の新聞には署名入りの記事は極端に少ない。日本の報道は記事の責任の所在がハッキリせず、担当記者、編集者ら、政治的に大きな事件では新聞社自体が、“行き過ぎた報道があった…云々”で終わる。個人主義の洗礼を早くから受け、叩き込まれた西欧のジャーナリズムでは、署名記事が圧倒的に多い。それが良くも悪くも極端に表面に出る。

ケイトとジェイムスのリンチ、第一報を報じたのは、『シャイアン・デイリー・リーダー(Cheyenne Daily Leader)』という新聞だった。1889年7月23日(火曜日)の朝刊で、タイトルは“ダブル・リンチイング”で、下にサブタイトルとして、“郵便局長アヴェリル(ジェイムスの店は簡易郵便局も兼ねていた)と彼の妻、牛泥棒のため吊るされる”とあり、記事本文は、「彼らは疲れを知らぬ牛泥棒で法を破る常習犯だった。彼の方は消極的になっていたが、この女は最後の最後まで災いのもとだった。(続けて…)インディペンデンス・ロック近くのスイートリヴァーで日曜日の夜、リンチに処された。彼らは大掛かりな牛泥棒オペレーションを展開していた」と書いている。

このニュースは、No.76牧場の牧童であり、現地の駐在員リポーターであるジョー・ヘンダーソン(Geo Henderson)によってローリンズの町へ、そこからシャイアンへは電報でもたらされた。 

その内容は次のようなものだった……

この二人は恐れを知らない、向かうところ敵なしの牛泥棒を計画的かつ大規模に行っていた。また、女性の方は乗馬に長け、6連発拳銃の最高の使い手でもあった。

この泥棒二人は郡から追放勧告を何度も受けていたにもかかわらず、法を無視し、焼印の押していない若い牛を次々と盗んでいた。加えて二人組は数百頭の牛を昨年の秋に輸送していた疑いがもたれている。また、リポーター(ヘンダーソンのこと)が19日土曜日に密かに二人組の牧場を観察したところ、焼印を押したばかりの主に若い牛が少なくとも50頭以上フェンスの中にいるのを目撃した。このニューズは周囲の牧場主たちに速やかに伝わり、10人から20人の怒れる隣人たちがアヴェリル(ジェイムス)と彼の妻を取り囲んだが、過去に2度殺人を犯しているアヴェリルと妻の方も最後まで銃撃を止めなかった。

だが、勇敢な法履行者たちは小屋(ジェイムスの)に乗り込み、二人を縛り上げた。キャビンの中は葉巻の煙が立ち込め、ウイスキーのビンが転がり、グラスが2個、薬莢と一緒にテーブルの上に散乱していた。男は盛んに命乞いの言い訳を口にしたが、女は口汚く罵るばかりだった。

そして、この記者はあたかも処刑を見たかのように、彼らの最後を書き、リンチの翌日、二人が吊るされた情景を次のように記している。
「プレーリーの花がそよ風に乗って芳しく香る中、顔の色をなくし、腫れ上がった唇から舌がダラリと垂れ下がり、目玉が飛び出し、捩れた体で木にぶら下がったのだ。このような無法者の牛泥棒の娼婦とヒモ(pimp)は当然の罰を受けたのだ」。最後に一行、「女性がリンチにあったのは、ワイオミングでは初めてのことだ」と結んでいる。 

この『シャイアン・デイリー・リーダー』紙がリポーターとしているジョー・ヘンダーソンは、牧畜男爵ジョン・クレイに雇われている牧畜探偵で、いかなる意味においても新聞社の専属リポーターではない。この記事には間違い、もしくは意図的な曲解が多すぎるのだ。ジョー・ヘンダーソンをNo.76牧場の牧童としているが実際にはNo.71牧場であり、第一犠牲者の名前からしてAverell をAverillと綴っている。この記事を書いたのはエドワード・タワーズ記者(Edward Towse)で、すべてリポーターとして雇われ、探偵のジョー・ヘンダーソンの電報を元に書いた…としているが、その電報文は残っていない。当時、スイートウォーターの郵便局(殺されたジェイムスが局長)には電報、電信がなく、もしジョー・ヘンダーソンが電報を送ったなら、一番近い電報を発信できるのはスイートウォーターから直線距離にして50数マイル南に下ったローリンズに出向かなくてはならない。馬で丸一日の行程だ。 

第一、ケイトとジェイムスが大掛かりな牛泥棒シンジケートを組織したことなどないし、それ以前に数百頭の牛を列車で東部に送り出したこともない。ジェイムスの店で彼を拘束した時、怒れる牧場主、牧童が10人から20人も店を取り囲んだとあるが、実際には6人だった。また、ケイトとジェイムスを誘拐、拘束した時、激しい銃撃戦が展開されたと書いているが、双方一発の弾丸も放っていない。ジェイムスが過去に2度の殺人を犯していると決め付けているが、そんな事実もない。ケイトが拳銃、ライフルの使い手だとしているのもデタラメだし、その上ケイトを娼婦呼ばわりしているが、ケイトが売春をしていた事実はないし、ジェイムスがヒモのようにケイトの売春を仲介していた事実もないのだ。

-…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第6回:カルト・ケイト
~牧畜捜査官ジョージ・ヘンダーソン

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第9回:カルト・ケイト
~ジェイムスも一緒に連行される
 
第10回:カルト・ケイト
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