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■フロンティア時代のアンチヒーローたち~西部女傑列伝 5
 

第27回:カトル・ケイト ~ロバート・M・ガルブレイス その2

更新日2017/12/07

 

キャプテン・ロバートはショーバイのセンスの方はイマイチだったが、いつも政治的野心を抱いていた。尽きるところ、彼は技術者、エンジニアであり、世の中の動向に目を素早く走らせ、自分の利益に結び付けるような才能もなく、そんな性格ではなかった。

1884年、キャプテン・ロバートはカーボン郡選出のワイオミング州議会議員に立候補し、ヤスヤスと当選した。鉄道時代の名声と財力がモノを言ったのだろう。第一、食うや食わずの開拓民移住者、部落の小さな雑貨屋、牧童たちに名誉職のような議員を務める時間も余裕もなかったが…。

キャプテン・ロバートは政治的な力を使うことを知った。ホームステッドで160エーカーづつの土地を、親戚郎党一族が別々に申し込み、入植したことが違法行為であることに目を付けたのだ。ホームステッドには一家族を最小の単位とすることが明記してあり、家族全員が別々に申請し、入植していたのを違法として、その土地を取り上げたのだ。

1886年、彼が議員になってから2年目には、ワイオミング州で正規に登記まで漕ぎ着けたホームステッドはたった2件しかなく、他はすべて却下されている。開拓民、牧童たちは確かにやりすぎた。まだ生まれる前の赤ん坊に名前を付け申請したり、遠の昔に死んだ爺さん婆さんの名前を使ったりで、ホームステッドシステムを通じてタダの土地にあり付こうとしていたのだ。

そのような違法なホームステッダーから取り上げた土地をキャプテン・ロバートは政治的コネを通じて次々と買いあさり、自分の牧地を広げていった。リンチ事件の2年前の1889年には、彼はワイオミング州(領域)の議員、今で言えば上院議会議員になり、ワシントンに赴くほどになっている。

彼がどの程度牧場経営に直接関わり、牧畜産業全体を視野に納めていたかは疑問が残るところだ。政治的野心のある人間は、往々にして自分の野心に囚われてしまいがちだからだ。彼が自分の政治力を自分のために大いに利用することを全く躊躇しなかったことは確実だが、すでに十分以上の資産があり、政治的な名声も得てから、どうしてちっぽけなホームステッダー、ケイトとジェイムスを自ら乗り出してリンチに架ける必要があったのだろうか。

すでに彼は安定した大規模の牧場、農地を所有していたのだから、いくら川沿いの水の利のある土地をケイトとジェイムスが得たとしても、蚊に刺されたほどの痛みもなく、損失を与えるものではない。それでもなお、彼にケイトとジェイムスを殺さなければならない理由があったのだろうか。議員である彼が、リンチに直接参加したその動機が掴めないのだ。

アンチ牧畜男爵キャンペーンとして、大牧場主と政治家の癒着をジェイムスがデンバーの新聞に書きたて、弾劾していたことに対しての反発、反感をキャプテン・ロバートが抱いていたことは想像できる。

リンチに参加した後、リンチ組は全員無罪、お構いなしになったが、仲間で一番高いツケを払わされたのはキャプテン・ロバートだった。

当時から、リンチ犯の無罪判決はとてつもなく大きな反響があり、無法ワイオミングを人々に印象付けた。人の口に蓋はできない。世評、評判で生きている政治家にとって、たとえ無罪判決が下ったとしても、次期選挙で勝つことは想像外のことだった。

女を吊るしたあのキャプテン・ロバートを、ケイトの死体を背に担ぎ歩いているような人間を議員として選ぶわけがない。投票する大多数は、開拓民、牧童、町で小さな商売を営む人たちなのだから。リンチ事件をきっかけに、キャプテン・ロバートは彼が築いてきたワイオミングでの政治的キャリアを諦めなければならなかった。

主犯格のボスウェルはカリフォルニアに移り、コナーはペンシルバニアへ、トム・サンは子供に農場を譲りデンバーへ、ジョン・ダブリンは最後までワイオミングの牧畜産業に関わってはいたが、直接表には出ず、隣のコロラド州、デンバーへ移住した。

キャプテン・ロバートも長くスィートウォーター流域に留まることができなかった。彼はワイオミングに所有する土地、企業、すべてを売り払い、その巨万の富を元に、アーカンソー州、リトルロックで銀行を開業している。ワイオミングで作り上げた膨大と呼んでよいほどの財産を元手に銀行家、金満家として1939年まで生きた。享年95歳。彼が邸宅を構えていたアーカンソー州、パインブラッフの町に、彼の子孫は引き続き住んでいる。

-…つづく

 

 

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佐野 草介
(さの そうすけ)
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海から陸(おか)にあがり、コロラドロッキーも山間の田舎町に移り棲み、中西部をキャンプしながら山に登り、歩き回る生活をしています。

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第4回:カトル・ケイト
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第5回:カトル・ケイト
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第6回:カトル・ケイト
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第7回:カトル・ケイト
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第8回:カトル・ケイト
~牛泥棒と決め付けられリンチへ

第9回:カトル・ケイト
~ジェイムスも一緒に連行される
 
第10回:カトル・ケイト
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第11回:カトル・ケイト
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第12回:カトル・ケイト
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